006
放課後になってもクラスの様子は変わらなかった。僕の知る限り、彼に話しかけることができたのは、白倉さんただ一人。ホームルームでもこの空気を打破すべく 先生が頑張って冗談を飛ばしていたが、いつものようにそれに乗る生徒は一人もいなかった。
僕が彼に一緒に帰ろうと言ったとき、彼は僕を見つめた。少し驚いたような表情だったと思う。
その帰り道、僕はいてもたってもいられず聞いた。
「君はあの事件の犯人なの?」
「そうだよ」
意外にも、即答されたことに僕は驚いて
「本当に?」
と何度も聞き返してしまった。
彼はそれがうれしかったのか、色々話してくれた。
「あの時は大変だったよ。家庭裁判所に送られたと思ったら、また検察官に逆送されたりで行ったり来たり。実名報道するマスコミはあったし…まぁ、あとで訴えて結構もらえたけどね。週刊誌も雑誌の売り上げが良かったみたいだから、彼らからすると痛くも痒くもない額みたいだけど」
苦笑とも思えない快活な様子に、僕は面を食らいっぱなしだった。
「なんで無罪になったの?」
「そりゃあ証拠がなかったからだよ」
「自首したんだよね確か」
「そうだよ。僕が殺しましたって自白してね。でも、自白だけじゃ有罪にできないのさ」
「他に証拠がいるの?」
「そう。でも実際何が必要かの判断は法律の専門家でないと難しいと思うね。例えば、殺人事件の場合、単なる死体の存在は証拠にならないんだけど、窃盗事件では、誰かに盗まれましたって被害届けがあるだけで証拠としては十分と扱われる。素人では対応できないんじゃないかな」
「ちなみに、僕が、君が犯人だってしゃべっていたと証言した場合はどうなるんだい」
「同じことさ、僕が言った内容を君が繰り返したにすぎないから、自白を補強する証拠にならないんだよ……」
「へぇー」
「……ふふ」
彼は僕の顔を見て笑った。
「何? 何か変なこといった?」
「いや、ごめん。なんかまるで殺人の準備でもしてるみたいに見えたからさ。随分興味があるみたいだし」
その時、僕の心臓は大きな鼓動を響かせた。全く身に覚えのない指摘に対して、的を射られたみたいに動揺した素振りを見せそうになった。
「……まさか! 神明君が体験したことに興味を持たない方がむしろ変だよ。皆色々聞きたいことあると思うよ」
「そうかな」
「そうだよ。でも、色々聞かれるの嫌だったら、もうやめるけど」
「別に嫌じゃないよ。むしろこんなこと話す相手がいることがうれしいね。他にも色々教えてあげるよ」
「じゃあ、なんで両親を殺したの?」
「……」
その質問に、初めて答えを詰まらせた。僕は自分で自分が馬鹿だと思った。出会ったばかりのクラスメートに対して、こんな失礼極まりない、無礼千万な質問をしてしまうなんて。
「そうだね……。自分の人生を歩むためかな。なんか抽象的で悪いね……」
彼が少し申し訳なさそうに答えてくれのが、僕にとってせめてもの救いだったと思う。




