002
「静香さん、気分はどう?」
いつも汐竹先生は、ドア越しに話しかける。
「大丈夫です。……私、必ず学校に戻りますから……もう少しだけ、わがままを許して下さい……」
「……無理しなくていいのよ。ごはん、ここに置いておくからね」
「ありがとうございます……」
私が部屋に閉じこもってから、何ヶ月経つだろうか……先生はもちろん、父とも顔を合わせていない。
私と父と先生は言わば共犯だ。私が現在置かれている状況を二人が知っていたわけではないが、それでも二人の関係を認めることで、二人は私に干渉することはなかった。
この状態が結果的に良かったのかはわからないことだけれども、少なくともその時の私にとってはうれしいことだった。
先生は私が病気で休んでいるということにしてくれていた。
もうすぐ……もうすぐで……全てが元通りになる……。
そして、長い休みを終えた私は、ようやく学校に戻ることができた。
「静香ちゃん、久しぶり! 元気になったの?」
綾先さんや、クラスの皆が私を受け入れてくれる。本当に心配してくれていたのかまではわからないことだけれど、それでも居場所が残っていたのは素直に嬉しかった。
そして汐竹先生とは極力普通に接した。少なくとも、私が卒業するまで父との結婚は無いだろう。
「神明恭。以前、両親を殺害で世間を賑わせた元少年Aです。よろしく」
そんな日常を取り戻しつつある私にとって、彼の存在は衝撃だった。
過去を取り戻せないと私を突き放し、同時に私を救えるのは自分だけと手を伸ばす……そんな印象すら覚えた。
私は、彼を好意的に捉えたと言ってもいいかもしれない。
「よろしくね」
隣に座る彼に私は挨拶をした。
「ああ、よろしく」
彼は意外に愛想よく挨拶を返してくれた。
休み時間にも話しかけてみた。
「私、最近までずっと学校を休んでいたから頼りにならないかもしれないけど、困ったことがあったら何でも聞いてね。良かったら学校を案内するわ」
彼は私を観察するように見ていたと思う。嫌な気はしなかった。
「ありがとう。でも大丈夫だよ、学校の内部は全て頭に入ってるから」
しかし、その行為はあまりクラスの皆によく映ってはいなかったようだ。
「よく話しかけれるね……。やめた方がいいんじゃない?」
綾先さんや他の子に注意された。
「確かにちょっと怖いかもね。でも、隣の席で無視し続ける方が後々怖くない?」
「それはそうかもしれないけど……」
「でも、ありがとう。これからは気をつける」
「うん、そうした方がいいよ」
私は少し軽率だったと反省した。彼と親しくしてクラスで浮いてしまっては元も子ない。
彼と二人っきりになれるチャンスを待つことにした……。




