006
放課後、教室には神明君一人しかいなかった……。
私は一度、廊下の様子を見て、誰もいないことを確認してから話しかけた。
「神明君、誰か待ってるの?」
「……ああ、白倉さんか。そうだよ、上守君を待ってるんだ」
「……」
「……どうかしたかい?」
言ってしまえば全てが終わる気がする。でも、言わずには言られない……。
「……私ね、人を殺したことがあるんだ」
彼は表情を変えずに私を見つめ続けた。私はできるだけ平静を装い続けた。彼の視線が私の顔より下に落ちていく。
「……なるほど……ね…」
「警察に言う?」
「まさか。そんなことはしないよ。捕まらなくて済みそうかい?」
「さぁ……わからないわ。それならそれでいいけど、その前にしておきたいことがあるの」
「何だい?」
「ねぇ、神明君……あなたに……殺人依頼ってできるのかしら?」
声が震えそうだった。
「さぁ、どうだろう。少なくとも、話を聞くぐらいはできるけど」
私は彼にこれまでのことを話した。私の推測する生い立ちから、現状についてまで。
自分でも驚くほど冷静に話すことができた。それほど時間はかからなかったように思う。
彼にここまで気を許せたのは、罪を犯した者の連帯感からだろうか……。
「なるほど、中々大変だね……盗撮とネットの方は僕の方でも調べておくよ」
「……ありがとう」
「問題は殺しの方か……。そうだね……君の殺人を手伝うという形であれば協力するよ。もちろん、どんな代償を払ってもいいというなら」
「……代償?」
「そう、君が僕に払う代償は……」
「……」
「……君自身」
「私?」
「そう、白倉静香さん君だ。高いかな?」
彼が言いたいことは何となくわかった。彼は私が知ってる周りの男たちとは明らかに違うから。
「別に……高くないわ。人を殺せばもう後は死ぬしかないないし、好きに使ってもらっていい……ただ……」
「ただ?」
「私は、もうこの手で人を殺せない……。私がやろうとすれば必ず失敗すると思う……一人ならまだしも……だからあなたに頼んでるの」
「……その辺のことは考えておくよ。ただ、報酬は前払いになるよ。まずは着手金を頂かないとね」
「……何をすればいいの?」
「上守隼人君……彼の恋人になって欲しい」
「……どういう意味?」
「ああ、誤解しないでくれよ。別に彼は今のところ、君のことは何とも思ってないはずだ」
「……」
「ただ、仲間が欲しいんだよ。君のために働いてくれそうな仲間が。だから君が彼を落とす。成功すれば僕らの契約は成立だ」
「……」
「唐突すぎて理解できないのも無理はないけど、その辺は僕を信用してもらうしかないな。後はこちらでお膳立てをするよ。なに、考える時間は十分あるさ」
「とりあえず……今は保留でいい? 私は彼のこと何も知らないし」
「もちろん。おっと、噂をすれば彼だ。話はここまでだね」
上守君が教室に入ってきた。
「じゃあ、私はこれで。上守君もまた明日」
私が彼と付き合う? ……考えてもみなかったことだ。




