一緒に寝れば安心だ
私は必死に、先ほど寝室で起きた出来事を両親にぶちまけた。
驚愕に目を見開く両親。
管理人は代々この洋館を任せてきた、家系ぐるみで信頼の厚い人物だったらしい。
それがまさか、深夜に隠し通路から令嬢の寝室へ忍び込み、心中を迫るなど……。
「……リナ。今すぐとはいかない。せめて夜が明けるまで待てるか?」
父は沈痛な面持ちで、私が連れてきた護衛騎士へ即座に指示を出す。
そうよね。
騎士団は私の誘拐騒動で高原中を駆けずり回り、疲労困憊だ。
馬も準備も整わない中、深夜に強行軍を強いるのは、さすがに我儘が過ぎる。
「……あ、そうですよね。取り乱してしまって、ごめんなさい」
父が静かに腕を広げる。
「おいで、リナ」
その隣で、母も優しく微笑んだ。
「愛しい我が子」
両親にぎゅっと抱き締められ、
ようやく冷え切っていた体温が戻ってくるのを感じる。
「そうだわ! 今日はこのまま、三人で一緒に寝ましょう」
母の提案に、父も即座に頷いた。
「そうだな」
父は数歩歩み寄り、壁に飾られていた名剣を手に取ると、無言でベッド脇に置いた。
……ガチである。
母がベッドに入り、ポンポンと私の座る場所を叩いて呼んでくれる。
見た目は美少女。
中身は大人の私だけれど、このむず痒くて温かい幸福感には抗えない。
「お父様、お母様、ありがとう。私、二人の娘になれて本当に嬉しい」
◇
翌朝、管理人の姿は館のどこにも見当たらなかった。
昼食の席で、合流したルシアンと顔を合わせる。
昨夜の微妙な空気を察したのか、ルシアンは穴が開くほど私をじっと見つめてくる。
(やめてよ。私はただ寝てただけだよ?
私が禁術を拒んだから自業自得だとか、そんなこと思ってるんでしょ?)
居たたまれなさに視線を泳がせていると、ルシアンが低く告げた。
「……リナ。王都へは俺の馬車で帰るぞ」
「両親と一緒の馬車がいいな……なんて……」
ルシアンと二人きりの閉鎖空間。
説教されるか、あるいは被験者としてベタベタと観察されるか。
どちらにせよ、ツラい未来しか見えない。
「……俺をなんだと思っている」
「えっ! 声に出てた!?」
「顔に出てる。……手は出さない。……今はな」
「『今は』って言った!!」
そんな私たちのやり取りを、両親はなぜか「仲睦まじいわね」と言わんばかりの微笑ましい目で見守っている。
違う、助けて。
館の前では、慌ただしく荷が積まれ、王都へ戻る準備が進んでいた。
「お嬢様、もう準備はお済みですか?」
声をかけてきたのは、見覚えのある御者だった。
「ええ、多分そうね。皆が頑張ってくれたおかげだわ」
「お先に馬車に乗られてお待ちになりますか?」
周りを見渡すと、忙しく立ち働く使用人たちの中で、手持ち無沙汰な私は、ただ邪魔なだけのように思えた。
「……先に馬車で待っていると、両親たちへ伝えておいてくれる?」
「お任せください」
御者が差し出した手に、そっと手を添えて馬車へ乗り込む。
ふかふかの座席に腰を下ろすと同時に、背後でドアが閉まった。
カチャリ。……ガチ。
ん?
今、外から鍵をかけるような、嫌な音がしなかった?
カタン……
「えっ」
私の困惑を置き去りにして、馬車が揺れた。
ゴトゴト、ガタゴト……。
窓の外を流れる景色が、
ゆっくりと、けれど確実に加速していく。
もーやだ。
ほんとに……。
なんでぇ……!?




