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第55話 同じものを作る

数日後。


研究室に、小さな木箱が届いた。


ティアが机の上へ置く。


「来たぞ」


シリウスがすぐ寄ってくる。


「何?」


「魔石じゃ」


「それだけ?」


「開ければ分かる」


アルスが蓋を開ける。


中には、小さな魔石が二十個。


一つずつ。


薄い紙に包まれている。


その横には。


番号。


採掘場所。


大きさ。


重さ。


簡単な容量測定値。


ガルドが言っていた記録だった。


アイリスが一枚取る。


「本当に全部記録されていますね」


レインも魔石を一つ持ち上げる。


「見た目もかなり揃ってる」


リリアが並べる。


今まで研究室で使っていた魔石と比べると。


形の違いが少ない。


大きさも。


かなり近い。


シリウスが一つつまむ。


「これ、全部同じ?」


「同じではないよ」


アルスが記録を見る。


「でも差が分かる」


そこが。


今までと違った。


魔石そのものに差があることは。


前から知っていた。


でも。


今までは。


どのくらい違うのか。


正確には分からないまま使っていた。


今回は違う。


一個目。


二個目。


三個目。


それぞれ。


最初から数字がある。


「じゃあ今日は」


レインが言う。


「この魔石で同じものを何個か作る?」


アルスが頷く。


「それをやりたい」


ティアも言う。


「一台だけ動くものを作る段階は終わりじゃ」


アルスは机の上の携帯型収納魔道具を見る。


今のものは。


何度も作り直した結果。


ようやく安定して動いている。


でも。


同じ設計図を使って。


もう一つ作った時。


同じように動く保証はまだない。


「何台?」


シリウスが聞く。


ティアが答える。


「まず三台」


「少なくない?」


「三台全部同じに作れん者が、十台作ってどうする」


「それもそうか」


アルスは記録板を開く。


今回。


変えるものはできるだけ減らす。


術式。


同じ。


金属板。


同じ厚さ。


接続材。


同じ。


革。


同じ種類。


魔石。


ガルドが揃えた同規格。


作業順。


同じ。


「作る人も同じにする?」


アイリスが聞く。


アルスは少し迷う。


ティアがすぐ言った。


「最初は同じでよい」


「僕が三つ?」


「そうじゃ」


「その次は?」


「別の者に作らせる」


シリウスが嫌そうな顔をする。


「俺じゃないよな」


ティアが見る。


「候補には入っとる」


「やっぱり」


研究室に笑いが起きる。


まず。


一台目。


アルスは。


今までより。


ずっと丁寧に作った。


というより。


途中で勝手に変えないようにした。


今までは。


ここを少し太く。


ここはこっちの方が良さそう。


そんな判断を。


作りながら入れていた。


今日は。


決めた通り。


作る。


線幅。


接続位置。


板の間隔。


固定具。


全部。


記録通り。


一台目。


完成。


次。


二台目。


同じ。


三台目。


同じ。


シリウスが途中で言う。


「地味だな」


「地味だね」


アルスも認める。


「でも大事」


「分かるけどさ」


レインが三台を見る。


「見た目はほとんど同じだね」


アイリスも近くで見る。


「違いを探す方が難しいです」


ティアが言う。


「見た目が同じなのと、動きが同じなのは別じゃ」


試験。


一台目。


起動。


正常。


入口。


安定。


三つの固定点。


収納。


回収。


問題なし。


二台目。


起動。


少しだけ。


入口が開くまで遅い。


アルスがすぐ記録する。


「差が出た」


「どこ?」


レインが聞く。


「起動まで」


三台目。


こちらは。


入口が開いた後。


最初の数秒だけ揺れが大きい。


シリウスが言う。


「同じに作ったのに違う」


「うん」


アルスは少し嬉しそうだった。


アイリスが見る。


「嬉しいんですか?」


「違いが出たから」


「普通は困るところでは?」


「困るけど、見つかった」


ティアが笑う。


「研究者みたいな顔になってきたの」


アルスは三台を並べる。


同じ設計。


同じ材料。


同じ作業者。


それでも。


違う。


なら。


どこかに。


まだ揃っていないものがある。


まず魔石。


ガルドの記録を見る。


三台に使った魔石は。


確かに近い。


でも。


完全に同じではない。


容量。


わずかな差。


出力。


わずかな差。


