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第34話 光だけを通す

翌日の放課後。


研究室へ入ると、アルスはすぐに試作三号の前へ座った。


昨日の記録を開く。


光は中央を通ると減る。


色によって差がある。


角度でも変わる。


一部は周囲へ散る。


それでも、全部は戻ってこない。


最後に残した仮説。


――光魔法そのものを通せないか。


ティアはすでに分かっていたらしい。


「やる気満々の顔じゃな」


「顔で分かる?」


「毎日見とればな」


アルスは少し笑う。


「今日は光魔法を試したいです」


「条件は?」


「物体は通さない」


「それから?」


「中央の揺らぎが安定した状態だけ」


「それから?」


「最初は最低出力」


「それから?」


アルスが少し考える。


「異常があれば即停止」


ティアが頷いた。


「ようやく最低限じゃ」


そこへレインたちも入ってくる。


シリウスが机を見る。


「今日は光のやつ?」


「うん」


アイリスがすぐに聞く。


「普通の光じゃなくて、魔法?」


「そう」


「前回と何が違うんですか?」


アルスは少し考えた。


「発光器の光は、ただの光として通した」


「はい」


「でも光魔法なら、魔素を使って光を作る」


リリアが気付く。


「魔素ごと中央へ入るんですね」


「うん」


レインが言う。


「つまり、光だけじゃなくて魔法そのものが通るか見る」


「そう」


ティアが口を挟む。


「ただし、最初から向こう側で発動させようとするな」


アルスが止まる。


「考えてました」


「知っとる」


シリウスが笑う。


「やっぱり」


ティアは試作三号を指す。


「まずは手前で作った光を、中央へ通せ」


「魔法で作った光をそのまま?」


「そうじゃ」


それなら。


普通の光との差を見られる。


試作三号を起動。


外周が光る。


中央に揺らぎ。


いつもの円。


昨日まで何度も見た形。


「安定」


リリア。


「偏りなし」


アイリス。


アルスは指先に小さな光を作る。


普段の授業で使う程度。


豆粒ほど。


シリウスが言う。


「それなら安全そう」


「たぶん」


ティアがすぐ言う。


「たぶんではなく、今まで使っとる範囲内じゃ」


「はい」


アルスは光球を中央へ近づける。


まだ入れない。


手前。


変化なし。


「少し進めます」


光球をゆっくり前へ。


中央の揺らぎへ触れる。


その瞬間。


光球の形が少し伸びた。


「伸びた」


レイン。


アルスは止める。


揺らぎの縁に、光球の先だけが触れている。


「普通の光ではこうならなかった」


アイリスが言う。


ティアも見ている。


「もう少し」


アルスがゆっくり進める。


光球の半分が中央へ入る。


いや。


入っているように見える。


手前側に残っている半分は見える。


中央より先。


そこだけ。


輪郭が薄い。


「向こう側が見えない?」


シリウスが聞く。


「見えにくい」


リリアが答える。


アルスはさらに少し進める。


光球がほぼ全部、中央へ重なる。


光が弱くなる。


ただ。


消えない。


「魔法維持できてる」


アルスが言う。


アイリスが驚く。


「まだ繋がってるんですか?」


「うん」


アルス自身が分かる。


魔法は切れていない。


魔素を送り続けられている。


でも。


見える光はかなり弱い。


「先生」


「なんじゃ」


「魔素は流れてる」


「なら測れ」


すぐに流量計を追加する。


アルスの手元。


中央の手前。


そして中央の周囲。


直接向こう側へ置くことはできない。


だから。


入る前と、周囲だけを見る。


再試験。


光球。


中央へ。


「入力側、安定」


アイリスが読む。


「周囲への漏れ、少ないです」


リリア。


レインが聞く。


「じゃあ魔素はどこへ行ってる?」


誰も答えない。


アルスは魔法を維持したまま言う。


「僕の感覚では、切れてない」


ティアが聞く。


「負荷は?」


「少し増えた」


「どのくらい」


「普通に維持するより重い」


「具体的に」


アルスは少し考える。


「二割くらい……いや、それは感覚だけ」


ティアが頷く。


「なら感覚として記録せい」


アルスは光球を戻す。


中央から離れた瞬間。


元の明るさに戻る。


全員が見る。


「戻った」


シリウス。


アイリスが言う。


「壊れたわけではないんですね」


「うん」


二回目。


同じ。


三回目。


同じ。


中央へ入ると弱くなる。


戻すと明るさも戻る。


レインが言う。


「中に入った部分だけ、見えにくくなる」


アルスが頷く。


「でも魔法は続いてる」


リリアが言う。


「なら、本当にどこかへ続いてるみたいですね」


ティアがすぐ言う。


「そう見えるだけじゃ」


