第90話 強さではなく、相性
次の探索では、十五階層から先を確認することになった。
王都冒険者ギルドで入場予定を登録すると、ミーニャが五人の顔を見る。
「今日は十五階層の先かにゃ?」
レインが頷く。
「はい。前回、大きい反応一つと小さい反応二つを確認しています」
「無理そうなら戻るにゃ」
シリウスが笑う。
「もう分かってます」
ミーニャも笑う。
「それならいいにゃ」
ダンジョンへ入る。
一階層から十階層までは、かなり速い。
戦闘がないわけではない。
でも。
止まり方。
確認の仕方。
隊列の変え方。
その一つ一つで迷う時間が減っている。
十五階層。
前回。
ここで戻った。
アルスはすぐに魔素を見る。
「いる」
レインが聞く。
「前と同じ?」
「たぶん。大きいの一つ、小さいの二つ」
シリウスが剣を確認する。
「今日は見るんだろ?」
「見る」
五人は慎重に進む。
広い部屋。
奥。
大型の魔物。
その左右に小型。
姿が見える。
大型は、厚い甲殻に覆われた四足の魔物だった。
低い。
横に広い。
頭部にも硬そうな外殻。
小型二体も同じ種類だが、かなり小さい。
シリウスが小声で言う。
「硬そう」
レインも。
「剣、通るかな」
アルスは魔素を見る。
異常なし。
変異種ではない。
でも。
身体そのものが。
明らかに硬い。
資料で見たことがある。
アーマービートル。
甲殻系魔物。
大型個体。
正面からの斬撃に強い。
シリウスが言う。
「じゃあアイリスの魔法でいける?」
アイリスは少し考える。
「外殻が熱に強い種類なら、普通の火球では効きにくいかもしれません」
リリアが言う。
「まず小さい方からでしょうか」
レインが頷く。
「それが良さそうだね」
戦闘。
小型二体が先に動く。
速くはない。
ただし。
低い。
剣を振り下ろす必要がある。
レインが一体を斬る。
金属に近い音。
浅い。
「硬い!」
アルスももう一体へ斬る。
同じ。
刃は入る。
でも。
浅い。
シリウスが横へ回る。
「脚の付け根!」
短剣。
刺す。
入る。
小型が大きく暴れる。
「そこ柔らかい!」
レインがすぐ狙いを変える。
正面。
ではなく。
脚。
関節。
隙間。
一体。
倒れる。
もう一体。
アルスが前で注意を引く。
シリウスが横。
レインが逆側。
アイリスは撃たない。
まだ。
大型が来る。
床を擦るように走る。
速い。
見た目より。
ずっと速い。
「来る!」
レインが前へ。
盾はない。
剣で受ける相手ではない。
横へ避ける。
大型がそのまま通過。
壁。
衝突。
石が砕ける。
シリウスが言う。
「受けたらまずいな」
アルスも同意する。
強い。
でも。
問題は。
そこではない。
今までの五人の戦い方。
レインが止める。
アルスが横。
シリウスが回る。
アイリスが撃つ。
リリアが支える。
それが。
この相手には噛み合わない。
レインが正面で止められない。
剣が通りにくい。
火球も。
試す必要がある。
大型がもう一度突進する。
「散開!」
五人が左右へ。
大型。
通過。
アイリスが火球。
背中へ。
直撃。
炎。
広がる。
大型が止まる。
でも。
倒れない。
外殻。
焦げる。
それだけ。
アイリスが言う。
「やっぱり効きが弱いです!」
シリウスが叫ぶ。
「じゃあ脚!」
大型。
方向転換。
シリウスへ。
速い。
シリウスが避ける。
ギリギリ。
レインが言う。
「追うな! 突進の後だけ!」
全員。
止まる。
待つ。
大型。
また突進。
今度は。
アルス。
横へ避ける。
壁。
衝突。
その瞬間。
五人が動く。
シリウス。
右脚。
アルス。
左脚。
レイン。
後脚。
アイリス。
外殻ではなく。
腹側。
低い位置。
火球。
爆発。
大型が大きく揺れる。
「効いた!」
でも。
まだ倒れない。
リリアが言う。
「もう一度同じ形ならいけます!」
レインが頷く。
今までと違う。
止めない。
受けない。
追わない。
待つ。
突進させる。
壁へ。
止まった瞬間だけ。
全員で攻撃。
役割。
一度。
作り直す。
大型。
もう一度来る。
今度はレイン。
避ける。
壁。
衝突。
シリウス。
関節。
アルス。
腹側。
