表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤンデレ幼馴染に監禁されたけど、快適すぎた。  作者: ChaCha


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/96

騎士とてぇーたいむ。

丸太小屋の窓はすべて固く閉ざされ、昼だというのに室内は薄暗い。


暖炉の火だけが赤く揺れ、壁に掛けられた狩猟道具の影が、獣の牙のように伸び縮みしている。


「救出」という名の誘拐。


このままここに閉じ込められていたら、いつ「初夜(仮)」という名のゴールテープを切られるか分かったものではない。


私は、暖炉を静かに見つめている彼へ、精一杯の営業用スマイルを向けた。


「あの……私、空気がこもった場所って、あまり得意じゃなくて。高原の風を感じながら、紅茶でも飲めたら嬉しいなって」


一瞬、騎士の目が大きく見開かれる。


「――ええ、もちろんです。リナ様の願いとあらば、喜んで」


その声音は、舞踏会でダンスを申し込まれたかのような晴れやかさだ。


彼は軽やかに扉を開け、私を外へとエスコートする。


外気が頬に触れた瞬間、肺の奥まで冷たい高原の風が流れ込み、私は内心で小さくガッツポーズを決めた。


森の開けた場所。


木漏れ日が金色の粒となって降り注ぎ、草の上には柔らかな光の斑が揺れている。


彼が淹れてくれた紅茶は意外にも香り高く、湯気が淡く空へ溶けていく。クッキーは素朴な甘さで、サクリと軽い音を立てた。


目の前では騎士が滔々と語っている。


「あなたをどれほどお慕いしているか」

「ルシアン様の愛がいかに歪んでいるか」

「この森で二人きりの未来がどれほど尊いか」


……重い。


クッキーが喉を通らないほど重い。


足元では、私の魂に惹かれたらしいリスやウサギ、さらには鹿までが集まり、まるでお伽話のワンシーンのような光景が広がっている。


「少し失礼します。夕食の準備を」


彼は爽やかに立ち上がると、数分後には向こう側で鹿と猪を鮮やかに仕留めて戻ってきた。


……食材確保の手際が良すぎる。頼もしさと恐怖が同時に押し寄せる。


私は紅茶をもう一口飲み、肩に止まった小鳥へクッキーの欠片を差し出した。


「ねぇ、鳥さんたち……。もしできたら、一斉に羽ばたいて空を舞う姿、見せてくれないかなー……なんて」


ぽつりと呟く。


もし鳥たちが一斉に騒げば、この場所は目立つはずだ。

混乱に紛れて逃げられるかもしれない。


(まあ、リスの時に失敗してるし、どうせ無理よね)


半ば願掛け、半ば諦め。


その瞬間。


「ピィィィィィイイイイイ!!!」

「ピィ! ピィピィピィー!!」


一羽の絶叫を皮切りに、森全体が爆ぜた。


何百、何千という鳥たちが一斉に空へ舞い上がり、高原の青空が鮮やかな影に覆われる。


「えっ……ちょ、通じた!? 通じたけど!!」


次の瞬間。


その大群が一直線に、私へ急降下。


バッサーーーー!!!


「うわぁっ!? 羽! 羽が口に入る!!」


視界は羽毛で真っ白。

私は完全に「鳥の巣」状態だ。


私の願いを「全力で踊れ」と受け取ったらしい鳥たちは、猛烈な勢いで旋回を始める。


「リナ様!? 何事ですか、これは!!」


獲物を抱えたまま、騎士が血相を変えて駆け寄る。


阿鼻叫喚の羽毛パーティー。


だが、その混乱の極地で。


周囲の空気が、甲高い音を立てて震えた。


キィィィィン……


鳥たちの狂騒が嘘のように、世界から音が消え去った。


次の瞬間。


バキバキバキッ!


乾いた破裂音が森を裂く。


すぐ近くの樹木が、幹の内側から真っ白に染まり、氷の彫刻と化したまま砕け散った。


空気が、痛い。


息を吸った刹那、肺の奥がひりつく。


さっきまで暴れていた鳥たちが、空中でぴたりと止まる。


羽ばたきの音が消える。


……静かすぎる。


一拍。


次の瞬間、群れは本能に弾かれたように四方へ散った。


抜け落ちた羽毛が、雪のように降る。


その向こう。


立ち込める白い霧の奥に、人影。


氷の粒が、足元でかすかに軋む。


昏い紫の瞳が、まっすぐこちらを射抜いていた。


「――やはり、君の周りには“害虫”だけでなく“外敵”も寄り付くようだね。お陰で座標の特定が容易だったよ」


低い。


静か。


怒鳴っていないのに、鼓膜が震える。


森が、息を止める。


「……ルシアン……!」


喉に引っかかった羽のせいで、声がうまく出ない。


それでも、手が勝手に伸びる。


うざい。


重い。


執念深くて、怖い。


それなのに。


今は。


今だけは。


この世の誰よりも自分を追い詰めるはずのこの人が、


世界でいちばん安全な場所に見えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