012
「隼人!」
次の日、栞が珍しくクラスにやってきた。
「どうかした?」
「絶対何かおかしいよ、あの人」
声を潜めて、囁くように言った。
「あの人……?」
栞は白倉さんの方へ目線を向ける。
「何が?」
「うまく説明できないけど、別れた方がいいって……」
「……」
僕には、栞が言ってる意味が、さっぱり理解できなかった。
むしろ、腹立たしさのようなものを覚えていた。
「私は、本気で隼人の心配してるんだよ?」
「何を心配してるのか知らないけど、大丈夫だって……」
「じゃあ……」
「ん?」
「じゃあさ……、私が隼人と付き合うって言ったら……別れてくれる?」
栞の消え入りそうな囁きが聞こえた時、クラスの喧噪が音を失った気がした……。
「……何、馬鹿言ってるんだよ。冗談でもそんなこというな」
「…私は……」
「あ、もしかして上守君の彼女?」
横から話しかけてきたのは、綾先さんだった。
「違うよ。ただの友達」
「…ごめん。私、用事あるから……」
栞はその場から逃げるように、教室から出ていってしまった。
「もしかして、何か邪魔しちゃった?」
「いや、全然」
「ふ~ん……」
綾先さんは、何か聞きたそうにしていた。会話が聞こえたわけがないから、単なる興味心みたいなものだろうか。
「静香ぁ! いるかぁー!?」
その時、廊下から大声で白倉さんを呼び出したのは郷矢巻勝だった。
白倉さんは席から立ち上がり、郷矢の方へ向かうと二言三言会話を交わして、二人でそのままどこかへ行ってしまった。白倉さんはどことなく不機嫌そうに見えたが、他の人にはそう映らなかったらしい。
「あっやしいぃー」
「あの人、サッカー部のキャプテンでしょ。カッコイイよね」
女子達が盛り上がっていた。いつの間にか、綾先さんも女子の輪に入っている。
しばらくして白倉さんが戻ってくると、質問攻めにあっていた。
「ねぇねぇ、郷矢君と付き合ってるの?」
「……まさか」
「えー、じゃあ告白されたとか?」
「そんなことあるわけないわ」
「つまんなぁーい。じゃあ、何の用だったの?」
「……別に大した用じゃなかったけど」
「何それ…、教えてよ。すごっく親しそうだったし、やっぱり付き合ってるんでしょ」
「それは絶対ないから。だって、私付き合ってる人がいるし」
……白倉さんの方を見てみたい気がするが、どうしても見れなかった。耳を傾けるのが限界だ。
「えー、嘘! 誰?」
「それは……彼氏に口止めされてるから無理なの」
女子達は大騒ぎだった。男子達は全員耳を澄まして聞いていたようだが、目に見える反応はなかった。
その後、授業中も白倉さんは何事もなかったように過ごしていたが、僕と目が合ったとき微笑んでくれた……。




