002
そして僕は、死に好かれた、もう一人に出会った。
「……私ね、人を殺したことがあるんだ」
彼女の名前は白倉静香。
この告白には驚かされたが、彼女が女性であることと長期に亘って学校を休んでいたことから、予想はつく。堕胎か乳児殺のどちらかだろう。
僕の予想は彼女の話によって裏付けられた。
「なるほど、子供の父親はその黒岩玲二と郷矢巻勝のどちらかってわけだ」
「そうなるわ」
「二人はこのことを知っていたのかい?」
「もちろん知らない。言ってないから」
他県で見つかった赤ん坊の遺体は彼女の子供に間違いないようだった。事実ならあまり時間はかけられない。
「で、復讐のために殺したいってことかな」
「……一事で言えばそうなるかもしれないけど、少し違うわ……」
「……」
「このままじゃ、同じことの繰り返し……私はまた似たような過ちを犯す。そんなことをする位なら死んだ方がまし。かといってあいつ等だけ、のうのうと生き続けるのは許せない」
彼女の気持ちはよく理解できた。死んだだけじゃ何も変わらない。変えられない。死者は生者に対してあまりにも無力だ。
殺人という僕の才能で彼女を願いを叶えることができるのなら、これほどうれしいことはない。
僕は彼女に条件を出し、協力を約束した。
そして、彼女は約束通り隼人と付き合ってくれた。
今度は僕が約束を守る番だ。
僕らは密会し内容を詰めていく。
「で、君が彼らの相手をするのはいつなんだい?」
「……大抵…………金曜の放課後……ね…」
言葉の語尾が震えていた。
「そうか、わかっているなら話は早い。その後、君が例の方法で自殺をしてくれれば、こちらで後は全て始末をつけるよ」
「包丁で自分を刺した後、飛び降りればいいのね」
「そう。気をつけて欲しいのは自分で刺す時の包丁の向き、傷の角度によっては自傷を疑われてしまう。あと、絶対にためらわないこと」
「難しいわね……」
「ひと思いに刺さないと駄目だよ。腹の回りにためらい傷がついたら、これも自傷を疑われる原因になる」
「でも、何で自分で刺さないといけないの? あなたが私の首を切るときついでに刺せばいいじゃない」
「それじゃあ駄目なんだよ。屋上で刺された証拠が欲しいのさ。もちろん、屋上に血痕が残る必要がある。でも、それだけじゃない」
「……」
「傷口から生前のものか、死後のものかわかるんだ。死んでる人間に傷をつけても傷口は大きく開かないし、体の組織内で出血することもない。それに血痕を鑑定すれば、死後流れた血液かまでわかってしまう」
「それで、わざわざ痛い思いをしないといけないわけね……」
「わかってもらえたようで何より。後、部屋の整理とかもしたら駄目だよ。自分の部屋の中に後々見られたくないもが一つや二つあるだろうけど、そういうのが残ってることが重要なんだから」
「難しいわね……」
「まぁ、本当に嫌なのは処分してもらっていいけど。何かは必ず残しておくこと」
「見られたく無いのに見られために残すなんて……考えるだけで嫌になる……」
「ついでと言っちゃ何だけど、黒岩と郷矢の体は爪でよくひっかいておくといいよ。DNAが採取できるし、抵抗の後にも見えなくはないから」
「右手は玲二、左手は郷矢にしようかしら」
「そりゃいいね」
僕らは笑った。彼女が無理をしているのはわかっている。
「……本当に……うまくいくの?」
「もちろんさ。ただの自殺だったら、事件をうやむやにされるのがオチだけど、君の死体を他殺体に見せかければ、死体解剖が行われるから、疑惑は必ず彼らに向かう。警察は無能じゃないからね」
「……」
「しかし、当然逮捕まではいかない。証拠がないからね。あるわけがないからだけど、代わりに今まで君にしていたことが明るみになる。これが復讐の第一段階。そして第二段階は当然死んでもらう。恐怖におびえながら一人ずつね」
僕は思わず笑みをこぼしてしまった。いけないと思いつつ話を続ける。
「まぁ、その復讐の役目は、君の彼氏がやってくれるわけだけど」
「……正直、私は隼人君がそこまでしてくれるとは思えない」
「大丈夫。男なんて純情で単純だから、けしかければすぐさ」
「……」
「万一彼がやらないないなら、僕が責任をもって始末をつけるさ。約束する。人を直接殺すのなんて、刃物で刺すだけで済むんだからね。殺人が成功するかしないかの分水嶺は『ためらい』の有無、それだけだよ。別に要人暗殺を企ててるわけじゃないんだから」
「……」
「しかし、彼だったらする。好きだった彼女を死に追いやった奴らだ。殺したくないわけがないさ」
「今更だけど……隼人君には悪いことをしたと思う」
「なんだい? 本当に好きになったわけじゃないんだろう?」
「……もちろんよ」
「……まぁ、人間なんて簡単に情が映るもんだから……その方が彼にとっては幸せかもね」
「……」
「で、他に質問がなければ最終的な結論を聞きたいところなんだけど」
「……」
彼女は床の一点を凝視ししたまま、しばらく動かなかった。
そして、ゆっくりと息を吐き出すように呟いた
「やるわ……」
その時、僕の心はなぜか踊った。何の得にもならないどころか、捕まるリスクも決して低くはない行為。それでもなぜか、生きる活力を得たような喜びを見いだしていた。
「じゃあ、決行日は僕も隼人と一緒にいることにするから、君から隼人へのメールか電話が合図ということにしよう。内容はなんでもいい。遺書には見えないよう、週末のデートの予定なんかがいいんじゃないかな。そのきっかり1時間後が決行時刻。もちろん、周囲の状況しだいけど、間違っても僕にメールなんかしないでくれ」
「……わかったわ」
「……」
「本当に私が死ねば全てが終わるのね」
「……ああ、そうだよ」
ターゲットはもう一人増えたりしたけど、基本的には変わらない。僕は当日を楽しみに待っていた。




