川の字で眠る夜。なお私は寝たフリである。
結局、私は両親の間に挟まれる形で、巨大な天蓋付きベッドに横たわっていた。
いわゆる「川の字」だ。
これ以上ないほど守られているはずなのに、私の肌はさっきから、微かな寒気を感じ続けている。
右からは母が、私の髪を指先でくるくると弄ぶ感触。
左からは父が、私の手を逃がさないように――それでいて壊れ物を扱うような慎重さで、そっと握り込んでいる。
……いや、寝にくいわ!
いくらなんでも密着しすぎだ。
だが、誘拐に次ぐ誘拐で疲れ切っていた私は、そんな違和感さえ押し流されるように、いつの間にか深い眠りへと落ちていた。
どれくらい時間が経ったのだろう。
ふと、妙な胸騒ぎに引き上げられるように目が覚めた。
時計の針が刻む音さえ聞こえない、静寂に沈んだ深夜。
「…………」
視線を感じる。
それも、一つや二つではない。
射抜くような、刺すような、
それでいてじっとりと熱を帯びた、逃げ場のない視線。
私は恐る恐る、ほんのわずかに目を開け――
そして、凍りついた。
暗闇の中。
隣で眠っているはずの両親が、二人揃って上体を起こし、
じっと私の顔を覗き込んでいた。
「……あぁ、本当に可愛い……私の愛しい子」
母が、吐息をこぼすように囁く。
その瞳は一点の曇りもなく私を捉え、瞬きすらしていない。
「一分一秒も逃したくない。リナ。お前が吸い込む空気まで、すべて私の管理下に置きたい」
父の声は、昼間の威厳など影も形もない。
ただひたすらに、渇望に震えていた。
二人はまるで、深夜の美術館で禁じられた至宝を前にした観客のように――
あるいは獲物を前にした捕食者のように――
暗闇の中で、瞳を爛々と輝かせている。
「愛しいリナ」
「可愛い子」
「ずっと一緒だ」
「どこにも行かせないよ」
交互に繰り返される、呪文のような愛の囁き。
その視線が触れる場所が、じりじりと熱を帯びていく。
そして――
二人の視線は、一度も、私から外れなかった。
待って。
これ、やっぱりおかしい。
いくら親馬鹿でも、寝ている娘を無言で数時間ウォッチングするのはホラーの領域でしょ……!
あまりの恐怖に、私は寝たフリを続けることしかできなかった。
扉の外には、
ストーカー気質の婚約者。
拉致監禁を狙った騎士。
隠し通路から侵入してきた管理人。
馬車を操り、連れ去る気満々の御者。
そして――深夜に娘を凝視する両親。
……あれ?
もしかして、一番まともなの……
消去法でルシアンだったりする……?
その考えが頭をよぎった瞬間、胸の奥がきゅっと縮んだ。
私は震える心を必死に押し殺し、
ただ、夜が明けることだけを祈り続けた。




