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第75話 壊れる場所を選ぶ

翌日、研究室の机には壊れた試験機が置かれていた。


空間維持中核を切断したもの。

外側の制御線だけを壊したもの。

革の外装だけが裂けたもの。

魔石交換部が緩んだもの。


シリウスが並んだ残骸を見る。

「こうして見ると、結構壊したな」


アルスも同じことを思った。


「でも、どこが壊れると危ないかは分かった」

レインが言う。

「一番まずいのは中核だね」

「うん」


ティアが壊れた術式板を持ち上げる。

「なら次は、そこを守る」


単純だった。


問題がある場所が分かった。

次はそこを壊れにくくする。


でも。


どう守るか。


アルスは外装案をいくつか並べる。


厚い金属板で覆う。

硬い箱へ入れる。

衝撃を吸収する革を重ねる。

中核そのものを中央へ移す。


シリウスが一番厚い案を見る。

「これなら壊れないんじゃない?」


レインが持ち上げる。

「重い」


「収納すれば重さ減るだろ」


「収納魔道具自体は収納できないよ」


「ああ」


すぐ終わった。


携帯する道具なのに。


守るために重くしすぎれば意味がない。


アイリスが言う。

「全部を硬くする必要はないのでは?」


アルスが見る。

「どういうこと?」


「大事なところだけ硬くして、他は壊れてもいいようにする」


ティアが少し笑った。

「ようやく面白くなったな」


壊れないようにする。


ではなく。


壊れる場所を選ぶ。


アルスはすぐ紙を出した。


外装へ強い衝撃が加わった時。


全部が同じ硬さなら。


衝撃はそのまま内部へ届く。


でも。


先に変形する場所を作れば。


そこで力を逃がせる。


レインが言う。

「防具と似てるかも」


「防具?」


「全部を硬くすると動けないから、守る場所と動く場所を分ける」


アルスは頷いた。


「それに近い」


中核の周囲だけ。


硬い枠。


その外側。


少し柔らかい支持部。


さらに外。


革の外装。


衝撃が入った時。


まず革。


次に支持部。


最後に中核。


シリウスが言う。

「外側から順番に壊れる?」


「理想はね」


「中身を守るために外側が犠牲になる」


「うん」


リリアが言う。

「壊れたことが分かるようにもした方がいいですね」


アルスが止まる。


確かに。


外側が壊れて。


中核が無事。


それはいい。


でも。


使用者が気付かず使い続けたら。


次の衝撃で中核まで壊れるかもしれない。


「表示がいる」


アイリスが言う。


「破損表示?」


「正常に使えるかどうか」


今までは。


収納数。

魔石残量。

選択位置。


そういう表示だった。


今度は。


道具自身の状態。


アルスは新しい項目を書く。


――保護構造。

――破損検知。

――使用継続可否。


ティアが言う。

「増えたな」


シリウスが笑う。

「また機能増えてる」


アルスも少し笑った。


「でもこれは必要」


最初の保護試験機を作る。


中核を小さな金属枠へ固定。


その外へ薄い弾性材。


さらに革。


見た目は。


試作一号より少し厚い。


でも。


手に持つと。


そこまで重くない。


「落とす?」


シリウスが聞く。


「落とす」


高さ。


腰。


一回。


問題なし。


肩。


問題なし。


机より少し高い位置。


問題なし。


次。


石の床。


角から落とす。


外装。


凹む。


支持部。


少し変形。


中核。


正常。


アルスが入口を開く。


中身。


全部残っている。


「成功?」


レインが聞く。


「今の衝撃では」


ティアが言う。

「まだ弱い」


次。


より高い位置。


落とす。


鈍い音。


外装。


大きく潰れる。


支持部。


明確に変形。


中核。


正常。


ただ。


入口が開かない。


シリウスが言う。

「壊れた?」


アルスが確認する。


中核反応。


正常。


外部制御部。


断線。


「中身は無事。でも開けない」


リリアが言う。

「前と同じですね」


「うん。でも今回は狙った場所で壊れた」


ティアが頷く。


「それでいい」


シリウスが驚く。

「いいの?」


「中核が壊れるより百倍ましじゃ」


制御線を修理。


入口。


復帰。


中身。


全部無事。


レインが言う。

「外側を直せば戻る」


「うん」


アルスは記録する。


――高衝撃時、外部制御部損傷。

――空間中核保持。

――修理後、内容物回収可能。


次。


さらに衝撃を上げる。


今度は。


単純に落とすのではない。


重い物を上から落とす。


全員が防護位置へ移動する。


試験機の上に。


金属塊。


落下。


大きな音。


シリウスが顔をしかめる。

「これは壊れたろ」


外装。


完全に潰れている。


支持部。


破断。


中核。


アルスが測定を見る。


反応。


ある。


「生きてる」


レインが言う。

「本当に?」


「うん」


ただし。


入口は当然開かない。


