↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひとへに風の前の塵に同じ・転  作者: 佐竹健


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/11

第6話 平家②─殿下乗合事件─


   1


 あれから数年後。平家はさらに巨大なものとなっていた。

 北海道や沖縄を除いた日本全国の半分を知行地にし、各地にその被官となっている豪族や武家がいた。

 それだけではない。父忠盛の代から引きついた日宋貿易により、大量の宋銭や渡来の品といった財を蓄えていた。さらにそれを献上し、朝廷への財政をも抑える大財閥と化していた。

 ここまでめざましい発展を遂げたとなると、苦い顔をする者たちもたくさん出てくる。

 清盛に受肉している将門は、14、5才くらいの孤児を集めた。そして彼らの髪型を禿(おかっぱ)にし、赤い直垂を着せて、養う代わりに自身や平家の悪口を言う者たちを懲らしめてやれと命じた。

 平家の執政に表立って悪口や不平不満を言う者は、誰もいなくなった。

 現在清盛には将門の魂が体を乗っ取っているため、どちらを呼べばいいか混乱するかもしれないので、とりあえず特別な場面でない限りは今まで通り「清盛」で表記していくことにする。


   2


 敵なしとなった平家。だが、その根幹を揺るがす事件が起きた。

 ある冬の日、清盛の孫の一人で重盛の次男にあたる平資盛(たいらのすけもり)は、30人ほどの供回りを率いて、鷹狩を催した。

 枯れた木の梢に積もる白雪。冷えた風に舞う枯れすすき。冬景色である。

 藍鼠色の空を放たれた鷹は悠々と駆けていく。そして積もった雪の上を駆ける兎などを狩り、主人の元へと帰っていく。

「獲れなかったな」

 残念そうに資盛はこぼした。

「そりゃこの寒さでございますし、兎も出たくはないのでしょうな」

 鷹匠は残念そうに答えた。

「言われてみれば、な」

「京の底冷え」というように、盆地の京都の冬は寒い。日々逞しく生きている動物たちも、さすがにこの寒さでは出たくないのであろう。みんな洞穴の中で春を待っている。

「まあいい。これだけあれば、父も喜んでくれよう」

 獲物こそは少なかった。が、これだけあれば十分だろう。

 満足しながら、一行は家へと帰っていった。


 資盛の一団は洛中を経由して帰ったのだが、途中大炊御門の通りの猪熊という場所で、牛車を引いた集団と鉢合わせた。主人のものと思われる車の車輪には、左に寄った三つの松の枝をデザインした家紋がある。

「そこを、どけ」

 従者の一人は毅然とした態度で、資盛率いる一団に注意を促した。

「お前たち、どこの者だ?」

 資盛は問うた。

「見てわからぬか、我々は藤原摂関家が分家、松殿家の者である。手前から名乗れというのはあまりに無礼。貴様は何だ!!」

「おれは入道相国の孫平資盛だ。誰のおかげで摂関家があると思ってる?」

「ああ、あの平家の孫か。そっちこそ、縁戚というだけで摂関家の領(しろ)しめす土地を奪ったコソ泥めが」

「喧嘩を売るとは、いい度胸してるじゃねーか、オッサン」

「貴様らこそ、あそびや歌に現を抜かして、下人ごときに負けたなんてなったら、話にならんな」

 基房に仕えている従者の一人はそう言って大笑いした。

「やるぞ」

 挑発に乗った資盛は、松殿家の従者と戦うことにした。たかが従者ごときにここまでコケにされたら、平家の男として、武士として、黙っていられない。

 資盛に続き、従者たちは鬨の声を挙げて松殿家の従者たちに飛びかかった。

 最初は互角に見えた。が、松殿家の従者の方が数が多かった。

 松殿家の従者たちは数の暴力をいいことに、資盛の従者を蹴散らした後に資盛本人を囲い、袋叩きにした後、烏帽子を奪って髻(もとどり)を切った。そして、鷹狩で狩った獲物を全て奪っていった。

 軽はずみな行動により、資盛は中世の男が最も受けたくない辱めを受けることとなった。


   3


 松殿家の従者らにリンチされた資盛は、そのまま六波羅へ帰り、祖父である清盛の元へと向かった。

 時忠と囲碁をしていた清盛は、血を流し、青く腫れあがった顔の孫の顔を見て、

「どうした、資盛? 酷いやられようではないか?」

 と驚いた顔で聞いた。

「実は──」

 資盛は夕方にあった一件を話した。

「ほーう」

 清盛は少し考えた後、

「俺には摂関家には恩がある。皆殺しにしてやりたい気持ちもあるが、こりゃお灸を据えてやらないといけないようだな」

 と聞いた。

「仇を、討ってくれるのですか!?」

「もちろんだ。可愛い孫がこんなに痛ぶられたとあっては、祖父として許しておけん」

「では、是非とも」

 資盛は祖父に自身の仇を討ってもらおうと懇願しようとしたときに、

「待った」

 父重盛が入ってきた。

「重盛ではないか? どうした?」

「資盛を預かりに来た。お前、松殿家の子息と喧嘩をしたそうな」

 厳しい口調で、重盛は用件を答えた。

「今、そのことで話してたのだ。資盛の仇を討ってやろうとな」

「まだ頼政殿や土岐(とき)家といった源氏にやられたなら、平家の恥をそそがんが為に戦うこともできましょう。が、相手は長年皇室とも血のつながりの深い摂関家。たとえ分家の松殿家相手であっても、礼は尽くすべきです。土岐家の光基(みつもと)はともかく、頼政殿がそのようなことをするようなお人ではないことは私もよく知っていますが」

「お前の息子がやられたのだぞ、悔しいと思わないのか?」

「そりゃ……」

 内心悔しい。が、これは、相手が何者か知らず、調子に乗って喧嘩しようとした資盛が悪い。痛い目にここで遭っておいた方がいい。

「父が言っても、それはできません。いや、やったなら、こちらも見限ります」

「親子の縁を切るか、上等だ」

「まあまあ二人とも落ち着きなさいな。ここは何とか言っとくからさ」

 険悪な空気になっている親子の間に、割って入った。

「時忠、任せた」

 重盛はそう言い残し、父のいる屋敷を出た。


「時忠」

 重盛が出た後、清盛は時忠の方を見合わせ、続ける。

「難波と瀬尾を呼べ。奴らに仕返しをしてやる」

・あそび……管弦。笛や琵琶などの楽器の演奏のこと。


・土岐家……清和源氏頼光流の一つ。美濃を拠点としていたことから美濃源氏とも。戦国時代に頼芸が斎藤道三に国を追われるまで代々美濃守護職を務めたことで知られている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。