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第48話 試作八号

試作八号の設計は、これまでとは少し違っていた。


入口を安定させる。

内部を保つ。

固定点を作る。

時間変化を遅らせる。


そういう中身の研究ではない。


今回は、使う人が失敗した時にどうするか。


そのための改良だった。


「見た目、七号とあんまり変わらないな」


シリウスが机の上を覗き込む。


「外側はね」


アルスは新しい魔法陣の一部を指した。


「変わったのはここ。固定点の使用状況を外へ出す」


三つの小さな表示部。


一個目。

二個目。

三個目。


空いていれば消灯。

使われていれば点灯。


「これなら中を見なくても分かる」


レインが言う。


「満杯も一目で分かりますね」


アイリスも頷く。


リリアは別の箇所を見る。


「異常音も二種類に分けたんですか?」


「うん。危険停止と、ただの満杯を同じにしない」


シリウスが笑った。


「昨日の俺のやつ、ちゃんと残ってるじゃん」


「分かりやすかったから」


ティアが言う。


「使う側の意見は馬鹿にするな。研究者が当然と思っとることほど、初見には分からん」


アルスはその言葉を記録していた。


試作八号には、もう一つ追加がある。


入口閉鎖時に何かが境界へ残っていた場合、閉じずに保持する。


七号でも同じ反応は出ていたが、八号ではそれを正式な安全機構として組み込んだ。


「じゃあ今日、壊し方を試す?」


シリウスが言う。


「壊し方じゃない。誤操作試験」


「似たようなもんだろ」


「違う」


最初は通常操作。


レイン。


アイリス。


リリア。


シリウス。


全員問題なし。


一つ目の発光魔道具を入れる。


一番目の表示灯が点く。


二つ目。


二番目も点く。


三つ目。


三つすべて点灯。


「分かりやすい」


レインが言う。


「四つ目いくぞ」


シリウスが追加の発光魔道具を持つ。


「ゆっくり」


「はいはい」


入口へ近づける。


入らない。


同時に、三つの表示灯が一度だけ点滅した。


異常音は鳴らない。


「満杯表示だけ」


アイリスが確認する。


「これなら壊れたと思わないですね」


アルスも頷いた。


次は、一つ回収する。


一番目の表示灯が消える。


新しい物を入れる。


再び点灯。


「固定点の状態と合ってる」


リリアが言う。


ここまでは狙い通り。


次は過剰入力。


ティアが担当する。


通常より強い魔素。


八号は一度だけ短く音を出し、そのまま起動しない。


「危険停止の音」


シリウスが言う。


「満杯と全然違うな」


アルスは記録する。


不足入力では何も起こらない。


安定前に物を入れようとしても収納しない。


大きすぎる木板も入らない。


閉鎖中に木片を挟む。


入口が途中で止まり、危険停止用の音が鳴る。


木片を抜く。


入口は正常に閉じた。


「かなりまとまってきた」


レインが言う。


アルスもそう思う。


七号までは、使えるかどうかを見ていた。


八号は違う。


間違っても壊れにくい。


間違っても何が起きたか分かりやすい。


それだけで、道具としての印象がかなり変わった。


「じゃあ今度こそ外の人?」


シリウスが聞く。


アルスはティアを見る。


ティアも八号をしばらく眺めた。


「よかろう」


全員の空気が少し変わった。


「誰に頼む?」


アイリスが聞く。


「研究に関係ない人」


アルスは前に作った条件を確認する。


収納魔道具の仕組みを知らない。

実験内容も知らない。

安全上必要な説明だけする。

操作方法は最小限。


「学園の職員なら、日常的に魔道具を使ってる人も多いですよね」


リリアが言う。


「それがいいかも」


レインも頷く。


シリウスが言う。


「でも、先生が連れてくる人だと身構えない?」


「それもあるね」


アルスは少し考えた。


「普通にお願いするしかないか」


ティアが言う。


「試験だと伝えろ。隠す必要はない」


「でも、何を見るかは言わない?」


「そうじゃ。使いやすさの試験だと言えば十分じゃろ」


アルスは頷いた。


翌日。


放課後の研究室には、まだ五人しかいなかった。


八号は机の中央。


その横に。


使用者向けの短い紙。


――収納用試作魔道具。

――生き物は入れない。

――異常音が鳴った場合は触らず離れる。


それだけ。


操作方法は書いていない。


「本当にこれだけ?」


レインが聞く。


「初見でどこまで分かるか見たい」


アイリスが言う。


「完全に分からなければ、その時点で設計に問題があるということですね」


「うん」


シリウスが八号を見ながら言う。


「俺なら触る場所すぐ分かるけど」


「知ってるからだよ」


「それ言われると何も言えん」


ティアが研究室の外へ出る。


「呼んでくる」


アルスが止めた。


「先生」


「なんじゃ」


「誰を?」


「研究に関係のない者じゃ」


「新しい人?」


「そうなるかもしれんな」


アルスは少しだけ考えた。


新しい人物。


その瞬間。


この研究が本当に研究室の外へ出る。


今までずっと。


アルス。

レイン。

シリウス。

アイリス。

リリア。

ティア。


この六人だけで見てきた。


次は。


何も知らない誰かが触る。


その反応が。


今までのどんな測定器とも違う結果を返してくるかもしれない。


しばらくして。


廊下から足音が近づいてきた。


一人ではない。


ティアの足音と。


もう一人。


研究室の前で止まる。


シリウスが小さな声で言った。


「来たな」


アルスは試作八号を見る。


入口。

内部。

固定点。

保存。

安全機構。


ここまで作ってきたものが。


初めて。


何も知らない人の手に渡る。


扉が開く直前。


アルスは記録板へ一行だけ書いた。


――ここからは、道具を見るのではなく、使う人を見る。


研究室の扉が開いた。

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