第98話 同じ相手、違う役割
初心者ダンジョンを攻略してからも、五人の休日は変わらなかった。
王都冒険者ギルドへ行き、予定を登録する。
ただし、目的だけが違う。
三十階層へ到達するためではない。
もう到達している。
今度は、そこで何を学べるか。
ミーニャが受付で冒険者証を確認しながら言った。
「本当にまた行くのかにゃ?」
レインが頷く。
「はい。しばらく続けます」
「中級への許可は出てるにゃ」
シリウスが笑う。
「知ってます」
「普通はそっちへ行きたがるにゃ」
アルスが答えた。
「まだ初心者ダンジョンで試したいことがあるので」
ミーニャは五人を見回し、最後に小さく笑った。
「なら好きなだけ使うといいにゃ。ただし、慣れた頃が一番危ないにゃ」
その言葉を聞いてから、五人は入口の水晶へ向かった。
二十五階層。
一瞬で移動する。
そこから二十九階層までは訓練を兼ねて歩く。シリウスは罠を確認し、アルスは魔素を探り、レインは戦うか避けるかを決める。
前より速い。
でも、雑にはならない。
三十階層。
大扉の前。
レインが言った。
「今日は前と同じ戦い方はしない」
シリウスが聞く。
「じゃあどうする?」
「まず一体をシリが引くところまでは同じ。でも、残った一体への役割を変える」
アルスが理解する。
「誰かがいつもの仕事をしない?」
「そう。毎回同じ役割で勝てても、誰かが怪我した時に困るから」
リリアが頷いた。
「回復が必要になれば、わたくしも補助を維持できない時間が出ますものね」
アイリスも杖を見る。
「魔力が尽きれば、わたしも攻撃役ではなくなります」
それぞれが。
いつも通り動ける。
それを前提にしすぎない。
今日は、そこを見る。
大扉を開く。
オーガ二体。
前回と同じ構成ではない。
どちらも素手。
シリウスが小さく言った。
「同じじゃないな」
アルスも魔素を見る。
大きさは近い。
異常なし。
レインがすぐ決める。
「右をシリ」
「了解」
シリウスが走る。
右のオーガへ近付き、視界へ入る。
「こっち!」
オーガが向きを変える。
追う。
一体。
離れる。
残り一体。
四人。
レインが言う。
「今日はアルが正面」
アルスが一瞬見る。
「僕?」
「うん。僕は横へ回る」
今まで。
強い相手の正面。
基本。
レイン。
それを。
変える。
アルスが前へ出る。
オーガも来る。
拳。
速い。
アルスは避ける。
二発目。
横。
三発目。
少し下がる。
受けない。
でも。
逃げ続けもしない。
オーガの注意を。
自分へ残す。
レインが横へ。
剣。
脚。
一撃。
オーガが振り向きかける。
「こっち!」
アルスが前へ出る。
もう一度。
注意。
戻る。
そこで。
少し分かった。
前衛。
攻撃する人。
ではない。
敵の視線を。
どこへ置くか。
それも。
仕事。
アイリスが後ろから言う。
「撃てます!」
アルスが下がる。
火球。
胸。
直撃。
オーガが揺れる。
リリアの補助。
アルス。
レイン。
二人へ。
次。
オーガがレインを狙う。
今度は。
アルスが横。
脚。
一撃。
役割。
逆。
でも。
戦える。
「いける!」
レインが言う。
アルスも感じていた。
レインほど。
上手くはない。
でも。
できないわけではない。
遠く。
シリウス。
走っている。
まだ問題なし。
こちらを早く終わらせる。
レインが右脚へ。
アルスが正面で拳を誘う。
一発。
避ける。
二発。
避ける。
踏み込み。
右脚。
重心。
そこへレイン。
剣。
深い。
オーガが崩れる。
アイリス。
火球。
脇。
アルス。
首下。
終了。
「シリ!」
四人が走る。
シリウス。
まだ動いている。
ただし。
前回より余裕がある。
こちらを見て叫ぶ。
「早かったな!」
レインが入る。
アルスも。
五対一。
今度は。
短かった。
二体目。
討伐。
戦闘終了。
シリウスが息を整えながら言う。
「アル、前できるじゃん」
アルスも呼吸を整える。
「レインより疲れる」
「僕も横から動く方が楽だったよ」
レインが笑う。
リリアが全員を確認する。
怪我。
なし。
アイリスの魔力。
余裕あり。
以前より。
楽に終わった。
それだけではない。
いつもと違う役割でも。
崩れなかった。
