012
その一方で、私は神明君とも隠れて会っていた。
「調子はどうだい?」
体育倉庫で神明君と会うのもこれで何度目だろう。人目を忍んで会うには、休み時間の僅かな間を利用するしかない。
「いい感じだと思うわ。健全なおつき合いというやつね。どこまで好きになってもらえたかまではわからないけど」
「僕の見た感じだともう君に夢中だよ」
私は堪えきれずに笑ってしまった。
「私って悪女ね」
「それでいいんだよ。真実を知らなければ、彼は幸せなままなんだから。悪いと思うならもっと彼を幸せにしてやるといい」
「……そうね……そうする」
かといって、私が彼にしてあげれることなんて、何も思い付かない。私が彼に差し出せるものは、何一つ残ってない気がした。
上辺だけの付き合い、嘘で塗り固められた関係。穢れた感情のまま相手を幸せにできるのなら、それもいいのかもしれない。結果が全てというのなら、最後の最後まで偽り通せばいいのだろう。……本当にそれでいい? わからない。でも、今更、誠実でありたいと考えることが、身勝手で最低なことぐらい、わかっているつもりだ。
それから数日経ったある日、授業を終えて携帯を確認すると知らない番号から電話が何件もかかってきた。
不思議に思っていると、また別の番号かかかって来る。
「もしもし」
「あ、もしかして静香ちゃん?」
男の声だ。
「……どなたですか?」
「君可愛いね。この値段は安すぎると思うよ。俺だったら倍出してもいいな」
私は電話を切り、携帯の電源を一旦落とした。
「どうかしたの?」
綾先さんが話しかけてきた。
「ううん、何でもない。間違い電話がかかってきただけ」
「そうなんだ」
彼女の表情からは何も読みとれない……。
私は神明君の机を一度小突いてから、体育館倉庫へ向かった。
再び携帯の電源を入れると、卑猥な文面のメールが溜まっている。
「お呼びでしょうか、お姫様」
後れて神明君が現れた。
「これを見て」
私は携帯を差し出す。
「……なるほどね。実はもう一人、大変なことになってる人がいるんだ」
「誰?」
「青葉栞さん。もうすぐ君の耳にも入ると思うけど、何でもホテルに男と行ってる姿を目撃されたとか」
「……相手の男って玲二?」
「いやいやまさか。彼らがそんなヘマをするとは思えない。恐らく青葉さんを嫌う誰かが流したデマだよ」
「……」
「同時期に、君と青葉さんが似たような状態になるとは、解せないね。同一犯の疑いが強い」
「どうすればいい?」
「一応、証拠として残してほしいから履歴は消さず、そのままある程度溜めて欲しい。その後、番号とアドレスを変更して、とりあえず綾先さんにだけ変わったことを教えてあげな。彼女が要注意人物だからね」
「わかったわ……」
彼の言う通り、放課後には青葉さんの噂が校内に広がっていた。
当然、隼人君の耳にも入っている。
帰り道、彼が悩んでいるのは明らかだった。私にそのことを相談しようとしないのは、やはり気を遣ってくれているのだろうか。彼女の前で他の女の子の話をしないという配慮からか、それとも青葉さんを意識しているが故なのか……。
ただ、私にはわかってる。彼に教えることはできないけれど、これから起こる事件の大きさに比べたら、一瞬で消し飛ぶ些細な問題。隼人君が悩む必要もない問題……。




