005
「これはこれは岩国警部、ご苦労様です」
僕は恭しく出迎える。
「一体どういうつもりだ。なぜ彼女を死に追い込んだ」
「ああ、綾先さんの飛び降り自殺のことですか。さすがの僕も驚いているんです。失敗でした」
「詳しく聞かせてもらえるんだろうな」
「ええ、もちろん。僕なりに白倉さんの犯人を追っているんですけどね、それに関連して白倉さんについて、根も葉もない噂が流れていたのを知っていますか?」
「もちろん把握している」
「その噂の出所が綾先さんだった可能性があるんです」
「……というと?」
「皆に誰からその噂を聞いたのか尋ねていくと、必ず綾先さんに行き着くんですよ。だから彼女にそのことを聞こうと尋ねていただけなんです」
「……」
「家族の協力が得られるようなら、彼女のパソコンや携帯を押収して調べてみて下さい。おそらく掲示板への書き込みは彼女がしているはずです。いや、もう調べ終わってますか?」
「……仮にそうだとして、事件と何か関係あるのか? だいたいそういうのは警察の仕事だ。余計な真似はするな」
「…そうですね。以後捜査の真似事はやめますよ。ただ、その綾先さん繋がりで、つまり綾先さんが白倉さんの盗撮行為にも荷担していた疑いの繋がりで、浮かび上がった人物が一人」
「……誰だ?」
「彼女の携帯を調べているなら気づいていると思いますが郷矢巻勝、サッカー部のキャプテンです」
「どうやって調べたらそこまで行き着くんだ?」
「いいから彼のDNAを採取して調べてみて下さい。きっと面白い結果がでますよ」
まさか白倉さん本人から全て聞いていたなんて、言えるわけもない。さすがに、黒岩玲二の名前が現時点で出るのは出来過ぎなのでやめておいた。
「確約はできないが……調べておこう。もう余計なことをするなよ」
警部は帰っていった。
恐らく警部は嘘をついている。白倉静香が死亡した時点で、彼女の携帯情報から郷矢巻勝と黒岩玲二はリストアップされているだろう。DNA鑑定自体は時間のかかるものだから、未だ結果は出てないかもしれないが、これで相当疑いの目が強まったはずだ。
郷矢巻勝も黒岩玲二もアリバイに関しては、非常に中途半端だ。当然二人は誰にもバレずに白倉静香と一緒に校内にいた。白倉静香には二人のDNAが残っている。問題は、白倉静香の推定死亡時刻時にアリバイがあるかだが、帰宅中のはずだからおそらくあるだろう。万一なければ殺人の罪を被って刑務所行きだ。
アリバイがあれば、警察からすると理解に苦しむ展開だろう。あくまでも殺人にこだわるなら、二人の犯罪を確定した上で第三者の存在を創作するか、死亡推定時刻をずらして二人に犯行が可能だったと強引に結論付けるしかない。
逮捕されてしまえば、恐らく二人の部屋から彼女を虐げ続けていた証拠がわんさか出てくるはず。嫌疑は相当高まるはずだから、多少強引な展開も考えられなくはない。
どちらでも面白いが、クライアントの希望は二人の死。
理想的には一度捕まって、嫌疑不十分で釈放、その起訴猶予中に『自殺』してもらうことだろうか。被疑者死亡のまま書類送検になるはずだ。
とりあえず、警察の出方を待ってから考えてみることにした。




