010
本当にこれで良かったのだろうか。次の日の朝、あらためて冷静に考えてみると、自分のしたことが理解できない。昨日なぜ、あんなことになったのかよくわからない。もっとよく考えてから、答えを出すべではなかったのか。今日、どんな顔で白倉さんに会えばいいのだろう。
これからどうつき合っていけばいいのか、何をすればいいのか、問題が山積みのように思えた。
白倉さんと恋人になれたこと自体は、決して嫌なことではなかったのに。
軽いとはいえない足取りでマンションを出ると、白倉さんが入り口で待っていた。
「おはよう」
「おは…よう。いつからいたの?」
「今きたところ。もしかして迷惑だった? 本当はメールしようかと思ったんだけど」
「そんなことないよ!」
僕はオーバーリアクション気味に否定した。慌てている自分が恥ずかしい。
「良かった。じゃあ、行こう」
白倉さんは、自然に僕の手を握った。
「ちょっと待って、友達と待ち合わせしてるんだ……」
「そうなんだ。私も一緒でいい?」
「もちろん。というか、白倉さんは一緒で構わないの?」
「うーん……。隼人君と二人きりがうれしいかな」
白倉さんは顔を近づけて、冗談めかした。
「でも、隼人君の都合もあるだろうし」
「……」
彼氏として、どういう行動か正しいのか迷ってしまう。おこがましいのは百も承知だけど、本当に迷っているのだから仕方がない。
「ところで、その友達に私達のこと伝えても大丈夫なの?」
言われて気が付いた。玲二と栞に恋人ができたと伝えたらどうなるのだろうか。二人の反応が気になった。そのとき
「おはよう!」
と、栞が遠くから声をかけた。玲二と二人でこちらに向かって歩いてくる。
栞は隣にいる白倉さんを不思議そうな表情で見つめていたが、玲二は露骨に眉をひそめていた。
「えっと……隼人の友達?」
栞の問いに詰まってしまった……。できるだけ早く答えるべきなんだろう。
「……彼女は同じクラスの白倉さん…つ」
「つ?」
「つ、付き合って……るんだ」
はにかみ気味な自分が自分で気持ち悪い。本当に許して欲しい。
栞と玲二の二人が、硬直している気がした。必要以上に時間の流れを、長く感じてしまっているのかもしれない。
「隼人君の彼女です。よろしくね」
白倉さんは愛想が良い感じだった。ちょっと冷たい言い方かもしれないが、クラスでの深窓の令嬢的な雰囲気、あるいは大人びた印象と、まるっきり違う明るさを帯びている。
「えー、全然知らなかった! いつから? いつから付き合ってたの!?」
「べ、別にいつからでもいいだろ」
やや興奮気味な栞とは裏腹に、玲二は黙ったままだった。
「ねぇ、白倉さん。隼人のどこがいいの?」
歩いているときも栞の質問攻めは続く。
「もちろん、全部!」
白倉さんが後ろから僕に抱きついて見せる……。
「あ~、隼人照れてるなぁ。お熱いことで」
「からかうなよ……」
「いいなぁ。私も彼氏ほしいなぁ」
「じゃあ、俺とつき合おうぜ」
玲二がようやく口を開いた。
「えー、遠慮しときます」
「あれ? 二人はつき合ってるんじゃないの?」
白倉さんが不思議そうに言った。
二人が驚いた顔で顔を見合わせたが、白倉さんの言葉に動揺したのは、むしろ僕の方だったかもしれない。
「まっさかぁー! やめてよ白倉さん」
栞は手を横に振り、もう片方の手でお腹を抱え、おかしくてたまらないという動作をしてみせた。
玲二も今どんな気分で笑っているんだろうか……。




