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ひとへに風の前の塵に同じ・転  作者: 佐竹健


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第9話 平家⑤─西光─


   1


「お前たち、よく来てくれた」

 清盛は作戦の概要を伝えるため、信の厚い時子との間に生まれた三兄弟を呼び出した。

「此度のご用は何でございましょうか」

 清盛の三男宗盛は、作戦の概要を聞いた。

「法皇様が、平家を討とうとしているそうだ」

「何と!?」

 時子との間に生まれた三兄弟は困惑した。平家は武力・財力面で代々朝廷に尽くしてきた。なのに、なぜ、平家を討とうとするのか?

「そこでお前たちに、怪しげな企てをする院近臣どもをひっ捕らえてもらいたいのだ。できれば、あの糞坊主、いや法皇を自宅兼御所の寺にでも押し込めてやれ」

「法皇様を、押し込める!?」

 知盛は困惑した。まだ策謀ばかり巡らす小賢しい院近臣をひっ捕らえて地方に島流しにしろまでは分かる。だが、法皇様を院御所に押し込めてやれなど、前代未聞もいいところではないか……。

「まあ気が進まないよな。でも、やらねば平家が持たん。やるしかない」

「はい……」

 渋々ではあるが、知盛は納得した。

 清盛は重衡の方に視線をやり、

「重衡、『迦具土の生まれ変わりの力』とくと見してやれ」

 と言った。

「父上がお求めとあらば、この神通力(ちから)とくと使わせていただきましょう」

 自信満々に、重衡は返した。


    2


 俊寛、平康頼、藤原成親……。行綱の告発により名前の出た陰謀関係者は、次々と捕らえられた。

 最も間抜けだったのは、成親である。逃亡しようとしたときに六波羅を通ってしまい、そこで即お縄となった。

「そうか……」

 屋敷にいた西光は、従者からあの夜の鹿ケ谷での密会関係者が次々に逮捕されているのを聞いた。誰が言ったかわからない。が、やはり静憲の言うように、どこかに「裏切者」がいたのだろうか。

「因果応報、か」

 過去に犯した過ちを思い出した。自分はあのとき師である信西を売った。そのことで殺されずに、生き延びた。それも院近臣という形で。

(私が捕まったら、みんなの意思を引き継ぐ者がいなくなる)

 もうそんな自分は嫌だ。

「ここにいても時間の問題。逃げるぞ」

 西光は心を決め、山伏に変装して自邸から逃げることにした。目指すは大和の興福寺。風の噂によれば、ここは摂関家との所領の件や松殿家との一件で、反平家だそうだ。もし本当なら、匿ってくれるやもしれない。

 一縷の望みを賭け、南へ進む。

 だが、途中平家の一団とすれ違った。

「お前が、西光か!?」

 武者の一人が問いただした。

「そうだが、何だ!? 今から法住寺の法皇様に言伝あって急いでいるのだ」

「行かせん」

 武者が出ようとしたとき、大鎧を着た重衡が制止し、首を横に振った。

 武者はその意を察し、出るのを辞め、数は引き下がった。

 その他の武者たちも、引き下がっていく。

 後ろを振り返った重衡は、

「行かせねぇよ」

 と言って大手を振った。

 その瞬間、彼の身体から炎が立ち上り、周りに火の壁が広がった。

「これで、逃げられねぇな」

「そんな火恐れることはない!!」

「これでも、か?」

 重衡は弓を射るポージングをした。

「こんなことをして、何ができるってんだ!?」

 西光は叫んだ。弓も矢もないのに、こんなことをするのはどうかしている。

「火弓」

 重衡が技名を詠唱した瞬間、炎の線が彼の袖を貫いた。袖についた炎は燃え盛り、彼の着物を燃やし尽くしていく。

「あちぃッ!!」

 西光は倒れ、のたうち回った。そうしているうちに、法衣の火は鎮まった。

「逃がさん!!」

 重衡は炎そのものとなり、西光の前に迫った。

「どうする? このまま焼き殺されて灰になるのがいいか、もう少し生きたいか?」

 二択の問いを放った。

(畜生……)

 西光は考えた。炎を操る目の前の平家の若造には勝てない。仮に挑んだところで、焼き殺されて火葬されるのが関の山だろう。でも、自分が生きなければ、意思を継ぐ者がいなくなってしまう。同時に自身の身の終わりも悟った。酔いに任せてあのようなことをしたから、確実に生きては帰れない。流罪になっても刺客を放たれて殺されることだってあり得る。

(仕方ない。かくなる上は、奴に思いのたけを全部ぶつけるまで)

 意を決した西光は大手を上げ、

「いいだろう。捕まってやる」

 と低い声で言った。

「よし、ひっ捕らえろ」

 重衡は部下に命じ、西光を捕縛した。


   3


 捕らえられた後、西光は清盛の前に引きずり出された。

 清盛は小烏丸を刀掛けに置き、椅子に足組んで庭に筵無しで縄にかかった西光を見下ろしている。

 睨みつける西光。

 清盛は椅子から降り、小烏丸を持った。階を折り、西光の方へ近寄り、

「お前か、瓶子のが倒れたと言った挙句その首を鉄扇で叩き割ったのは?」

 縛り付けられている西光の頭を思いっきり踏みつけた。

 西光は痛がる様子も見せず、ひたすら耐える。

「なぜ、そうした!?」

 清盛が聞いた。

 清盛の方を、きっ、と睨みつけて西光は堂々とした口調で、こう答えた。

「俺はお前の若い頃を知っている。ただの武士だったよな。12の時にご立派な官位貰って騒がれてたな。そのくせ、14、5になっても殿上には上げてもらえず、親父の功績で四位にしてもらってやがらぁ。親父も親父だ。殿上人になっても、身内以外の殿上の者たちとは交わらずにいた。そんな奴を、お前のよく知る信西入道は買っていた。不思議で不思議でならなかったよ。ある日どうしてあんな奴の子供を高く買うのか聞いたよ。そうしたら『あいつには人を思いやる心がある。あいつなら、私の理想を現実にしてくれるだろう』って。日頃の行いを見ていて、実際そうなのではないか? と思ったことはあった。だが、今のお前のやっていることはどうだ!? 私の師の理想とは、真逆の道を行っているではないか!!」

 西光の口上を全て聞き終えたあと、清盛はしばらく黙り込んで、

「言いたいことは、まだあるか?」

 と聞いた。

「無い」

「ほーう。潔よいな。そんなお前に、冥途の土産に教えてやろう」

 西光の毅然とした態度を評した後、清盛は小烏丸を抜いた。そして大上段に構え、

「清盛ならもう死んだ。俺は将門、いや、妙見菩薩さ。こいつの肉体を使って顕現したな」

 そのまま西光の口を斬り、続けざまに彼の首も斬った。

(これで、いいんだ……)

 因果応報。師を売った自分への。でも、今、その師が可愛がっていた少年が大人になり、間違った方向へ進もうとしている。それを止めようと命をかけた。師を売った事実が消えるわけでもないし、罪が赦されるわけでもない。でも、今回は仲間を裏切らなかった。

 首が地面の下に落ちたとき、師である信西の姿が見えた。

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