その日の訓練は、それで終わらなかった。
少し休み。
ポータルで入口へ戻る。
時間。
まだある。
でも。
もう一度三十階層へ行くのではなく、二十五階層から二十九階層を回る。
次の戦闘。
大型ゴブリン。
三体。
今度は。
レインが後ろ。
「俺が前?」
シリウスが聞く。
「やってみよう」
シリウスが先頭。
アルス。
横。
アイリス。
後方。
リリア。
中央。
レインは。
全体を見る。
戦闘。
シリウスが一体を受ける。
いつものように動き続けようとする。
でも。
後ろに仲間がいる。
動きすぎると。
隊列が崩れる。
「シリ、動きすぎ!」
レインの声。
シリウスが止まる。
正面。
避ける。
でも。
位置は大きく変えない。
アルスが横。
一体。
アイリス。
もう一体。
火球。
戦闘。
終了。
シリウスが不満そうに言った。
「前って動きにくいな」
レインが笑う。
「でしょ?」
「俺、やっぱ横がいい」
「それが分かっただけでもいい」
得意。
苦手。
やってみないと。
分からない。
二十八階層。
次。
ゴブリンアーチャーを含む四体。
アイリスが杖を構える。
いつもなら。
最初に射手を落とす。
でも。
レインが言った。
「今日は最初、撃たないで」
アイリスが少し驚く。
「わたしがですか?」
「魔力を使えない状況を想定したい」
アイリスは考え。
頷いた。
「分かりました」
戦闘開始。
射手。
矢。
レイン。
避ける。
アルス。
一体。
シリウス。
横から射手へ。
でも。
近付くまで。
矢が来る。
アイリスは魔法を使わず。
位置を知らせる。
「次、レインさん!」
レイン。
避ける。
「シリウスさん、射手がこちらを見ています!」
その瞬間。
シリウスが一気に距離を詰める。
射手。
倒す。
残り。
三。
終了。
アイリスが杖を見て言った。
「何もしないのは難しいですね」
シリウスが笑う。
「何もしなかった?」
アイリスが見る。
「矢の方向ずっと教えてただろ」
少し。
止まる。
アイリスも笑った。
「そうでしたね」
戦わない。
攻撃しない。
それでも。
できることはある。
シリウスがオーガを引いた時と同じ。
役割は。
攻撃回数では決まらない。
次。
リリア。
補助を使わない。
その状態で戦う。
身体が重い。
いつもの速度が出ない。
アルスが一度、避ける距離を読み違えた。
敵の爪が服を掠める。
すぐ離れる。
怪我はない。
でも。
全員。
違いを感じる。
「リリアの補助、かなり頼ってたんだな」
シリウスが言う。
レインも頷く。
「思ってた以上に」
リリアは少し困ったように笑った。
「それは嬉しいですけれど、頼りすぎないでくださいね」
アルスも同意する。
便利。
だから。
前提になる。
収納魔道具と。
同じ。
あることを。
当たり前にすると。
なくなった時に。
困る。
冒険も。
道具も。
人も。
同じだった。
その日の最後。
二十五階層のポータル部屋。
五人は水晶の近くで少し休んでいた。
レインが記録を見る。
「アルは正面もできる。シリも前には立てるけど、自由に動けなくなると強みが減る」
シリウスが頷く。
「俺は横か、一人で引く方がいい」
「アイリスは魔法を使わなくても敵の位置を見られる」
アイリスが言う。
「でも、攻撃できる方が楽です」
皆が笑う。
「リリアの補助がないと、僕らはかなり動きが落ちる」
リリアが続けた。
「ですから、常に最大で掛け続けない方が良いかもしれません。必要な時に強める形なら、魔力も残せますわ」
アルスはその言葉に頷いた。
同じ五人。
でも。
組み合わせ。
役割。
強さ。
全部。
一つではない。
一回勝った形。
それを完成形にする必要もない。
むしろ。
崩してみる。
入れ替えてみる。
そうすれば。
誰が何を得意としていて。
どこを誰が補っているのか。
見えてくる。
シリウスが立ち上がった。
「じゃあ次、レインに後衛やらせようぜ」
レインが苦笑する。
「何するの?」
「そこから考える」
「意味ないでしょ」
五人の笑い声が、静かなポータル部屋に響いた。
初心者ダンジョン攻略後。
最初の訓練日。
倒した魔物は。
以前と同じ。
でも。
見えているものは。
前とは。
少し違っていた。