レイン。
脚。
アイリス。
火球。
同じ場所。
リリア。
攻撃ではなく。
三人へ身体強化。
大型の脚が崩れる。
姿勢。
低くなる。
アルスが言う。
「頭じゃない! 腹!」
全員。
集中。
最後。
大型が倒れる。
静かになる。
魔素。
消える。
戦闘終了。
五人は。
すぐに座らなかった。
周囲。
確認。
残り。
なし。
それから。
息を吐く。
シリウスが床へ座る。
「疲れた」
レインも。
「今までで一番戦いにくかったかも」
アイリスが杖を見る。
「魔法が効かないわけではありませんでした。でも、当てる場所で全然違いました」
アルスは大型の外殻を見る。
強かった。
でも。
単純に今までで一番強い。
とは。
少し違う。
オーク。
変異種。
大型ゴブリン。
それぞれ。
危険。
でも。
この魔物は。
五人の今までの戦い方そのものと。
相性が悪かった。
「強さだけじゃないね」
アルスが言う。
シリウスが見る。
「何が?」
「相性」
レインも頷く。
「正面を止められない相手だと、僕の役割を変えないといけない」
アイリスも。
「外殻へ魔法を撃ち続けても、魔力を無駄にします」
リリアが続ける。
「回復を前提に受け続けるのも危険ですわ」
シリウスが自分の短剣を見る。
「俺はこういう相手だと隙間狙えるから、逆にやりやすい部分もあった」
それだった。
一人にとって。
戦いにくい。
別の一人には。
戦いやすい。
だから。
五人。
固定パーティー。
同じ形を繰り返すためではない。
相手によって。
誰を中心にするか。
変える。
アルスは記録する。
――甲殻系大型個体。
――正面斬撃、低効果。
――火球、外殻への効果小。
――関節、腹部、有効。
――突進後の硬直時間あり。
――迎撃より回避後反撃が有効。
シリウスが横から見る。
「完全に研究者だな」
アルスは笑う。
「冒険者でも記録はするでしょ」
「ここまで細かく?」
「次に楽になる」
「それならいい」
魔石。
大型一。
小型二。
回収。
収納魔道具の空き枠へ。
でも。
五人は。
そこから先へ進まなかった。
戦闘時間。
長い。
疲労。
大きい。
魔力。
アイリス。
かなり使用。
リリアも補助を何度も使った。
帰還条件。
十分。
レインが言う。
「戻ろう」
全員。
即答。
「うん」
帰路。
十四階層。
十三。
途中。
ゴブリン二体。
以前なら。
何でもない。
でも。
今は。
疲れている。
レインが言う。
「避けられる?」
アルスが魔素を見る。
別ルート。
ある。
遠回り。
でも。
戦わなくていい。
「回ろう」
五人。
避ける。
シリウスも何も言わない。
戦える。
でも。
戦わない。
疲れている時。
それも。
選択。
ギルドへ戻る。
ミーニャ。
一。
二。
三。
四。
五。
「おかえりにゃ」
報告。
十五階層。
アーマービートル大型一。
小型二。
討伐。
負傷。
なし。
魔力消費。
多め。
疲労。
大。
帰還。
ミーニャが聞く。
「苦戦したにゃ?」
レインが答える。
「かなり」
シリウスが言う。
「硬かった」
アイリスも。
「いつもの戦い方が通じませんでした」
ミーニャは少し笑う。
「それがダンジョンにゃ」
アルスが聞く。
「こういう相手、もっと増えますか?」
「深くなるほど増えるにゃ。強いだけじゃなく、面倒なのも増えるにゃ」
そこへ。
ボルドが受付の奥から出てきた。
「面倒って言い方は雑だろ」
ミーニャが笑う。
「分かりやすいにゃ」
ボルドは報告書を見る。
「アーマービートルか」
レインが頷く。
「正面で止められませんでした」
ボルドはすぐ答える。
「なら止めるな」
レインが少し笑う。
「途中でそうしました」
「ならいい」
ボルドは五人を見る。
「前衛ってのは、全部受ける奴じゃねぇ」
レインが聞く。
「じゃあ何ですか?」
「仲間が戦いやすくする奴だ」
少し。
沈黙。
レインはその言葉を。
かなり真剣に受け取った。
アルスも。
同じだった。
前。
後ろ。
攻撃。
支援。
そういう名前だけでは。
足りない。
相手。
場所。
状態。
それで。
役割は変わる。
五人は。
また一つ。
新しい形を覚えた。




