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ヤンデレ幼馴染に監禁されたけど、快適すぎた。  作者: ChaCha


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まぁ、うん。ルシアンだから

最初に感じたのは、やわらかさだった。


沈み込む。

包まれる。


身体の力がどこまでも抜けていくような、信じられないほど上質な寝心地。


私は重たいまぶたをゆっくりと持ち上げた。


天蓋。

淡い朝の光。

きめ細かいシーツ。

肌に触れる布の感触まで、妙に贅沢だ。


あれ……?


頭の芯が、まだ少し鈍い。


何か、とんでもなく嫌なことがあった気がする。

夢じゃなくて、もっとこう、現実の温度を持った何かが。


身体を起こそうとして、足をわずかに動かした、その瞬間。


ちゃり……。


左足首で、冷たい金属音が鳴った。


私はぴたりと動きを止める。


視線を落とす。


白いシーツの上。

自分の肌に、ぴたりと噛み合った銀の輪。


見覚えはない。

ないのに、それがただの飾りではないことだけは、ひどくはっきりわかった。


やけに高い魔力の密度。

皮膚の上で静かに沈んでいる冷たさ。

そこから細く滲み続ける、あまりに見慣れた魔力の気配。


左足首。


絶対的な独占。

逃がさないための印。


そこまで理解した瞬間、昨夜の記憶が一気に押し寄せた。


銀の輪。

ルシアンの手。

熱い声。

永遠の施錠。


……あっ、これ夢じゃなかった。

現実だ。


昨夜の、あの悪夢みたいに重たい出来事は、ひとつ残らず現実だった。


かちゃり、と。


ノックもなく、寝室の扉が開く。


「おはよう。リナ」


私は反射的に顔を上げた。


そこに立っていたのは、満面の笑みを浮かべた私の婚約者だった。


ルシアンは手にしていた銀のトレイを、ベッド脇の小卓へ静かに置く。


淹れたての紅茶。

軽食。

果物。

それから、私の大好きなマカロンまで添えられている。


香りまで完璧だった。


湯気の立ち方すら、腹立たしいほど整っている。


……なんで監禁の翌朝の朝食が、こんなに上質なの。


私はベッドの上でそっと居住まいを正し、できる限り穏やかに、でも最大限に圧をこめた笑顔を向けた。


「……どうなってるのかな?」


ルシアンは少しも怯まず、穏やかな顔のまま答える。


「あのままだと、リナは危険だった」


その声音に、昨夜の熱がまだ薄く残っている気がした。


甘いのに、逃げ道がない。

そんな響き。


私は無意識に、左足首の銀へ視線を落とす。


「……初対面でいきなり魅了なんて、普通は想定しないでしょう。あれは不可抗力よ」


先に言い切っておいた。


私の意思じゃなかった。

そこだけは、きっちり通しておきたい。


ルシアンは小さく目を細めた。


「ふっ……。そいつは、ちゃんと報いを受けた」


その瞬間だけ、彼の顔から温度が消えた。


ひどく冷たい。

静かすぎるくらい静かな、あの昨夜の顔だ。


背筋がうっすら粟立つ。


「え?」


思わず聞き返すと、ルシアンはすぐに元の柔らかな表情へ戻った。


「漏れ出ていた魔力が安定するまでは、この部屋から出す気はない」


やっぱり。


あの禁術、完全に発動している。


私は足首の銀を見つめたまま、そっと呟いた。


「……魂。繋がっちゃった?」


「あぁ。もう俺たちは、ふたりでひとつだ」


重い。


めちゃくちゃ重い。


言葉の質量だけで、毛布もう一枚かけられたみたいに重い。


なのにルシアンは、今にも花でも飛んできそうなくらい嬉しそうだった。


なんなの、この温度差。


私は長く息を吐く。


「……いつも、私を助けてくれてありがとう」


これは本心だ。


重い。

怖い。

いろいろおかしい。


でも、助けられているのも事実だった。


「当たり前だ」


即答だった。


しかもその顔が、ほんの少し得意げに見えるのが地味に癪だ。


さて。


状況の深刻さは深刻さとして、生理現象は待ってくれない。


私はトイレへ行こうとして、ベッドから足を下ろした。


裸足で床に触れる。


ひやり、とした感触が足裏を這う。

その向こうで、左足首の鎖がかすかに鳴った。


……立てる。

歩ける。


私は扉へ向かって、一歩、二歩と進んだ。


そして、部屋の境界線を越えようとした、その瞬間。


――ふっ、と。


何の前触れもなく、全身の力が抜け落ちた。


「へ?」


膝が折れる。

立っていられない。


床へ倒れ込む、と思った瞬間、背中から強い力で抱き留められた。


「……どこへ行く気だ?」


耳元に落ちた声は甘かった。


甘いのに、背筋を這うみたいに低い。


「お、お手洗いに……!

 言わせないでよっ」


顔が熱くなる。

恥ずかしいし、腹立たしいし、いろいろ最悪だ。


ふっ、と。


ルシアンの腕の力がわずかに緩む。


すると、さっきまで嘘みたいに消えていた力が、するりと足へ戻ってきた。


私はゆっくり呼吸を整えながら、振り返って彼を見る。


「ルシアン……ねえ。これ、どうなってるの?

 私、今、完全に力が抜けたんだけど」


「……大丈夫だ。気のせいだ」


ちがうよね?


絶対ちがうよね?


私がじとっと睨むと、ルシアンは露骨に視線を逸らした。


しかも、あろうことか、ほんのり頬まで赤い。


何その反応。

呆れるんだけど。


これ、やれやれで済ませる話じゃない。


つまり何。


ルシアンの許可――いや、たぶん魔力が働かないと、私は文字通り一歩も歩けないってこと?


それって。


それってもう。


かなり本格的な監禁仕様では?


やばい。


やばいよ、これ。


頭の中で警鐘ががんがん鳴る。


昨日までの私なら、もっと本気で青ざめていたはずだ。


でも。


目の前には、湯気の立つ最高級の紅茶。

私の好きなマカロン。

部屋の温度まで快適に保たれた寝室。


それに、私が少しでも顔をしかめればすぐ世話を焼こうとする幼馴染兼婚約者。


危険だ。


十分すぎるほど危険なのに、父や母や騎士や魔術師まで見てきた今となっては、この異常さが妙に“整って”見えてしまう。


最悪だ。


最悪なんだけど。


……でも、ルシアンだから。


雑に安心していい相手じゃない。

ないんだけど。


この人は本気で、私を守るつもりで。

閉じ込めることまで愛情の延長だと信じていて。

しかも、たぶんこれからも紅茶の温度ひとつまで完璧にしてくる。


頭では駄目だと思う。

思うのに。


感覚のどこかが、それを非常事態として処理しきれない。


比較対象が悪すぎるのか。

積み重ねが厄介すぎるのか。


自分でも嫌になるくらい、警戒心が鈍る。


ヤバい。


ヤバいんだけど。


……まあ、ルシアンだから、

最悪の中ではまだ一番マシかもしれない。


そう思ってしまった時点で、たぶん私もだいぶ駄目だった。




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