015
次の日の土曜日も丸一日連絡はなく、こちらから連絡をとるべきか悩んでいた。思えばメールや電話はいつも静香さんからで、こちらからしたことはない。
「……」
携帯を持ちながら大分時間が経過してしまったが、意を決してこちらから電話することにした。
―お掛けになった電話番号は……。
しかし、繋がらない。電源を切ってるのだろうか。
義務を果たし終えたような安堵感と、連絡がつかないことへの不安感が入り交じる。
昨日のメールの文面が不味くて、怒らせてしまったのだろうか……。期待に添える中身ではなかったのか。他にも色々と心当たりがあるような無いような。これまでに積み重ねてきた些細な出来事に原因があるような気もするし、急に心変わりされてしまった気もする。
しかし、どうしようもない。
しばらく様子を見ることにした。
「明日、どうせ会えるし……」
「昨日……高校で女子生徒の遺体が発見されました。頭部が切断されており、警察は身元の確認を急いでいます……」
食事するついでに何気なくつけたテレビが、自分の通う高校を映している。
僕は言葉を失った……。
センセーショナルに取り上げられる、女子高生、頭部切断のワード。頭の無い遺体。残酷な犯人像。そんなことよりも被害者の名前が知りたい。
友人間でメールや電話が飛び交ったが、結局、誰が殺されたのかわからなかった。
一夜明けた今のところ、連絡が付かないのは静香さんと栞の二人。
僕は、玲二と栞と静香さんの三人に、先に行くとだけメールをして学校へ向かった。
学校へ着くと校門の前には先生達や警察、それにマスコミがいた。先生や警察は、マスコミを生徒から遠ざけようとしているようだった。
教師専用の駐車場の奥に、ブルーシートやテープが張られて入れないようになっている。
事件の現場は、校舎の裏側の方だったらしい。生徒達も専ら事件の話題ばかりしていた。
その日は教室も騒がしかった。
「殺されたのうちのクラスの奴じゃねぇの」
「まさかー」
クラスの中では、そんな会話ばかりが飛び交っていた。
そんな中、教室の扉が開く音につられて皆の会話が止まった。
神明恭だ。
いつもは笑みを浮かべる彼の顔が、妙に真剣だった。
この時、彼はクラスの皆にとって何か不気味な存在のように映っていたと思う。僕ですら縁起の良い存在には見えなかった。
HRが始まってやってきたのは、学年主任の先生だった。
「えー、汐竹先生は体調を崩されたので。今日は私が代わりをします」
こ の時、まだ白倉さんは登校していなかった……。たまたま遅刻しているのか、また病気が再発したのか。嫌な予感が鼓動を打つ。恭が僕と目線を合わせないようにしているようで、それが不安をさらに増大させていた。
「皆さん、落ち着いて聞いて下さい。……このクラスの白倉静香さんが亡くなりました」
―……。
「これから、体育館で全校集会を行います。詳しいことはそこで校長先生が説明しますが…」
言葉を失い呆然とする者、突然泣き出す者、僕は一体どうすべきだろう。答えをすがるように彼女の席を眺めていた。
その後のことはよく覚えていない。集会も終わり、授業は中止され、下校になった。
結局、彼女が殺されたという事実しかわからなかった。詳しくはわかないが、構内で亡くなったということだろう。
一体なぜ……。
「一緒に帰ろう」
話しかけてきたのは恭だった。
「僕もそう言おうと思ってた……」
「そうか……」
相変わらず校門の前は人だかりになっていた。
僕らは人気がなくなるまで口を開かなかった。地面だけを眺めながら歩き続ける。
「先に言っておくけど、僕は殺人犯じゃないよ」
「……証拠は?」
「それは、死亡時間が明らかになってからかな。でも、君だって僕じゃないと思ってるだろ」
「……まぁね。君が殺すわけないと思ってるよ。少なくとも……白倉さんを殺す理由がないし」
本当は、まともな思考ができるほど、落ち着いていなかった。訳のわからないことばかり。こんな時に恭となぜ会話をしているのか、それすら錯乱の結果のように思える。
「良かった。とにかく問題はこれからだ。僕は過去の問題があるから間違いなく警察にマークされると思う。君の場合は彼女の恋人だったんだから重要参考人の一人になるだろう」
「……」
「いきなり引っ張られることはないと思うけど、金曜から土曜にかけてのアリバイは整理しておいた方がいい。記憶が新しいうちにね」
「……犯人は誰だと思ってる?」
「現時点では何とも言えないけど、僕の目の前で殺人事件なんて良い度胸だからね。迷惑をかけてもらったお礼と、友人のために調べてみるよ」
「……」
「僕的には警察に犯人を渡したくないと思ってるんだ……」
そのとき、彼が何を考えているのか全くわからなかったが、僕にとっては心強い味方に見えた……。




