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第69話 順番に取り出す

次の日、研究室の机には三つの容器が並んでいた。


一つ目はパンと肉。

二つ目はスープと野菜。

三つ目は焼き魚と果物。


シリウスが順番に見る。

「今日は三食?」


アルスが頷く。

「朝、昼、夜のつもり」


「全部今日食べる?」


「試験が終わればね」


「よし」


アイリスが呆れたように言う。

「毎回そこだけは確認が早いですね」


今回作るのは、五つの固定点を選ぶ収納魔道具ではない。


一つ入れる。

次を入れる。

さらに次を入れる。


そして、取り出す時は最初に入れたものから。


ただそれだけ。


レインが図を見る。

「今までより簡単そうに見えるね」


「見えるだけかもしれない」


アルスは五固定点型の術式と、新しく描いた案を並べる。


試作一号は、それぞれ違う固定点を持っていた。


一番。

二番。

三番。

四番。

五番。


使用者が選び、その場所から取り出す。


食料用では、それをやめる。


固定点を一つずつ選ばせる代わりに、内部側が順番を覚える。


「覚える?」


シリウスが聞く。


「正確には、次に使う位置を術式側でずらす」


アルスは円を描き、その周囲に小さな印を置く。


一つ目を入れたら次へ。

二つ目を入れたらさらに次へ。

三つ目も同じ。


取り出す時は、一番古い位置から。


「ぐるぐる回る感じ?」


レインが聞く。


「今のところはそれが近い」


ティアが図を覗き込む。

「ただし、入れる側と出す側を別々に管理せんと詰まるぞ」


アルスが止まる。


「どういうこと?」


「三つ入れて、一つ出す。そのあと一つ追加したらどうする」


シリウスがすぐ言う。

「空いたところに入れる」


「どこが空いたか誰が覚える?」


「魔道具?」


ティアが鼻を鳴らす。

「ならその仕組みを作れ」


アルスは紙へ二つの印を追加する。


収納位置。


取り出し位置。


別々に動かす。


一つ入れるたびに収納位置が進む。

一つ出すたびに取り出し位置が進む。


レインが言う。

「二つの順番を持つんだ」


「うん」


アイリスが聞く。

「途中のものだけ取り出すことは?」


「できない」


「本当に?」


「食料用なら、それでいいと思う」


アルスは少し考えてから続ける。

「何でも取り出せるようにすると、また表示も選択も増えるから」


リリアが頷く。

「朝食を入れて、昼食を入れて、夕食を入れるなら、順番通りで困りませんね」


シリウスが言う。

「朝に夜飯食いたくなったら?」


アイリスが即答する。

「我慢してください」


「厳しい」


レインが笑った。


最初の試験機は三枠。


容量を増やす前に、順番だけを見る。


アルスが術式板を作る。


固定点そのものは、以前使ったものと大きく変わらない。


違うのは制御部。


今どこへ入れるか。

今どこから出すか。


その二つを記録する小さな循環構造を加える。


シリウスが覗く。

「また輪っか増えたな」


「時間停止の輪とは別だよ」


「見分けつかない」


「僕も最初はそうだった」


ティアが聞き逃さない。

「今も完全に分かっとると思うなよ」


「はい」


まず、金属片で試す。


一個目。


収納。


表示が一つ増える。


二個目。


収納。


三個目。


収納。


三つ満杯。


「出すよ」


アルスが取り出し操作をする。


一つ目。


出る。


もう一度。


二つ目。


出る。


三回目。


三つ目。


順番通り。


シリウスが言う。

「普通だな」


「普通に動くのが大事なんだよ」


次。


三つ入れる。


一つ出す。


そのあと新しい金属片を一つ追加。


内部では、一番目の固定位置が空いている。


そこへ新しいものが入る。


でも。


取り出されるのは。


二つ目。

三つ目。

最後に追加した四つ目。


順番通り。


アイリスが言う。

「ちゃんと後ろに並びましたね」


アルスも頷く。


「これなら使う側は、中の位置を知らなくていい」


リリアが言う。

「何個入っているかだけ分かればいいですね」


そこだった。


表示も変える。


一番。

二番。

三番。


ではない。


残り数。


空。

一つ。

二つ。

三つ。


使用者が知る必要があるのは、どこにあるかではなく、あと何食入っているか。


レインが言う。

「かなり簡単になったね」


「用途を絞ったから」


ティアが少し笑う。

「昨日言ったことをようやく形にしたな」


次は料理。


一つ目。


パンと肉。


二つ目。


スープと野菜。


三つ目。


焼き魚と果物。


収納。


数時間待つ。


その間に研究室の中を持って歩く。


今回は操作部分も少ない。


