第40話 二つ目の場所
翌日の放課後。
研究室の机には、試作四号と新しい金属板が並んでいた。
昨日。
内部に一つだけ。
物を置く場所らしきものができた。
入れる方向を変えても。
入口を閉じても。
小型発光魔道具は、ほぼ同じ位置へ戻った。
今日は。
それを二つにする。
「単純に同じ構造を二個にする?」
シリウスが聞く。
アルスは古代術式の写しを見る。
「たぶん、それだけじゃ駄目」
「なんで?」
「同じ場所を二個作るかもしれないから」
レインが頷く。
「位置を分ける必要があるんだね」
「うん」
アイリスが図を見る。
「古代術式では、同じ形が少しずつ違う位置に配置されています」
リリアも覗き込む。
「同じ機能でも、場所だけ違う?」
「その可能性を見たい」
ティアは何も言わず。
新しい金属板をアルスの前へ置いた。
「なら書け」
「試作五号?」
「そうじゃ」
入口部分。
内部へ繋ぐ構造。
そこまでは四号と同じ。
違うのは。
位置固定と思われる構造を二つ。
一つ目。
昨日と同じ。
二つ目。
少しずらす。
「どっちにずらす?」
アルスが聞く。
ティアが答える。
「お主が決めろ」
アルスは少し考える。
右。
左。
上下。
奥行き。
目では見えない内部。
外側の図だけで、どの方向に対応するのか分からない。
「じゃあ」
一つ目を基準。
二つ目は。
古代術式と同じように。
角度だけを変える。
「距離は同じ?」
レインが聞く。
「最初はそうする」
「変更点を減らす?」
「うん」
アイリスが少し笑う。
「最近、本当に慎重ですね」
「先生に何回止められたと思ってるの」
ティアが聞こえるように言う。
「まだ足りん」
シリウスが笑う。
試作五号。
完成まで。
思ったより時間がかかった。
同じ構造を二つ。
ただ増やすだけ。
そう思っていた。
でも。
線が増える。
交差する。
魔素の流れが近づく。
一つ目の構造と。
二つ目の構造が。
互いに干渉する可能性もある。
「ここ近すぎない?」
レインが言う。
アルスも見る。
「近い」
「離す?」
「でも離しすぎたら、古代術式と違う」
シリウスが言う。
「じゃあ真ん中」
アイリスが笑う。
「そういう決め方でいいんですか」
アルスは少し考える。
「でも最初はそれでもいいかも」
「え?」
シリウスが驚く。
「正解を知ってるわけじゃないから」
アルスは線を引き直す。
「一回作って、干渉したら離す」
ティアが頷く。
「それでよい」
翌日。
試作五号の試験。
小型発光魔道具を二つ用意する。
同じ型。
同じ魔石。
見分けるため。
一つには小さな白い印。
もう一つには黒い印。
シリウスが言う。
「名前つけようぜ」
アイリスがすぐ返す。
「必要ありません」
「白と黒でいいだろ」
レインが笑う。
「もう名前みたいになってる」
アルスも。
「じゃあ白と黒」
「採用された」
ティアが机を叩く。
「遊ぶなら帰れ」
「始めます」
アルスがすぐ姿勢を戻す。
試作五号。
起動。
外周。
正常。
中央。
揺らぎ。
問題なし。
「入口は四号とほぼ同じです」
リリア。
アイリスも測定器を見る。
「魔素流も大きな変化なし」
まず白。
中央へ入れる。
消える。
探査棒。
昨日の位置。
反応。
「一個目、いる」
シリウスが言う。
「次」
黒。
中央へ。
完全に入れる。
全員が少し緊張する。
アルスは探査棒を入れる。
一個目の位置。
反応。
白は残っている。
次。
二つ目の位置と思われる方向へ。
探す。
反応なし。
少しずらす。
まだない。
さらに。
「ない?」
レインが聞く。
「探してる」
しばらくして。
探査棒が反応した。
「いた」
アルスが記録する。
一個目より。
少し左。
少し奥。
「別の場所?」
アイリスが聞く。
「たぶん」
ティアが言う。
「回収して確認せい」
最初に。
一個目の位置。
保持具。
掴む。
引く。
出てきた。
白。
「合ってる」
次。
二つ目。
保持具。
少し左。
少し奥。
掴む。
戻る。
黒。
シリウスが声を上げる。
「二個できた」
アルスも少し笑った。
「もう一回」
二回目。
今度は入れる順番を逆にする。
黒から。
中央へ。
一個目の位置を探す。
反応。
回収はしない。
次。
白。
入れる。
二つ目の位置。
反応。
全員が少し黙る。
レインが言う。
「入れた順番で場所が決まってる?」
アルスも同じことを考えた。
一回目。
白が一個目。
黒が二個目。
二回目。
黒が一個目。
白が二個目。
「物に場所が決まってるんじゃない」
