016
中学生の頃の静香さん。それが、テレビや新聞に取り上げれる姿だった。卒業アルバムの写真を誰かが提供したのだろう。可愛い姿をしていた。綺麗だった。でも、誰かが彼女の顔を持っていってしまった。
学校の屋上から突き落とされたらしいこと、刺し傷があったことも明らかになってきたが、犯人の手がかりは全く無い。
すぐにでも警察が家にやってくるかと思ったが、数日たった今も警察は来ない。テレビの報道を見る限り金曜の夜に彼女は殺されたらしい。死亡推定時刻は夕方の7時以降だった。
彼は僕の心情などお構いなしに事件のことを捲し立てる。
しかし、それは僕にとってありがいことだ。彼がいなければ僕はどうすればいいかわからず、ただ無意味に立ち止まっただけだろう。事件の糸口を掴もうと足掻いているときだけが、余計なことを考えずに済んだ。前に進んでいる気がした……。
「死亡推定時刻ってどうやって調べるの?」
僕と恭は学校では口を聞かなかったが、下校するときだけは事件ついて話し合った。
「色々あるよ。胃の消化速度から調べる方法もあるけど、個人差が大きいし、そのときの精神状態にも左右されるから正確さは欠けるね。一番は腸の温度から調べる方法かな。直腸温降下曲線法っていうんだけどね、お尻にでっかい体温計を刺して、体温の低下から死亡時間を推測する方法なんだ。かなり正確で専門家の間では評価が高いけど、採用してない県警も結構ある」
「今回は?」
「さぁ、どうだろう。当時の物音やら客観的状況とすり合わせて時間を割り出すことが多いから、先生や他の生徒の見回り状況をみて、適当に算出されている可能性は捨てきれないね。まぁ、でも金曜の夜というのは間違いないと思うよ」
「そう……なんだ……」
「……」
恭が急に立ち止まって、こちらを見た。
「どうかした?」
「いや、喉が渇かないかい? 缶ジュースを奢るよ」
彼はおもむろに自販機へと向かい、硬貨を入れると種類の異なる二本を選んで一本を僕に手渡した。
どちからというとあまり飲みたくない、マイナーな種類の飲み物だった。
「いいの?」
「いいから、いいから」
彼は、それをこの場で飲み干すことを促すように一気に飲んだ。
つられて僕も飲み干す。
飲み終えた空き缶を捨てようとすると、彼はそれを制止し、自販機の前に置くように指示した。
「え? 駄目だよ。ゴミ箱に入れなきゃ」
「黙って言われた通りにして」
意味もわからず空き缶を地面を置くと、彼は自分の空き缶を僕の空き缶から少し離れた位置に置いた。
「……なにかのまじないみたいだね」
そんな僕の言葉を聞き流し、彼は満足そうな笑みを浮かべて
「これでよし」
と呟くと、再び歩きだした。
「一体どういうこと?」
「君だって、自宅のゴミ袋を荒らされたくないだろ? 後ろを振り向いてもいいけど、実は刑事に尾行されているのさ」
「え?」
振り向く気にはなれなかった。
「君は彼女の恋人だったんだから、間違いなくDNAを採取されるよ。空き缶は僕らを見張ってる刑事へのプレゼントさ。分かりやすいようにしたから、彼らが無能でなければ受け取ってくれるよ」
「……」
「早い内に容疑者リストから外れた方がいいし、自宅のゴミを毎回荒らされちゃあ、たまんないからね」