入れる。

閉じる。

出す。


それだけ。


夕方。


一食目。


パンと肉。


正しい。


二食目。


スープと野菜。


正しい。


三食目。


焼き魚と果物。


正しい。


温度。


変化なし。


匂い。


変化なし。


容器。


破損なし。


シリウスが満足そうに言う。

「これなら俺でも使える」


アイリスが見る。

「そこを基準にするんですか?」


「大事だろ」


アルスは笑う。

「結構大事かも」


説明をほとんど読まなくても使える。


それは。


試作一号を作る時にも何度も出た問題だった。


ただし。


新しい問題もすぐ出る。


レインが空になった試験機を見て言った。

「これ、一個だけ食べたい時はいいけど、五人分まとめて出したい時は面倒じゃない?」


アルスが止まる。


一食ずつ。


一食ずつ。


一食ずつ。


五人分なら五回。


十人なら十回。


「確かに」


アイリスも言う。

「個人用と班用で、また違いそうですね」


シリウスが言う。

「じゃあ俺用とみんな用を作る」


「また簡単に増やす」


「用途分けるって言っただろ?」


アルスは少し笑った。


言っていること自体は正しい。


個人用。


班用。


さらに。


長期遠征用。


人数と日数で。


必要な容量も、取り出し方も変わる。


リリアが言う。

「班用なら、一食分ではなく一回分をまとめる方法もありますね」


「一回分?」


「五人分の夕食を、一つの大きな容器にまとめるんです」


レインが頷く。

「それなら一回取り出せば全員分」


アルスは紙へ書く。


――個人用:一食単位。

――班用:一回の食事単位。


同じ食料収納でも。


使い方が違う。


シリウスが言う。

「班用の方が俺は好き」


「なんで?」


「いっぱい出るから」


「理由がずっと食欲なんだよね」


「重要だろ」


アイリスとリリアが笑う。


ティアは机の端で、新しい試験機を手に取った。


「操作は簡単になった」


アルスが見る。


「うん」


「では次に見るものは何じゃ」


少し考える。


容量。


それもある。


魔石消費。


それも。


外装。


容器。


でも。


アルスは試験機を見る。


「詰まった時」


ティアが頷く。


「そうじゃ」


三つ入る。


三つ出る。


正常な使い方なら。


動いた。


でも。


途中で容器を無理に入れたら。

大きすぎるものを入れたら。

満杯なのに押し込もうとしたら。

取り出し途中で手を離したら。


用途を簡単にしたなら。


失敗した時も。


簡単でなければならない。


シリウスが嫌そうな顔をする。

「また壊す試験?」


「壊れないかを見る試験」


「同じじゃない?」


「違うよ」


翌日。


満杯の状態で四つ目を入れる。


入口。


拒否。


表示が点滅。


問題なし。


大きすぎる容器。


入口で止まる。


無理に押す。


安全停止。


問題なし。


取り出し途中で手を離す。


容器は内部へ戻る。


順番は変わらない。


もう一度操作。


同じ容器が出る。


レインが言う。

「途中で次の食事に進まないのはいいね」


「一回ちゃんと出た時だけ進むようにした」


アルスが答える。


次。


容器を斜めに入れる。


止まる。


少し戻す。


入れ直す。


正常。


シリウスが言う。

「俺が使っても大丈夫そう」


アイリスが聞く。

「そこまで自信を持って雑に使うつもりですか?」


「雑に使っても壊れない方がいいだろ」


「それはそうですけど」


また。


正しいところがある。


アルスは記録する。


――順次収納方式、三枠で正常動作。

――収納位置、取り出し位置を独立管理。

――使用者は固定位置を意識する必要なし。

――満杯時は追加収納を拒否。

――取り出し未完了時は順番を進めない。


その下。


――食料用では、自由に選べないことが欠点とは限らない。


アルスは一度手を止める。


何でもできる。


それが。


良い道具とは限らない。


やることを減らす。


間違える場所を減らす。


使う人が考えなくても。


必要なものが出る。


それも。


一つの進歩。


シリウスが記録を見ながら言う。

「じゃあ次は十食?」


アルスは笑った。

「まず五食」


「減った」


「三から増えてるよ」


「十でもいいのに」


ティアが言う。

「五で安定してから言え」


「はい」


試作一号では。


五つの場所を作ることが目標だった。


今度は違う。


五つの場所を。


使用者に意識させない。


同じ五という数でも。


作ろうとしている道具は。


もう別のものだった。

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