022
翌朝から大変だった。
校門にマスコミが殺到して、事件直後を彷彿させる賑わいに戻っている。彼らの質問内容を横で聞いていると、かつて殺人罪の嫌疑がかかった少年が、正当防衛で実際に人を殺した……ということらしい。
「もぅ嫌!」
「絶対推薦で大学無理だわ。転校してぇな」
クラスでは突然叫ぶ女子もいれば、不平不満をこぼし続ける男子もいる。クラスでも限界が近づいている気がした。
「今日から出席番号順に、先生やカウンセリングの先生で面接を行うことになりました」
久しぶりに復帰した汐竹先生は、雰囲気が少し変わっていた。外見的にも痩せていたが、生徒との距離間が遠くになったように感じた。
この日は、さすがの恭も事情聴取で学校を休んだものの、翌日から、何食わぬ顔で登校したことには驚いた。クラスの中では彼への怯えだけでなく、憎悪に近い敵対心のようなものも芽生えていたように思う。
そして、事件の報道は連日増していった。殺された郷矢巻勝が白倉静香殺人事件の犯人ではないかという報道だ。
被害者として名前が報道されてしまったこともあり、報道のあり方にすら一石を投じる勢いだった。
「被害者の名前は偽名を使うことも多いはずですが、今回は違ったんですね」
「まったく、お前には今回も振り回されたよ」
帰り道、再び出会った岩国警部は苦々しい顔で恭を見ていた。
「それで、郷矢君が本当に犯人だったんですか?」
「……捜査中だよ」
僕の問いには答えるつもりは無いようだ。
「で、荷物をもって君はこれからどこかへ行くのかな」
「はい、友人のお見舞いです」
「誰だい? おっと、まぁ職業病だな。ついつい聞いちまう」
「黒岩玲二です。これはお見舞い品です」
僕は手に持ったスーパーの袋を少し持ち上げてみせた。
「……そうかい」
その後、岩国警部とも恭とも別れ、僕は一人隼人の家に向かった。
玲二には、警察が郷矢君を殺人犯人だと思っているようだと伝えた。
「これで、犯人が……死んだわけだけど。わかったわけだから全て解決で元通りさ」
「……」
「風邪、大丈夫?」
「……ああ、ちょっと熱があるだけだ。ありがとう…」
玲二は衰弱しきっているように見えた。
「そうだ、お見舞いの品を買ってきたんだ」
鞄の中から箱を取り出す。
「本当は花を買おうと思ったんだけど、さすがに玲二の部屋には似合わないから、代わりに花の香りのする芳香剤」
玲二は、無理に笑顔をつくって笑った
「なんで花が芳香剤に変わるんだよ。第一、病人に花を贈るにしても、匂いのきついのは非常識だぞ」
言葉とは裏腹に、喜んでいるようにさえみえた。
「匂いきついかな」
「……ああ…すまん。今は鼻がつまっててよくわからないんだ」
「そうなんだ……」
それから、僕らはとりとめもない会話をした。今日の学校での出来事や、差し障りのない芸能ニュースの話題、何度も繰り返した昔の笑い話。そんな中でふと一言
「ごめん……」
彼が何の脈絡もなく謝った。
「え? 何の話?」
「……」
「えっと…」
しばらく沈黙が続いたが
「何となく、色々謝っておいた方が楽になれる気がしたんだ」
「色々じゃわからないよ」
僕は笑顔をつくって、陽気な声を出してみたつもりだったが、実際それが成功したかはわからなかった。
しかし、玲二はこちらを向くこともなくただ
「ごめん」
と繰り返しただけだった。
僕にはもちろんその謝罪の意味がわかっていた。
「まぁ、いいよ。許してあげようじゃないか」
当然、玲二は僕が知っているとは思いもよらないはずだ。もし、万一にも感づいていたのであれば、僕の言葉は、この上なく慈悲にあふれたものとして、伝わったことだろう。ただ、それはありえないことだ。彼にとっても、僕にとっても。
「……ありがとう。なんだか楽になった気がした。教会の神父に告解をするのってこんな感じなんだろうな」
「何言ってんだか」
二人で声を出して笑った。
「少し、疲れただろう? 明日も来るよ」
「ああ、ありがとう。俺は少し眠るよ」
「わかった……」
僕は部屋を出て、入れ違いになった彼の母親に挨拶してから帰宅した。
そして、翌日知ることになる。彼が自殺したというニュースを。