外装を外す。


内部。


中核の周囲。


金属枠。


少し歪んでいる。


でも。


術式板そのものは。


割れていない。


ティアが言う。

「やっと壊れ方らしくなったな」


アルスも頷いた。


壊れない。


ではない。


外装が壊れる。


支持部が壊れる。


制御部が壊れる。


でも。


最後まで。


中核を守る。


それが。


一番現実的だった。


リリアが言う。

「修理前提なんですね」


ガルドはその日も来ていた。


「むしろ、その方が商売として扱いやすいです」


シリウスが見る。

「壊れる方が?」


「壊れない道具は作れません。でも、壊れた部分を交換できるなら直せます」


アルスも気付く。


全部一体。


ではなく。


交換できる部品。


外装。

支持部。

制御部。

魔石接続部。


中核だけ。


できるだけ守る。


ガルドが続ける。

「修理できるなら、売った後も使い続けてもらえます」


ティアが言う。

「売ったら終わりじゃないということじゃな」


「はい」


そこも。


アルスには少し新しかった。


作る。


売る。


終わり。


ではない。


使う。

壊れる。

直す。

また使う。


道具には。


その後がある。


アイリスが言う。

「なら、部品も同じ規格で作らないといけませんね」


ガルドが頷く。

「その通りです」


アルスはすぐ記録へ追加する。


――外装交換可能。

――支持部交換可能。

――制御部交換可能。

――中核は最重要保護対象。


さらに。


――修理部品規格化。


シリウスが言う。

「また百個の話に戻ったな」


「戻ったね」


レインが笑う。


量産。


修理。


安全。


全部。


別の話に見えて。


繋がっている。


午後。


破損表示の試験をする。


方法は簡単。


支持部の一部に。


一定以上変形すると切れる細い検知線を入れる。


切れたら。


表示が変わる。


通常。


白。


要点検。


橙。


使用禁止。


赤。


シリウスが見る。

「色だけで分かる」


アイリスが言う。

「夜は?」


「光るようにする」


リリアが言う。

「色が分からない人もいます」


アルスが止まる。


「じゃあ形も変える」


正常。


丸。


要点検。


三角。


使用禁止。


×。


シリウスが言う。

「それなら俺でも分かる」


アイリスが少し笑う。

「基準として便利ですね」


「また俺?」


でも。


間違えにくい。


誰でも。


見れば分かる。


それは。


正しい方向だった。


次の衝撃試験。


外装変形。


検知線。


切れる。


表示。


橙。


中核。


正常。


さらに強い衝撃。


支持部破断。


第二検知線。


切れる。


表示。


赤。


中核。


まだ正常。


アルスが言う。

「赤なら開かないようにする?」


ティアがすぐ答える。

「そうせい」


危険状態なら。


使用者が無理に開こうとしても。


道具側が拒否する。


修理後。


安全確認。


再び使用可能。


シリウスが言う。

「だんだん面倒な道具になってない?」


アルスは試験機を見る。


「使う人には逆だと思う」


「どういうこと?」


「考えなくていいから」


白。


使える。


橙。


点検。


赤。


使わない。


中の仕組みが複雑でも。


使う側は。


簡単。


そこは。


今までの研究と同じだった。


夕方。


ガルドが試験機を見る。


外装は潰れている。


表示は赤。


でも。


中核は無事。


「これなら説明できます」


アルスが聞く。

「何て?」


「赤なら使わず、修理へ持ってきてください」


「それだけ?」


「それだけでいいんです」


アルスは少し笑った。


研究者には。


衝撃値。

変形量。

中核反応。

空間安定度。


全部必要。


でも。


使う人には。


赤なら使わない。


それでいい。


ティアが言う。

「研究者が全部説明したがると、道具は使いにくくなる」


アルスも納得した。


最後。


アルスは記録板へ書く。


――安全性向上方針。


――壊れない構造ではなく、中核より先に外部部品が破損する構造とする。


――破損状態を使用者へ明示。


――危険状態では起動を禁止。


――交換可能部品を規格化。


その下。


――安全とは、壊れないことではなく、壊れ方を制御できること。


シリウスが読んで言う。

「今日はそれが一番分かりやすい」


アルスも頷いた。


収納魔道具は。


少しずつ。


強くなっている。


でも。


強くするというのは。


硬くすることだけではなかった。


どこが壊れるか。


壊れた時にどう知らせるか。


直せるか。


中身を守れるか。


そこまで含めて。


ようやく。


人に預けられる道具になっていく。


机の上には。


潰れた外装。


折れた支持部。


切れた制御線。


そして。


傷のない空間中核。


一番守りたいものだけが。


最後まで残っていた。

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