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第51話 器を作る

翌日の放課後、研究室の机には試作九号と、いくつかの外装候補が並んでいた。


木。

革。

薄い金属板。

布。

そして、形の違う持ち手。


シリウスがそれを見て言う。

「急に工作っぽくなったな」


「今までずっと魔法陣ばっかりだったからね」

アルスが答える。


レインは木製の箱を持ち上げる。

「これなら丈夫そう」


アイリスは革張りの方を見る。

「でも重くなりませんか?」


リリアは布製の簡易カバーを触る。

「これは軽いですけど、衝撃には弱そうですね」


ティアが言う。

「全部一長一短じゃ。だから用途を決める」


またそこだった。


何に使うか。


どこへ持っていくか。


誰が使うか。


それで必要な形が変わる。


アルスは記録板を開く。


「最初は冒険者向けを想定する?」


レインが頷く。

「持ち歩くなら、丈夫さはかなり大事だと思う」


「雨もありますね」

アイリスが言う。


「落とすことも」

リリア。


シリウスが言う。

「ぶつけるのもある」


アルスが見る。

「シリウス基準?」


「普通にあるだろ」


「まああるね」


全員が少し笑う。


候補条件を書き出す。


軽い。

丈夫。

濡れにくい。

持ちやすい。

内部の魔法陣を守れる。

壊れた時に危険が出にくい。


ティアが言う。

「それから修理しやすさじゃ」


アルスが顔を上げる。


「外装って修理前提?」


「道具は壊れる」


短い答えだった。


「魔法陣が無事でも、外側が壊れて使えんようでは意味がない。逆に外装だけ交換できるなら、術式部まで作り直さんで済む」


アルスはすぐに記録する。


――外装と術式部は分離可能にする。


レインが言う。

「中身とケースを別にする感じ?」


「そうじゃ」


アルスは試作九号を見る。


今までは一枚の金属板そのものが装置だった。


でも完成品なら。


中に術式部。


外にケース。


その方が自然だ。


「じゃあ外装が壊れても、中だけ取り出せる」


「うん」


アイリスが言う。

「それなら、外装の形を用途別に変えることもできますね」


アルスの手が止まる。


鞄型。

箱型。

腰に付ける小型。

荷車用の大型。


一つの技術。


でも形は一つでなくていい。


シリウスが言う。

「俺は腰に付けたい」


「三個しか入らないのに?」


「三個だからこそだろ」


レインが笑う。

「それはちょっと分かる」


リリアが言う。

「薬だけ入れるなら、小さい方が便利ですね」


また用途が広がる。


アルスはすぐに書きすぎそうになって、手を止めた。


ティアが見る。


「今、増やすの止めたな」


「うん」


「少し学んだか」


「少し」


まず一つ。


携帯型。


片手で持てる。


肩から下げることもできる。


外装候補は革と薄い金属の組み合わせ。


全部金属にすると重い。


全部革だと保護が弱い。


「外側は革、内側に薄い補強板?」

アルスが言う。


レインが持ち上げてみる。

「それなら軽そう」


アイリスが言う。

「でも水は?」


ティアが棚から加工済みの革を持ってくる。


「防水処理したものじゃ」


シリウスが笑う。

「やっぱり何でも出てくるな」


「研究室じゃからの」


その日のうちに、簡単な仮外装を作った。


術式部を中央へ固定。


外側を革で包む。


持ち手。


肩掛け用の帯。


入力部だけは外から触れるようにする。


三つの表示部も見える位置へ。


「急に鞄っぽい」

シリウスが言う。


「見た目はかなり普通になりましたね」

リリアも頷く。


アイリスが少し離れて見る。

「前より怖くないです」


アルスが笑う。

「エマさんに言われたところ」


ティアが外装を持ち上げる。

「見た目だけで安心するな。次は落とすぞ」


全員が止まる。


シリウスだけ少し嬉しそうだった。


「壊す試験?」


「耐久試験じゃ」


「ほぼ同じだろ」


翌日。


床に厚い保護板を敷く。


まず低い位置から。


試作九号を外装に入れた状態で落とす。


軽い音。


回収。


外装に小さな擦り傷。


内部の術式部は無事。


起動。


正常。


収納。


回収。


問題なし。


「次、もう少し高く」

ティアが言う。


アルスが少し嫌そうな顔をする。


「壊れそう」


「壊れるかを見るんじゃ」


机の高さ。


落下。


今度は音が大きい。


外装の角が少し潰れた。


中身を確認。


術式部は無傷。


動作も正常。


シリウスが言う。

「結構強い」


レインも頷く。

「これなら普通に落とすくらいなら大丈夫そう」


アイリスが言う。

「でも毎日何回も落としたら?」


全員が見る。


「それも試す?」

シリウスが聞く。


ティアが頷く。

「当然じゃ」


アルスは少し肩を落とした。


繰り返し落下。


軽い高さから。


十回。


二十回。


外装には傷が増える。


でも内部は動く。


三十回目。


持ち手の縫い目が少し緩んだ。


「ここ」

リリアが気付く。


レインが確認する。

「本体じゃなくて持ち手から壊れそう」


アルスが記録する。


――外装本体より先に接合部が劣化。


シリウスが言う。

「そこ強くすればいい?」


「たぶん」


ティアが言う。

「たぶんではなく、次にそこを変えて比較せい」


また一つ。


壊れた場所が教えてくれる。


魔法陣ではない。


縫い目。


持ち手。


接合部。


今まで見ていなかった部分。


「魔法関係ないな」

シリウスが言う。


アルスも笑う。

「でも道具には関係ある」


ティアが頷いた。


「そこを忘れるな」


午後。


エマが研究室へ顔を出した。


「少し見てもいいですか?」


「ちょうど外装試験してます」

アルスが見せる。


エマは新しい形を見るなり、少し笑った。


「かなり持ちやすそうになりましたね」


肩掛けの帯を持つ。


実際に肩へかける。


数歩歩く。


「まだ少し重いですけど、前よりずっといいです」


アルスが聞く。

「どこが気になります?」


エマは少し考える。


「持ち手が細いです」


全員が縫い目を見る。


さっき劣化が出た場所。


「長く持つと手に食い込みそうです」


アルスが記録する。


また同じ。


耐久試験で見つかった問題と。


使う人の感覚。


別の方向から。


同じ場所へ来た。


レインが言う。

「太くする?」


アイリスが続ける。

「柔らかい素材を巻いてもいいかもしれません」


リリアが言う。

「肩掛けの方も同じですね」


シリウスが笑う。

「魔法より持ち手の話してる」


アルスも笑った。


でも。


嫌ではなかった。


むしろ。


少し面白い。


収納魔道具。


その名前だけ聞けば。


特別なのは中の空間魔法。


でも。


実際に使う時。


毎日触るのは外側だ。


持ち手。


帯。


蓋。


入力部。


表示。


そういう普通の部分。


アルスは記録の最後に書いた。


――特別な機能ほど、普通の使い方に耐えなければならない。


その下に。


――魔道具の完成度は、魔法陣だけでは決まらない。


試作九号は。


初めて。


落とされ。


擦られ。


肩に掛けられ。


持ち手の弱さを指摘された。


研究室の机の上だけで使われていた頃より。


少し傷だらけになった。


でも。


その姿の方が。


前よりずっと。


道具らしく見えた。

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