017
いつもの分かれ道で彼と別れ、しばらく一人で歩いていると
「ちょっといいかな」
後ろから男が話しかけてきた。無精髭を伸ばし、スーツを着崩して、タバコを吸っている。
あまり清潔感を感じない。
「刑事さんですか?」
男は怪訝な顔をした。
しまった……とは思ったが、別に後ろめたいことなどない。
「違うんですか?」
「……あってるよ。自慢じゃねぇが、あんまり刑事に見られねぇから驚いちまった。坊主はなんで俺が刑事だと思ったんだ?」
「さっきから尾行してたんですよね? なぜですか?」
「まいったね。バレてたあげくこっちが質問攻めか」
「……」
「ふぅ~……」
刑事はゆっくりはタバコの煙を吐いた。
「あいつか……神明恭の入れ知恵か」
正直に答えた方がいい気がする。
「……そうです。彼を知ってるんですか?」
「まぁねぇ……」
「そちらの質問の前に、お聞きしたいんですが、彼はなぜ無罪になったんですか?」
僕は刑事に率直な疑問をぶつけてみた。
証拠がなかったということは報道で知っていたが、もっと詳しく聞きたかった。
その質問に、刑事は少し困ったような顔をしてみせたあと、
「自殺にしか見えなかったからだ」
と答えた。
「自殺って、彼の両親が自分で死んだだけってことですか?」
「……あれが殺人事件だとしたら。完全な密室トリックってやつだな、笑えるよ。内側から鍵がかかって、争った形跡もなく、明らかに自分達で首をくくって死んでいた」
「……」
「証言は自分が殺したという自白だけ。端から見ていれば、ただの狂言にしか思えなかっただろうよ」
「どういう意味です?」
「……自分の両親が死んで、頭が少しおかしくなっちまった可哀想な少年……捜査関係者の中でもそう思った奴は多いさ。だけどな、奴を取り調べた者ならわかる。間違いなくあいつが犯人で、嘘はついていなかったと」
「よくわかりません……」
「怖いぐらいにまともな奴なのさ。冷静でいて妙に頭もきれる。当然、精神鑑定もシロさ…ま、殺人犯だったら、頭がまとなわけはないんだけどな」
刑事は自嘲気味に笑いながら言葉を続けた。
「奴はこっちを観察して、それを楽しんでいるようだった。正解にたどり着くのを待つ、クイズ番組の司会者みたいな態度でな」
「……」
「次はこちらの番でいいか?」
「……はい」
「君は、事件の日の前後、白倉静香さんにメールや電話をしていたようだが。彼女とはどういった関係だ?」
「……僕は彼女とつき合っていました」
「本当に?」
「本当です……」
「それが、君の一方的な思いこみである可能性は?」
刑事が一体何を疑っているのか、わからなかった。彼女のメールを見れば、僕らがつき合っていたことは明らかなはずなのに。
「ありませんよ。ただ、僕らがつき合ってることを知っているのは神明君と、僕の幼なじみの黒岩玲二と青葉栞の三人だけのはずです。クラスの皆は知りません」
「……そうかい……」
「知りたいことはそれだけですか?」
「あと一つ。金曜の放課後、何をしていた? お約束だと思って答えてくれや」
「神明君と二人で商店街を回っていました。家に着いたのは、夜の8時過ぎだと思います」
「また、神明か……」
刑事は顔をしかめて頭を掻いた。寄った店を詳細に聞かれたので、できるだけ全て答えた。
「もういいですか?」
「今日はな。ありがとよ」