アイリスが言う。
「空いている固定点へ順番に入っている?」
「そう見える」
アルスが答える。
リリアが聞く。
「じゃあ、一個目を取り出した後に新しい物を入れたら?」
全員が止まる。
シリウスが言う。
「空いた一個目に入る?」
「試したい」
ティアが頷く。
黒。
一個目から回収。
二個目には白を残す。
新しく。
もう一つの小型発光魔道具。
今度は印を付けず。
三個目ではない。
空いた場所へ何が起きるか見るため。
「入れます」
中央へ。
消える。
探査棒。
一個目。
反応。
シリウスが笑う。
「入った!」
二個目。
反応。
白も残っている。
「空いてる場所から使う?」
レインが言う。
アルスは記録する。
――固定点は物体固有ではない可能性。
――空いている固定点へ順次割当。
アイリスが言う。
「これなら、取り出した場所を再利用できますね」
「うん」
シリウスが言う。
「じゃあ棚じゃん」
アルスが少し笑う。
「かなり棚っぽくなってきた」
ティアが言う。
「まだ二段じゃ」
「二段でも棚は棚」
「遊ぶな」
次。
入口を閉じる。
内部には。
二つ。
一個目。
無印。
二個目。
白。
十秒。
再開。
探査。
両方。
同じ位置。
一分。
同じ。
三分。
同じ。
「残った」
リリアが言う。
アルスも頷く。
ここまでは。
かなり順調。
でも。
問題を見る。
「先生」
「なんじゃ」
「三個目入れたらどうなる?」
ティアが少し笑う。
「それを考えると思っとった」
試作五号には。
固定点を二つしか作っていない。
三個目。
入れば。
どこへ行くのか。
入らないのか。
自由な場所へ行くのか。
既存の物と重なるのか。
「危険?」
アルスが聞く。
「分からん」
「じゃあ、小さい物で」
「待て」
ティアが止める。
「今日は二個の再現性を先に取れ」
アルスが少しだけ肩を落とす。
「はい」
シリウスが笑う。
「先生がいなかったら絶対三個目入れてたな」
「たぶん」
「やっぱり」
その日。
試験を繰り返す。
順番を変える。
一個だけ入れる。
二個入れる。
一個取り出す。
もう一個入れる。
入口を閉じる。
再び開く。
結果。
ほとんど同じ。
一個目の固定点。
二個目の固定点。
そこへ。
空いている順に物が配置される。
「これ」
アルスが言う。
「古代術式の繰り返し構造、本当に場所を増やすためかもしれない」
ティアが頷く。
「可能性はかなり上がったな」
アルスの目が少し明るくなる。
「じゃあ、あの繰り返しの数だけ」
「待て」
「まだ言ってない」
「大量に増やそうとした顔じゃ」
シリウスが吹き出す。
「顔だけで止められてる」
アルスも笑う。
でも。
古代術式には。
同じ構造が。
二つではない。
もっとある。
もし。
それぞれが内部の位置を示すなら。
収納数。
収納容量。
そこへ繋がる。
アイリスが聞く。
「固定点を増やすほど、魔法陣も大きくなるんでしょうか」
アルスが止まる。
「そうなるかも」
レインが言う。
「それだと、小さい鞄にたくさん入れるの難しくない?」
また。
問題。
外形。
魔法陣の大きさ。
固定点の数。
収納数。
リリアが言う。
「同じ構造を小さくできれば?」
ティアが答える。
「今度は加工精度が問題になる」
アルスが笑う。
「全部繋がってる」
最初に見た。
古代の加工技術。
線幅。
線長。
素材。
その話が。
ここで戻ってきた。
小さくするほど。
わずかな誤差が大きくなる。
でも。
小型化できなければ。
持ち運びにくい。
「先生」
「なんじゃ」
「収納数を増やすのと、小さくするの」
「うむ」
「別々にやろう」
ティアが笑う。
「ようやく言われる前に分けたか」
アルスも笑った。
「まず増やす」
「そうせい」
シリウスが聞く。
「次は三個?」
「三個」
「今度こそ?」
「今度こそ」
五人で片付ける。
白。
黒。
無印。
三つの小さな発光魔道具。
まだ。
同時に入ったのは二つまで。
でも。
昨日。
内部には一つの場所しかなかった。
今日は。
二つ。
アルスは最後に記録する。
――同一の位置固定構造を追加することで、内部の固定点を複数化できる可能性。
――収納物は空いている固定点へ順次配置される。
そして。
その下。
――内部空間に「場所」を増やせるなら、収納数も設計できる。
最初は。
外より大きい箱が欲しかった。
今は。
その中に。
いくつ場所を作るかまで。
自分たちで考え始めている。
少しずつ。
収納魔道具が。
一つの現象から。
道具の形へ近づいていた。




