友達
学校に復帰した進、契約を延長してそれについてきた悪郎、色々な経緯を経て晴れて二人はどちらもクラスから浮いた存在となった。ただし悪郎は敢えての行動でり、進の方とは事情が違った。
クラスメイトたちがいじめのことを謝罪して、それを進が受け入れたとはいえ、まだまだどこか引け目を感じずにはいられなかった。それが紗奈と葉月を抜いたクラスメイトたち全員の共通意識であった。
また面倒事を引き起こしてしまう可能性がある、その意識はすぐになくなるものではない。会話をすることもできるし、交流に支障をきたすことはないが、進がクラス内で避けられているのは事実だった。
それでも進は仕方がないと思っていたし、これを十分過ぎる成果だとも思っていた。もし仮に自分が同じ立場にいたとして、果たしていじめた相手に積極的に関わりにいっていただろうか、それを考えた時進ははっきり「しない」と断言できた。
元々誰かと積極的に関わり合いを持つ性格でもなく、いじめられる前から親しくする間柄はいても、友達と呼べる相手はいなかった。つまり進は、元来のぼっち気質であると言えた。積極的に心を開かなければ、相手にも心を開いてもらえない。しかしそれには向き不向きがある、進の場合はそれが不向きの方であった。
必然的にはみ出しものとなった進と悪郎は、一緒に同じ時間を過ごすことが多くなる。このままでは本当に家と何も変わらないのだが、ただ一人だけ、二人に対して積極的に関わってくるものがいた。
それは如月紗奈である。進たちは紗奈を加えた三人で一組のグループになっていた。殆どの場面で一緒に行動し、休み時間も三人で集まるようになった。クラスを飛び越え学年、それどころか学校中の人気者である紗奈が、どうして二人と一緒にいるようになったのには理由があった。
「改造超人ジャスティスソード?」
「そうそう!特撮ヒーロー!」
「これこれ!見て見て悪郎くん!」
紗奈は満面の笑みでキーホルダーを取り出して悪郎にぐいぐいと差し出した。進はこっそり持ってきていたジャスティスソードが描かれたクリアファイルを押し付けた。何故悪郎が二人から詰め寄られているのかと言うと、二人が知り合うきっかけとなったことを、何気なしに質問してしまったからであった。
「ジャスティスソードに変身する主人公の剣一閃は、悪の組織に両親を殺害されて、自らもその組織に捕らわれる。そこでは非合法の人体実験が行われていて、一閃も眠らされている内に改造人間に変えられるんだよ」
「洗脳され組織の手駒として使えるよう処置を施されている時、一閃は強い意志と両親を殺された怒りによって洗脳を跳ね除け、命からがら研究所を抜け出すの」
「だけど一閃の体は改造手術によって半身が怪物へと変わっていた。半人半怪の姿ではもう普通の生活には戻れない、そんな時…」
「待て待て!どっちも早口過ぎるから少し落ち着け!」
矢継ぎ早に交互でジャスティスソードの説明をする進と紗奈、その熱量に気圧された悪郎はたまらず止めに入った。
「ええ…、ここからがいいところなのに」
「盛り上がるのはいいが早口過ぎるんだよ。どうにかもう少しペースを落として話せないか?」
「ええ!?一閃が怒りと悲しみを勇気と覚悟に変える重要な場面を!?」
「悪郎!ここはすごく重要な場面なんだぞ!」
「お前たち二人のその熱量は一体何なんだ…」
それから悪郎は進と紗奈の二人からとうとうとジャスティスソードの魅力について語られた。しかし語った二人が満足げにしている一方で、聞かされ終えた悪郎はぐったりと疲れ果てていた。
話の半分も頭に入っていなかった悪郎は、二人から散々責められた挙げ句、全話の視聴と感想を述べることを求められた。悪郎は二人の圧に負けそれを了承し、改造超人ジャスティスソード全55話を視聴することになった。
悪郎は隣に進を置いて、殆どの時間をジャスティスソードの視聴に割いた。最初は一人盛り上がって解説をする進に辟易とする悪郎だったが、回が重なり視聴を続けるにつれて、悪郎の体は前のめりになっていった。
