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悪郎の幸福論  作者: ま行


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出会い

 幼いころの進と紗奈が出会った。紗奈が落としたのはジャスティスソードのキーホルダーで、学校で進と紗奈が仲良くなるきっかけとなったものであった。


「あれ?これお前のだろ?カバンから落ちたのを見たから拾ったんだけど」

「あ、う、うん。拾ってくれてありがとう…」

「いいよ。それよりすごいもの持ってるね!超レアものだよ!これ僕も欲しかったんだあ。でも高いからダメって怒られた。ケチだよな大人って」

「で、でもこれすごく高かったから、し、仕方ないんじゃないかな?」

「確かにそうかも…。サンタさんでも無理って言われたし。でもサンタさんっておもちゃ買うのかな?サンタさんにもお金って必要だと思う?実は大富豪なのかな」

「え、ええっとお…」


 幼き日の自分の会話を聞いて赤面し手で顔を覆う進。それとは別に悪郎は気になっていることがあった。


 どうして紗奈が一人でいるのか、これが気にかかっていた。剛輔は幼子を一人にするような親には思えなかったのだが、何か事情があるのだろうかと動向を見守る。


「ねえ、お前もジャスティスソード好きなの?じゃあやっぱり今日はジャスティスソードに会いに来たの?」

「うっうう…」

「えっ?ど、どうして泣いてんの?」

「うううぅぅ…」

「ま、待て待て、泣いちゃダメだって。えっと…、そうだ!」


 進は急に泣き出しそうになっている紗奈と少し距離を置き、ふっと気合を入れてからビシッとジャスティスソードの変身ポーズを決めて見せた。


「おお、よくできてる。これは相当練習したな」

「僕の得意技だからな。だけど今の方がもっと上手いよ」

「…過去の自分と張り合うなよ」


 得意げにする進に呆れ顔を向ける悪郎、そして変身ポーズを決めた幼い進が、精一杯低い声を使って話はじめる。


「涙は流すものじゃない。あふれてくるものだ」

「そ、それ、ジャスティスソードのセリフだよね…」

「そう!どんなに悲しいことがあってもジャスティスソードは泣かないんだ。ぐっと我慢してこらえて、誰も見てない場所でようやく我慢できずに泣くんだ。それまではみんなを不安にさせないためにも我慢するんだ。だから、えっと…、なんかよくわかんないけどお前も泣くな!」

「…まあ進にしては頑張った方じゃないか?」

「言いたいことは何となく伝わらない?伝わらないか…」


 紗奈を泣かせまいと元気づけようとする進の姿を見て二人はそう語った。これで大丈夫だろうかと心配していたが、必死な様子が伝わったのか、最後の方でしどろもどろになったのが面白かったのか、紗奈は少しだけ笑みを浮かべ涙をぐっとこらえて気を落ち着かせた。


「うん、そうだよね。ジャスティスソードは人知れず泣くんだよね」

「そうそう!こんな人がいっぱいのところで泣いたらかっこ悪いよ!お前の持ってるその超カッコいいジャスティスソードもきっとがっかりする」

「こ、これが?」

「そう!僕お父さんから聞いたことがあるんだ。ものって大切にすると、えっと、なんか、たまが宿るんだって言ってた」

「たま?」

「えっと…、たま…、なんとかが宿るんだって。よく分かんないけど大切なものだって言ってた」


 幼い進の物言いに首を傾げる紗奈の不思議そうな表情を、現在の進は見ていられなかった。またしても赤面する自分の顔を手で隠した。


「博識だねえ進くんは」

「もうやめてよお」

「いやいや俺は馬鹿にしないよ?…それに中々いいこと言うじゃあねえかよ。ちょっと見直したぜ」


 悪郎に「そうか?」と聞き返そうとした進だったが、その前に紗奈が言った。


「も、もしかしてたまって、魂のこと?」

「それだ!たましい、よく知ってるな!頭いいなお前!あ、いつまでもお前って言ってるのもひつれいだよな。僕は進って言うんだ」

「あっ、わ、私は紗奈」

「紗奈か!よろしく!それで、一人か?お父さんとお母さんは?」


 幼い進にそう聞かれた紗奈は、ようやく元気になりかけていたのにまた下を向いてしまった。


「ひつれいじゃなくて失礼な、過去の僕よ。それはともかく、やっぱ如月はなんか訳ありかな?」

「剛輔さんを知ってるだろ?こういう場所で子どもを一人にするような人じゃあない」

「だな。理由は聞けるかな?」


 二人はもう一度紗奈へ視線を向けた。俯いたままの紗奈は、固く拳を握りしめて涙をこらえている。さきほど進に言われたことを守って泣くのは我慢しているようだった。


「…ショーが見たかったの。ジャスティスソードに会いたかったの。でもダメだって…、ママが急に具合悪くなったから帰らなきゃって。だけど私どうしてもショーが見たくて、パパとママと喧嘩してここに来て、でも、こんなわがまま言っちゃダメだって分かってるのに…」

