↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/227

第31話 試作三号

翌日の放課後。


研究室の机には、新しい金属板が置かれていた。


試作三号。


今回は、前回までと違う。


線幅だけではなく。


四方向へ伸びる線の長さまで、できる限り揃えてある。


アルスは測定具を置き、もう一度確認する。


右。


左。


上。


下。


「同じ」


シリウスが横から覗く。


「何回目?」


「六回目」


「もういいんじゃない?」


アイリスがすぐ言う。


「そう言って前回ずれたんでしょう」


「俺が作ったわけじゃない」


「でも今の発言は同じです」


レインが笑う。


リリアは記録板を見ている。


「前回との差は、線の長さだけですね」


アルスが頷く。


「うん」


ティアも確認する。


「素材」


「同じ」


「魔石」


「同じ規格」


「線幅」


「同じ」


「測定器」


「今回は外します」


シリウスが首を傾げる。


「なんで?」


アルスが答える。


「前回は流れを見るために付けた。でも測定器自体が影響する可能性があるから」


「今回は本来の状態を見る?」


レインが聞く。


「うん」


ティアが頷いた。


「それでよい」


試作三号を耐熱台へ置く。


アルスは少し離れる。


今日は。


前回より緊張していた。


前の二回は、どこかがずれている可能性があった。


今回は。


分かっている範囲では、かなり揃えている。


これでも崩れるなら。


原因は別にある。


「始めます」


最低出力。


外周が淡く光る。


「正常」


アイリス。


リリアも見る。


「発光の偏りなし」


シリウス。


「音なし」


レイン。


「全体問題なし」


アルスは中央を見る。


揺らぎ。


小さな円。


現れる。


少し流量を上げる。


円が広がる。


まだ安定。


さらに少し。


手のひらほど。


「昨日より綺麗」


リリアが言う。


アルスもそう思う。


前回は。


どこか一方向へ引っ張られているような歪みがあった。


今日は。


かなり円に近い。


五秒。


十秒。


十五秒。


誰も話さない。


二十秒。


シリウスが小さく言う。


「まだ持ってる」


ティアがすぐに。


「黙って見ろ」


「はい」


二十五秒。


三十秒。


アルスの呼吸が少し浅くなる。


「流量、維持」


ティアが言う。


「はい」


四十秒。


円は残っている。


少し揺れる。


でも崩れない。


五十秒。


一分。


アルスが思わずティアを見る。


ティアは無言。


「まだ続ける?」


「続けろ」


一分十秒。


一分二十秒。


その時。


中央の揺らぎが一度だけ大きく波打った。


シリウスが言う。


「今動いた」


リリアも頷く。


「でも戻りました」


一分三十秒。


一分四十秒。


アルスは少しだけ流量を下げる。


「なぜ下げた」


ティアが聞く。


「長く保てるか見たい」


「よい」


円が少し小さくなる。


ただし。


消えない。


二分。


全員が少しずつ顔を見合わせる。


レインが言う。


「かなり違うね」


「うん」


アルスも答える。


二分三十秒。


三分。


そこでティアが言った。


「止めろ」


アルスが出力を切る。


円がゆっくり縮み。


消える。


安全停止は動いていない。


焦げもない。


異音もなし。


金属板も変形していない。


シリウスが一番に声を出した。


「成功?」


アルスは少し考える。


昨日なら。


すぐに答えなかっただろう。


今日も同じ。


「今日の目的なら」


少し間を置く。


「成功」


全員の顔が明るくなる。


アイリスが言う。


「三分も安定しました」


リリアも。


「形もほとんど崩れませんでした」


レインが金属板を見る。


「線の長さが原因だった?」


アルスは首を振る。


「原因の一つだった可能性が高い」


シリウスが笑う。


「まだ慎重」


「でも、変えて良くなった」


ティアが言う。


「だから次は再現じゃ」


アルスが見る。


「同じものをもう一枚作る?」


「そうじゃ」


「同じ結果になるか」


「そう」


一回だけ動いた。


それではまだ足りない。


アルスは記録する。


――試作三号。


――四方向の線長を統一。


――三分間、入口様の揺らぎを維持。


――安全停止作動なし。


――目視上の大きな偏りなし。


最後に。


――再現確認前のため、構造確定とはしない。


ティアが読む。


「だいぶ研究記録らしくなったのう」


「最初は違った?」


「最初は感想文じゃった」


シリウスが笑う。


「それ分かる」


アルスも否定できない。


でも。


今日は。


記録を書く手が少し違った。


面白かった。


嬉しかった。


それも本当。


でも。


何を変えたか。


何が起きたか。


何がまだ分からないか。


そちらを先に書くようになっていた。


「じゃあ、もう一枚」


アルスが言う。


ティアが即答する。


「明日じゃ」


「やっぱり」


「疲れた手で作れば条件が変わる」


アルスが止まる。


「それも条件?」


「人が作るならな」


また増えた。


作業者の疲労。


集中。


技量。


その日の状態。


シリウスが笑う。


「人間まで測り始めそう」


アルスは少し考える。


「でも必要かも」


「言うと思った」


レインが金属板を見る。


「先生」


「なんじゃ」


「これが再現できたら、次は物を通すんですか?」


一瞬。


研究室が静かになる。


アルスもティアを見る。


ティアは少し考えた。


「まだじゃ」


シリウスが肩を落とす。


「まだ?」


「入口が安定したように見えるだけじゃ」


アイリスが聞く。


「次は何を見るんですか?」


ティアは中央を指す。


「この先がどこへ繋がっとるか」


アルスの表情が変わる。


今まで。


入口。


縁。


安定。


そこしか見ていなかった。


でも。


入口なら。


向こう側がある。


「内部空間」


アルスが呟く。


「そうじゃ」


「今の円の向こうに、何かある?」


「それすら分からん」


「じゃあ」


アルスは中央を見る。


「今まで僕ら、入口だけ作ってた可能性がある?」


「入口らしき現象じゃ」


「向こう側なしで?」


ティアが頷く。


「扉だけ作っとったかもしれん」


シリウスが言う。


「扉だけ?」


「開けても部屋がない」


レインが補う。


「それ怖いな」


リリアも少し真剣な顔になる。


「物を入れる前に、向こうが安定して存在するか確かめないといけないんですね」


アルスは頷く。


また。


完成が少し遠くなる。


でも。


嫌ではなかった。


むしろ。


次に見るものがはっきりした。


入口の次。


内部。


「先生」


「なんじゃ」


「古代術式の中央部分」


ティアが少し笑う。


「ようやくそこへ戻るか」


アルスも笑った。


今まで避けるように線が走っていた中央。


何をしているのか分からなかった場所。


次は。


そこを読む。


試作三号は。


収納魔道具ではない。


何も入らない。


何も保存できない。


ただ。


三分間。


入口らしきものを安定して維持した。


それだけ。


でも。


そこまで来たことで初めて。


その先に何が必要なのかが見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。