全員が少し笑う。


最近はもう、予想している。


シリウスが言う。


「でも先生も少し思ってるでしょ」


「何をじゃ」


「向こう側あるかもって」


ティアは答えなかった。


代わりに。


「次じゃ」


とだけ言った。


アルスが見る。


「次?」


「光球を中央へ通したまま、形を変えろ」


「形?」


「大きくする。小さくする。動かす」


アルスの目が変わる。


「向こう側に入ってても操作できるか」


「そうじゃ」


まず。


半分だけ中央へ入れる。


その状態で光球を大きくする。


手前側。


広がる。


中央の中。


見えにくい。


でも。


魔法としては反応がある。


「大きくなってる感覚はある」


「見える?」


レインが聞く。


「中は見えない」


「じゃあ戻して」


アルスが光球を引く。


中央から出てくる。


大きくなっていた。


「本当に変わってる」


アイリスが言う。


次。


小さくする。


戻す。


小さくなっている。


次。


横へ動かす。


中央の中ではほとんど見えない。


それでも操作感覚は残る。


戻す。


位置が変わっている。


研究室が静かになる。


アルスは光球を見る。


「先生」


「なんじゃ」


「中に入っても魔法を操作できる」


「少なくとも今の光魔法ではな」


「魔素の繋がりも切れてない」


「そう見える」


「でも光は見えにくい」


「そうじゃ」


シリウスが言う。


「つまり、見えないけど中にはある?」


アルスは少し考える。


「それに近い」


ティアが言う。


「まだ断定するな」


「はい」


でも。


昨日までより。


かなり進んだ。


何かを中央へ入れる。


まだ物ではない。


魔法。


しかも。


入れたあとも操作できる。


取り戻せる。


これは大きい。


リリアが聞く。


「光魔法が戻ってくるなら、次は違う魔法も試すんですか?」


アルスがすぐ反応する。


「やりたい」


アイリスも考える。


「風とか?」


レインが言う。


「でも風は周囲も動く」


「分かりにくそう」


アルスが答える。


シリウスが言う。


「じゃあ小さい火?」


ティアが即答する。


「駄目じゃ」


「早い」


「空間術式の正体も分からんのに燃焼を入れるな」


アイリスも頷く。


「私もそれは怖いです」


「じゃあ何ならいいんだ」


リリアが少し考える。


「光が一番安全なのでは?」


アルスもそう思う。


だから。


次は。


違う魔法より。


光魔法の条件を変える方がいい。


大きさ。


明るさ。


維持時間。


色。


位置。


「先生」


「なんじゃ」


「光魔法だけで、もう少し調べたい」


ティアが頷く。


「それがよい」


シリウスが肩を落とす。


「地味」


アルスが笑う。


「でもかなり面白いよ」


「アル基準ではな」


ティアが机を軽く叩く。


「今日は終わりじゃ」


アルスが光魔法を消す。


試作三号も停止。


異常なし。


魔石。


許容温度。


金属板。


変形なし。


安全停止。


未作動。


記録をまとめる。


――光魔法を入口様現象へ挿入。


――挿入中も術者との魔素接続は維持。


――中央部では視認光量が低下。


――引き戻すと元の明るさへ復帰。


――中央部にある状態でも、大きさ・位置の変更が可能。


アルスは最後の一行で止まる。


どう書くか。


少し考える。


――少なくとも光魔法は、中央部へ入った後も存在状態を維持している可能性が高い。


ティアが読む。


「高い、か」


「今日くらいならいい?」


「まあよかろう」


珍しい。


アルスは少し笑った。


五人で研究室を出る。


廊下を歩きながら。


シリウスが言う。


「次、物入れられそうじゃない?」


アルスは少し考えた。


以前なら。


すぐにやりたいと思っていた。


今もやりたい。


でも。


「まだかな」


シリウスが驚く。


「アルが言った?」


「言った」


アイリスが笑う。


「成長しましたね」


「先生みたいに言わないで」


レインが聞く。


「何が足りない?」


アルスは答える。


「戻せるって分かってるものを、もう少し試したい」


リリアが頷く。


「物は、なくなったら困りますからね」


「うん」


アルスは歩きながら記録へ一つ追加した。


――入れる前に、戻せる条件を知る。


収納。


入れることばかり考えていた。


でも。


道具として必要なのは。


出せること。


戻せること。


それも同じくらい大事だった。


入口の向こうは。


まだ見えない。


けれど。


初めて。


そこへ何かを入れて。


こちらへ戻すことができた。


物ではなく。


小さな光だったけれど。


扉の向こうは。


昨日より少しだけ近くなっていた。

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