019
学校では欠席者も増えていたが、表面的には平穏を取り戻しているように見えた。彼女の一番の親友だった綾先さんですら、笑いながら友達と会話をしている。
「人間なんてそんなもんさ。結局、自分とは関係ないからね。薄情なもんだよ」
「なんだか静香さんが可哀想だ……」
「死んだ人間なんて、たまに思い出してもらえれば御の字の取り残された存在だからね。いや、その場にいない人間は、と言うべきかな」
恭と教室内で言葉を交わすのはいつ以来だろうか。
しかし、彼の予想に反し、また僕の願いとは別の形で彼女は再びクラスの話題になった。
「やっぱこれが関わってんのかなぁ」
「そうかも~」
彼女に関する不明瞭な会話が、廊下でもクラスでもあちらこちらでなされていた。
「何の話だよ」
「隼人か。お前は見てないのか? この動画」
携帯の再生された映像を見ると静香さんが映っていた。
「お前には刺激か強いかもなー」
彼女はおもむろに服を脱ぎだした。そして何事も無かったように体操服に着替える。
盗撮だ……。
「なんだよ……これ…」
「なんかちょっと前から出回ってたらしいんだよ。俺が知ったのは昨日だけさ」
「消せよ!」
「わかってるって。俺だって死んだ人間のを見ても変な気分だしな。でも、もう皆知ってるぜ。それよか、もっと凄い話しがあるんだよ」
「なんだよ……」
「白倉静香が援助交際してたって話だよ」
「んなわけあるか」
「噂だよ噂。白倉の携帯の番号がネットに出回ってんだよ。援交の書き込みと一緒に」
「……」
「学校の奴が使ってる掲示板ってのがあって、あそこになんかそのこと暴露しまくってた奴がいたらしいんだわ。今は消されてなくなってるらしいんだけどよ」
「まさか学校で援交してたんじゃねぇ?」
横にいたクラスメートが笑いながら言った。
「援交相手に殺されるとか、いい子ぶってた偽善者にふさわしい最後だな」
「は、笑わせるね!」
会話に割り込んだのは恭だった。突然の大声に、クラスの皆が黙ってこちらに注目した。
「そんなのは、彼女を嫌う奴の仕業に決まってるだろ。だいたい彼女が偽善者だって? 結構なことじゃないか。人助けの一つもできない君より、遙かにマシな存在だ」
言われたクラスメートは黙ったまま席に戻ったが、それは何をするかわからない彼への恐れだろう。おそらく僕以外の皆は、心のどこかで彼が犯人に違いと思っていたに違いない。
放課後、一部の部活を除いて活動が中止になっていることもあり、クラスから人がいなくなるのも早くなっていた。
うちのクラスは特に恭の存在に内心怯えているせいか、HRが終わると恭と僕はクラスに取り残されたようになる。
「僕はどうすればいいのかな?」
「どうしたいんだい?」
「……僕は白倉さんを本当に好きだったと思う?」
「君自身の答えは?」
元々、僕は彼女のことを何とも思ってなかった。そりゃあ綺麗だとは思ってたけど、恋人になりたかったわけじゃない。つき合うきっかけだって今更ながらよくわかない。
本当に僕は彼女が好きだったのか、それとも女の子だから好きだったのか……。
「……僕にはわからないよ」
彼はゆっくりと息を吐きながら天井を見上げ、視線を窓の外に移した。
「人間ってのは、何かしら縁があれば親近感を持つ生き物さ。好きという感情が単なる電気信号に過ぎないとするなら、きっかけなんて関係ない。僕に言わせれば、悩んだ時点で答えは出ていると思うけどね」
それは、僕の求める答えとは違っていたと思う。
僕は彼女の死に、正面から向き合う資格があるのだろうか。
僕に彼女を想う資格はあるんだろうか。
「君が何を考えているかはわからないけど、別に世界の誰よりも彼女を好きである必要なんてない……ただ……」
彼はまっすぐこちらを見据えていた。
「ただね……君が彼女を仮に好きでなかったとしても、彼女を想うのは君の義務だ。彼女の死を悲しむことも君の義務だ。少なくとも君には彼女のために行動する理由がある」
ああ、僕はこの言葉を聴きたかったのか。なぜだかそのときそう思えた。