結局悪郎もジャスティスソードにすっかりハマってしまい、三人には共通の話題ができた。元から仲良くなる要素のあった進と紗奈、それに悪郎が加わり三人は友人関係となった。
葉月との関係は悪くなかったが、特撮に興味のない彼女は熱量の高いその輪の中に入ることはなく、外で様子を見守っていた。
紗奈と葉月は確かに友人ではあったが、葉月は紗奈の特撮好き趣味には理解を示せなかった。しかしお互いそれでいいと思っていたし、葉月の趣味に紗奈も理解を示すことはなかったが、決して互いの趣味を否定することはなかった。
葉月は紗奈が思いっきり自分の趣味を語る相手がいないことを申し訳なく思っていた。自分には趣味を語り合える相手がいたが、紗奈にはいなかった。だから進の存在は葉月にとっても喜ばしいことであった。
それ故に葉月は、結果的に紗奈から進を奪う結果になってしまった拓巳が行ったいじめに関与していたことに大きな罪の意識を抱いていた。いじめの決着がついた今、紗奈には進や悪郎と思う存分特撮趣味を語り合ってほしいと願っていた。
「いいや絶対に一番の名場面は2つ目の必殺技を開発したシーンだ」
「いやいやいや!絶対に初変身のシーンだって!」
「紗奈、お前の発想はありきたり過ぎる。初変身シーンに熱くなるのは当たり前だが、怪人化した子どもを救えなかった悲しみを越えて編み出される必殺技、その子の能力を乗せたバーストスラッシュを炸裂させた瞬間の燃え滾ることと言ったらもう…他にはないだろ!!」
「悪郎だってありきたりじゃん!ジャスティスソードの初変身はただの初変身じゃあないんだって!半人半怪になった自分がもう現代社会に戻れない悲哀、それでも正義のために立つと決めた覚悟、両親が残した研究成果を引き継いで自ら変身システムを開発する頭脳…たまんないでしょ!?」
「進っ!!」
「進くんっ!!」
二人から名場面について問われた進は、暫し考え込んだすえにゆっくりと口を開いた。
「いや僕が思う一番の名場面は、悪の組織の首領が一閃の父親だったと判明するところだと思うね」
「何だと!?…いや確かにその場面は誰もが認める名シーンではある」
「うーんそこを外せるかって言われると、確かに絶対外せないシーンよね。ジャスティスソードの正義が揺らいで葛藤する物語の転換点でもあるし」
「やるな進。中々渋いとこ突いてくるじゃあねえか」
「そこから盛り上がりも見せ場もたっぷりあるもんね、これを出されると中々反論し難いなあ。流石進くん」
三人はジャスティスソードの話題で盛り上がっていた。学校内でも人目につきにくい場所を探し出し、そこを集まる場所としていた。どうしても議論が白熱してくると人目を引いてしまうからだった。
そうでなくとも紗奈は見た目で人目を引く、そしてその注目度の高さは、話している内容や仕草の一つ一つなどを聞かれたり見られたりするなど、執心深いものだった。思わず目で追ってしまうような見た目と明るく隔てない性格は、否応無しに誰からも注目を集めてしまっていた。
だからこそ紗奈にとってこの三人の時間というのは、とても楽しくて大切なものになっていた。趣味を共有できる友人ができたこともあるが、進も悪郎も、見た目から紗奈と仲良くしようと判断した訳ではなかった。それが彼女には心地よかった。
「テメー言ったな進!それを言ったら後はもう拳で語るしかねえぞ!!」
「望む所だ!やってやろうじゃねえかよ!!」
「ちょっ!二人共喧嘩は駄目だよ!!」
「大丈夫だ紗奈、俺たちの拳は」
「こっちだから」
「「じゃんけんぽん!!」」
スッと拳を握りしめた二人はそのまま勢いよくじゃんけんをした。負けた悪郎が頭を抱えてのけぞり、勝った進はチョキの形のまま手を上に掲げた。紗奈はそんな二人のやり取りを、まるで兄弟のようだと思わず笑ってしまった。