「そっか…。それは帰んなきゃダメだな。紗奈のお父さんもお母さんもきっと紗奈のこと心配して探してる」

「でも私ひどいこと言っちゃった。きっと許してくれないよ」

「そんなことないよ!ちゃんと謝れば絶対許してくれる。僕を信じろ!」


何を根拠にと進は思ったが、それでもその堂々とした物言いは、不安を払拭させるのに十分な効果があると自分のことながらそう思えた。実際に紗奈も、断言する言葉を聞いて安心したのか、顔を上げてゆっくりと頷いた。


「…うんそうだよね。進くん私戻るね、パパとママを探しに行かなきゃ」

「えっ?ひ、一人で大丈夫か?」

「大丈夫。迷子になった時に行くところは教えてもらってるし、まずはそこに行ってみる。ショーは見られないけど、そんなことよりママの方が大切だもん」


 紗奈がそう決めたころ、丁度通話を終えた登が進のことを探し始めていた。進は進で急いで父の元へと戻らなければならなかった。


「じゃあね進くん。これ、拾ってくれてありがとう。元々大切なものだったけど、もっと大切なものになったよ。私だけのジャスティスソードがついていてくれるから、もう泣かないよ」


 そう言って紗奈は振り返った。小走りで駆け出した少女の背に向かって、幼き日の進は両手を口の横にそえて声を張り上げた。


「ショーそろそろ始まるから!僕が紗奈に届くくらい大きな声で応援するから!ジャスティスソードが活躍したらどっかで僕の声が聞こえてくるはずだから!紗奈の分まで僕が応援するから!どっかで聞いててね!」

「…うんっ!」


 手を振り合う二人はそう約束して離れた。進は登の元へ戻ると、急いで会場に行こうと急かした。出会ったばかりの女の子との約束を守るために、進はショーの最中に周りの子たちよりも一際大きな声を張り上げた。




 再びショーの会場に戻ってきた進と悪郎、二人はもう一度ショーの様子を眺めながら立ち並んで話をする。


「お前があんなにふらふらになるまで応援していたのには、ちゃんと理由があったんだな」

「それで事故にあってたら世話ないよ。しかも僕そのせいでこれを忘れちゃってた訳でしょ?」

「事故が原因かは俺には分からん、医者じゃあないからな。むしろ紗奈がこれを覚えていたことが俺には驚きだけどな」

「だけど実際覚えていた。ってことは如月の方は僕のことを見た時から知ってたのかな?」

「それはどうかな。もしそうなら、紗奈の性格上向こうから接触がありそうだ。しかしそういうのはなかったんだろ?」

「なかった」

「じゃあ紗奈の方にも何かこれを思い出すきっかけがあったんだろう。それか言い出しにくい何かがあったか、どちらか分からないがそれはお前が本人に聞け」


 当初の目的である記憶を取り戻す魔法は完了した。悪郎が指を弾くと二人は元居た部屋へと戻ってきた。戻ってきても進の記憶はしっかりとあり、完璧なかたちで当時の記憶を取り戻すことに成功した。


 後はこれをどう紗奈に聞くべきか、それを進は悩んでいた。これを問うてきた時の紗奈の反応の仕方が、覚えていると言ってほしかったのか、それともただ思い出話として話したかっただけなのか。これがよく分からなかった。


 そうして進が思い悩む一方で、悪郎の方も一人静かに物思いにふけっていた。仲睦まじい様子の佐久間家を目の当たりにしたことで、より家族という関係性に悪郎の関心が高まった。


 それぞれがそれぞれの思いを抱えて夜は更けていく、紗奈に会ったらどうしようかと悩む進は中々寝付けずに天井を眺めていた。


 悪郎も進と同様に寝付けずに天井を眺める。悪魔としての自分と、悪郎としての自分、その二つの考え方のズレに思い悩み考えを巡らせていた。


 二人の眠れない夜はただ静かに続いていた。

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