アルスはそれぞれ入れ替えてみる。


一台目の魔石を二台目へ。


二台目を三台目へ。


三台目を一台目へ。


再起動。


結果は。


完全には入れ替わらなかった。


「魔石だけじゃない」


レインが言う。


「うん」


アルスは次を見る。


接続部。


二層板の固定位置。


板と板の間隔。


よく見ると。


二台目だけ。


ほんの少し。


片側が近い。


「これ?」


リリアが先に気付いた。


アルスも測る。


差は小さい。


でも。


以前。


入口の安定性は。


小さな寸法差でも変わった。


固定具を外す。


位置を修正。


再試験。


二台目。


起動。


一台目とほぼ同じ。


「これだった」


アルスが言う。


シリウスが覗き込む。


「そんなちょっとで?」


「そんなちょっとで」


三台目。


こちらは。


層間接続部の圧着が少し弱い。


押さえる力を調整。


再試験。


揺れが減る。


アイリスが言う。


「作り方まで揃えないと駄目なんですね」


ティアが頷く。


「設計図だけでは足りん」


アルスは記録板へ書く。


――板間隔。

――固定位置。

――接続圧。

――魔石規格。


そこまで書いて。


止まる。


レインが聞く。


「どうしたの?」


「これ、作業する人によって変わりそう」


「変わるじゃろうな」


ティアが即答する。


シリウスが嫌そうな顔をする。


「こっち見るなよ」


全員がシリウスを見る。


「なんで俺?」


アルスが笑う。


「一番分かりやすいから」


「何が?」


「僕と作業の癖が違う」


「それ褒めてる?」


「かなり」


「怪しいな」


次の日。


シリウスが作ることになった。


もちろん。


最初から全部ではない。


金属板は用意済み。


術式も。


型を使う。


接続位置には。


印。


固定具も。


決めた場所へ入れるだけ。


アルスは横に立つ。


「ここまでやれば、たぶん同じになる」


「たぶんって言ったな」


「だから試すんだよ」


シリウスは作業を始める。


意外だったのは。


かなり慎重だったこと。


普段の勢いと違って。


記録を見る。


位置を見る。


固定する。


もう一度確認する。


レインが小声で言う。


「こういう時、ちゃんとしてるよね」


アイリスも頷く。


「規則があると強いんですね」


シリウスが顔を上げる。


「聞こえてるぞ」


「褒めてるよ」


「ならいい」


完成。


四台目。


シリウス製。


全員が見る。


「緊張するな」


「作った本人が?」


「するだろ」


起動。


入口。


開く。


安定。


収納。


一つ。


二つ。


三つ。


正常。


回収。


正常。


閉鎖。


正常。


数秒。


誰も言わない。


シリウスが聞く。


「動いた?」


アルスが笑った。


「動いた」


「よし!」


シリウスが大きく拳を上げる。


ティアがすぐ言う。


「まだ一台じゃ」


「今だけ喜ばせろよ」


でも。


意味は大きかった。


アルスだけが。


感覚で作れるものではない。


決めた材料。


決めた寸法。


決めた順番。


決めた固定方法。


それがあれば。


別の人でも。


同じものを作れる可能性がある。


「これ」


レインが言う。


「研究から作り方に変わってきてるね」


アルスも。


そう思った。


どうすれば動くか。


それを探していた時とは違う。


今は。


どうすれば。


誰が作っても。


同じように動くか。


そこを見ている。


ティアが机へ新しい紙を置く。


「なら次は、作業手順を書け」


アルスが見る。


「全部?」


「全部じゃ」


「長くなる」


「だから書く」


シリウスが笑う。


「頑張れ」


「君も書くんだよ」


「なんで?」


「作った側だから」


「そういうところだけ公平だな」


夕方。


机の上には。


四台の携帯型収納魔道具が並んでいた。


完全に同じではない。


まだ。


微妙な差はある。


でも。


同じ材料。


同じ手順。


同じ基準。


それを使えば。


別の人が作っても。


同じ機能へ近づける。


アルスは記録の最後に書いた。


――再現性確認、一段階進展。


その下に。


――設計とは形を残すことではない。


少し考える。


もう一行。


――同じ結果へ辿り着く方法を残すこと。


研究室には。


一つの成功作ではなく。


似た四つの魔道具が並んでいた。


それは。


見た目以上に。


大きな違いだった。

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