013
それから、数日僕らの間で特に変化は無かった。栞と白倉さんの距離感も、表面的には変わってないように見えた。
そんなある日、
「なあ、青葉栞とお前知り合いだよな」
クラスの男子が栞の話題を出した。
「栞がどうかした?」
「お前知らないのかよ。この前、青葉が男とホテル行ってるの目撃された話」
「……」
何の話かわからなかった。玲二との関係だろうか。
「その顔じゃあ何も知らなそうだな。つまんねぇの」
「ちょっと待てよ。何の話しだよ」
「え? だから、男とホテルに入るの見た奴がいるんだよ。制服着たままは、さすがにまずいよな」
「いつの話だよ。本当に栞に間違いないのか? 見たって誰だよ」
「知らねぇよ。だからお前に聞こうと思ったんじゃねぇか」
彼はそういうと面倒そうに行ってしまった。
思い当たる節があるだけに、不快な連想しかできない。
二人が隠れてしていることを、できるだけ考えないようにしてきたのに……。一体どこで何をやっていたのか。いや、それより噂はどこまで広まっているのか。本人達の耳にも入っているのか。
興味本位で友人に問いつめられる栞の姿を想像すると、胸が苦しい。僕は、急いで栞のクラスに向かった。
野次馬が数人集まっていたが、栞は早退した後だった。深刻な状態に、焦りを募らされる。この調子だと、玲二も既に知っているのだろう。その玲二を廊下で見かけ、僕は詰め寄った。
「おい、栞の噂の相手、お前じゃないだろうな」
強い口調で迫った。
「んなわけないだろ。馬鹿、こんなところでその話をするなよ。俺まで巻き添えくうじゃないか」
「お前は栞が心配じゃないのかよ」
「心配してるから見にきたんだろ。どうせ根も葉もない噂だよ、ほっときゃ収まるさ。だいたい栞がそんなことするはずないだろ。まさか疑ってるんじゃないだろうな」
「……そんなわけあるか、馬鹿!」
下校の時は、玲二もいなかったので結局、今日は白倉さんと二人だけで帰ることになった。
「隼人君と二人っきりなんて初めてだね。クラスの誰かに見られたらバレちゃうかも」
「そうだね……」
白倉さんはうれしそうしてくれていたが、僕は栞のことが心配だった。栞は今どうしているのだろうか。噂は正しいのだろうか、それとも間違っているのだろうか。
僕はどうすればいいのかわからなかった。いや、栞には玲二がついてるから大丈夫なのか……玲二が栞の彼氏なのだから……。
「……」
そんな時、白倉さんの携帯が鳴った。
「メールか何か来たんじゃないの?」
「うん、でもいいの。どうせいたずらだから」
「いたずら?」
「最近、なんか増えちゃって」
今度は鳴り続ける。
白倉さんは携帯を手に取ると電源を落とした。
「番号変えようかな。番号変えたらまた教えるね」
「……大丈夫なの? 何か困ってる?」
「心配してくれありがとう……でも大丈夫だから……番号変えればすぐ解決」
「……」
白倉さんは、曇らせた表情をすぐに持ち直してみせたが、
メールや電話のいたずらは、そんな頻繁に来るものだろうか。少し気になった。
「ねぇ、それより隼人君。そろそろ、私の名前……呼んでくれない?」
「え?」
「静香って」
「……」
僕はちょっと間抜けな顔をしてしまったかもしれない。
「静香好きだよって言ってから、私のほっぺにチューしてみて」
白倉さんは、冗談ぽく自分の頬を指さした。
「無理無理!」
「名前だけでいいから」
白倉さんは下からのぞき込むように、僕に顔を近づける。
「……」
「は・や・くぅ~」
「しずか…」
「……」
「……」
「はぁあ~想像以上に恥ずかしいね!」
白倉さんは、両手で頬を押さえながら、身悶えるような仕草をする。
「恥ずかしいのはこっちだよ」
「え~、言われるのも恥ずかしいよ。じゃあ、次は……」
「今日はこれで勘弁して下さい……」
「もぅー、しょうがないなぁ~。でもこれからは静香でお願い」
静香……さんが、満足そうにしているのが嬉しかった。
「……」
「……青葉さんのことは多分大丈夫だよ」
「…なんで?」
突然の名前に驚かされた。白倉さんが知っていたことにも驚いたが、一瞬でも栞のことを忘れていた自分に驚かされた。
「ん~……人の話題ってほら。新しい話題にすぐ上書きされていくじゃない? 例えば、上守隼人君が素敵な彼女を連れてデートしてたとかね!」
もしかしたら、僕は彼女に励まされていたのかもしれない。




