014
それから数日たった今も変化は無かった。栞は相変わらず学校を休んでいたし、玲二は学校に来ていたが、僕を避けているようで、何をしているのかわからなかった。
そのために静香さんと一緒にいる時間は、少しだけ増えたかもしれない……。
「ごめんね、隼人君。今日は用事ができたから一緒に帰れなくなっちゃった……」
「終わるまで待ってるよ」
「ううん。悪いから先に帰って。後でメールするから」
そういうと、静香さんは行ってしまった。
「あ、もしかして今日空いてる?」
そこへ恭がやってきた。
「え?」
「良かったら久しぶりに一緒に帰らないかい? 実はちょっと頼みがあるんだ」
「どんな?」
「家とは反対方向になるけど、実はまだこの辺のことわからないんだよね。商店街とか色々回ってみたいんだ」
「別にいいよ」
「ありがとう、助かる」
「二人ともこれから帰るの?」
汐竹先生が後ろから話しかけてきた。
「はい、そうです」
僕は振り向いて答える。
「神明君はもう学校に慣れた?」
「はい、お陰様で」
「何か困ったことがあったら、いつでも先生に言うのよ。何でも相談に乗っちゃうんだから」
先生はなぜかガッツポーズをして見せた。
「ありがとうございます。ところで今日はデートですか?」
「え!? 綺麗だからわかっちゃう? そうなのよ。美人は辛いわ」
オホホホホ、と手を口元に添えた、ややおばさん臭い仕草をしたまま先生は行ってしまった。
「さっきのデートって?」
「ん? ああ、珍しく放課後なのに化粧を直してたからね。バッグもいつもと違うし」
「よく見てるね……」
「そうかい? それにしても汐竹桜先生っていい先生だね」
「だろ? 人気あるよ」
恭が人を誉めるのは少し意外だった。
「先生が僕の入学も賛成というか、クラス担任として引き受けてくれたらしんだ」
「そうなんだ……というか、よく転入できたね。言うのも何だけど」
「ああ、実は今訴訟中なんだよ」
「……え?」
「入学不許可処分の取消訴訟と、入学許可処分の義務付け訴訟を起こして係争中。仮の義務付け訴訟には勝ってるから、裁判が終わるまでとりあえず通えるんだ」
「……そう……なんだ」
それから僕らは商店街へ行った。悩み事は尽きないが、久しぶりに恭と話ができることが素直にうれしかった。
ゲームセンターで遊んだり、ファーストフードで時間を潰したりしている中で、僕が白倉さんと付き合っていることを話してしまった。彼女の許可は得てないが、恭なら吹聴して回る心配はないし、何よりも恭に伝えたいと思っていたからだ。
そんな僕に対して、少し驚いて見せた後、おめでとうとか、そうなる気がしたんだよな、とか、ありふれた、いい加減なコメントを返したくれたのが照れくさかった。
「今何時かな」
「え? 何時だろ」
言われてみれば、すっかり遅くなっている。僕は携帯を取り出して時間を確認した。
「7時を回ったところだね。そろそろ帰ろうか」
「そうだね。でも、その前に寄りたいところがあるんだけどいいかな」
「どこ?」
その時、僕の携帯が鳴った。
「ああ、メールだ」
「誰から?」
僕は、答えるのが何だか恥ずかしくて、少し躊躇した。
「白倉さんから……」
「ああ、彼女からか。じゃあ、早くメールを打ち返してあげるといいよ。僕は帰るから」
「どこか寄りたいところが、あったんじゃないの?」
「また今度にするよ。友情より彼女をとりな」
そういうと恭は笑いながら駆け出した。そして、一度立ち止まって振り返る。
「そうだ、デートの予定なら。今日は避妊具を買って帰りなよ。いざってときに困るぞ!」
「な、何言ってるんだよ」
あまりに声が大きいから動揺してしまった。
「そっちこそ何言ってるんだ。避妊は男のマナーだぜ」
通行人のことなどお構いなしに、恭は言うだけ言って行ってしまう。
僕はもう一度メールを見た。
―来週の週末。どこかへデートに行きませんか?
恭の予想した通り、彼女からのデートの誘い。思えば今まで一緒に登下校をするだけで、デートをしたことは無かった……。
しかし、どう返せばいいものか。ここはやはり男として場所を決めるべきなのか、彼女の希望を聞くべきか……。
僕はその場で考え込んでしまい、返信の文面を書くのに相当の時間がかかってしまった。
でも、その返信に対する返事は、何時間待っても届くことはなかった。




