もう笑うしかない
私は、何度目か分からない
「頭を抱えるポーズ」をとる。
これはもう、勝手知ったるお馴染みの誘拐である。
慣れた手つきでドアに手をかけ、一応、確認する。
ガチャガチャ。
「でっ! すっ! よっ! ねぇー!!」
確信。完全なる密室。
この馬車に私が乗り込み、そのまま走り去ったことは、周囲の誰かが即座に気付いてくれているはずだ。
……大丈夫だ。うん。
……大丈夫だよね?
「三度目の正直」なんて言葉があるけれど、まさかこのまま拉致が成功したりしないよね!?
誰にとも知れない確認を空中に投げ、
盛大に溜め息を吐き出した、その瞬間だった。
ドォーン!
バキャバキャッ!!
凄まじい衝撃と破裂音が響き、馬車が大きく傾く。
「きゃあああーっ!!」
悲鳴と共に、無理やり抉じ開けられたドアの向こうに、
救いの――
あるいは 執着の権化 が現れた。
「リナ!」
「ルシアン〜〜!!」
私は考えるよりも先に、
馬車の座席からルシアンの胸へと全力でダイブした。
「ぐはっ……!」
さすがに勢いをつけすぎたのか、
彼は一瞬呻いたけれど、
その腕は岩のように強固に私を受け止めてくれた。
「もーやだぁー! 次から次へと、本当に無理! 心臓がもたない!」
「……だから、言ったじゃないか。片時も俺から離れるなと」
叱るような声のトーンとは裏腹に、私を包み込む腕は驚くほど優しく、そして暖かかった。
ふと視線を外に向けると、ルシアン率いる精鋭魔術騎士たちが、地に這いつくばった御者をこれでもかと踏みつけていた。
二度見したけれど、
やはりめちゃくちゃに踏みつけられていた。
ゲシゲシ、と規則正しい音が聞こえてきそうな勢いで継続されている。
「る、ルシアン……。御者さん死んじゃうから。そろそろ踏むの、止めてあげて……?」
「……リナを俺から奪おうとする羽虫は、早めに駆除しておいた方が安心だろう?」
ルシアンの返答は、どこまでも冷ややかで無慈悲だ。
「ルシアン……怖い……」
思わず漏れた私の呟きに、ルシアンの肩がビクッと跳ねた。
「…………やめろ。生かしておけ」
「はっ! かろうじて、まだ息はしております!」
虫の息ってやつだ、これ!
私はその光景にガクガクと震えながら、
ルシアンの「物理的な愛の重さ」を再確認するハメになった。
その後、私は改めてルシアン専用の馬車へと移され、
一路、王都を目指すことになった。
もちろん、彼の腕の中にこれでもかと抱き締められたまま。
(……結局、一番逃げ場がないのはこの腕の中なのよね……)
心地よい揺れと、離してくれる気配のない体温。
私は、もう抗う気力さえ失い、静かに目を閉じるのだった。




