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第22話 それぞれの放課後

放課後。


授業が終わると、五人はいつものように教室に残っていた。


ただし、今日は全員が同じことをするわけではない。


「俺、先に訓練場行く」


シリウスが立ち上がる。


「今日は何するの?」


アルスが聞く。


「走る」


「それだけ?」


「それだけ」


アイリスが呆れたように言う。


「昨日も走っていたでしょう」


「昨日は昨日。今日は今日」


「便利ですね、その理屈」


レインも立ち上がった。


「僕も行くよ。剣やるから」


アイリスが少しだけ迷う。


「……私も後で行きます」


シリウスがすぐ反応した。


「後で?」


「魔法の復習をしてからです」


「真面目だなあ」


「あなたが真面目じゃなさすぎるんです」


レインが笑う。


「じゃあ先に行ってる」


「はい」


二人が教室を出ていく。


残ったのはアルス、アイリス、リリア。


アイリスは机に記録板を広げた。


今日の魔法実技の結果。


十回の光球。


出力。

維持時間。

ばらつき。


「まだ見るの?」


アルスが聞く。


「見ます」


「何を見る?」


「強すぎた回です」


アイリスは記録を指す。


「弱くするつもりだったのに、ここだけ出力が上がっています」


アルスも見る。


確かに。


「原因分かる?」


「たぶん、最初に失敗した後です」


「焦った?」


「……少し」


リリアが隣から記録を見る。


「次は取り返そうと思いました?」


アイリスが黙る。


しばらくしてから小さく頷いた。


「たぶん」


アルスは面白くなって記録を見直す。


最初の失敗。


その次だけ出力が強い。


さらに次から戻っている。


「感情でも魔素の使い方変わるのかな」


アイリスがアルスを見る。


「また研究にします?」


「気になっただけ」


「その『気になっただけ』から始まるんでしょう」


最近、みんな分かってきている。


アルスは笑った。


リリアは自分の記録を開く。


回復魔法の基礎練習。


こちらも数値が並んでいる。


「リリアは何見てるの?」


「維持時間です」


「長くしたい?」


「逆です」


アルスが少し意外に思う。


「短く?」


「必要な分だけ使って止めたいんです」


アイリスが顔を上げる。


「どうして?」


リリアは少し考えてから答える。


「回復魔法は、長く使えば良いわけではないと教わったので」


「治った後も使う必要はない?」


「はい。それに、使いすぎると術者も疲れます」


アルスは頷く。


また同じ話だ。


必要な時に、必要なだけ。


魔法も。


魔道具も。


たぶん他のものも。


「アルスは何するんですか?」


リリアが聞く。


「研究室」


アイリスがすぐ言う。


「やっぱり」


「今日は魔法陣の失敗作を少し見せてもらえるって」


「ティア先生に?」


「うん」


「楽しそうですね」


「かなり」


リリアが笑う。


「顔に出てます」


三人で教室を出る。


途中でアイリスと別れる。


「訓練場で」


「うん」


「アルスは来ないんですか?」


「研究室終わったら行くかも」


「また長くなるんじゃないですか?」


「先生に追い出されたら行く」


「それ、かなり遅くなりそうですね」


アイリスは少し笑って訓練場へ向かった。


リリアも治療系の実習室へ向かう。


アルスは研究棟へ。


三人が違う方向へ歩く。


少し前までは、五人で同じ場所へ行くことが多かった。


でも最近は違う。


レインは剣。


シリウスは身体を動かす。


アイリスは魔法。


リリアは回復。


アルスは研究室。


同じところにいる時間も多い。


別々のことをしている時間も増えた。


それでも。


夕方になると、なぜかまた集まっている。


アルスは研究室の扉を叩いた。


「入れ」


ティアの声。


扉を開ける。


今日の作業台には、三枚の金属板が置かれていた。


どれも魔法陣が描かれている。


ただし。


全部どこか壊れている。


線が途切れているもの。


一部が焼けているもの。


形そのものが歪んでいるもの。


「今日はこれですか?」


「そうじゃ」


アルスが近づく。


「何の魔法陣?」


「全部同じ」


「同じ?」


よく見る。


確かに基本形は似ている。


でも細部が違う。


「小型の保温器じゃ」


「全部失敗?」


「全部失敗じゃ」


アルスは三枚を見る。


「違う失敗?」


ティアが笑う。


「よう分かっとるようになったのう」


一枚目。


線が細すぎて途中で魔素が安定しない。


二枚目。


魔素は流れるが、出力が高すぎて素材が焼ける。


三枚目。


出力は適切。


ただし長時間使うと一部へ負荷が集中する。


「全部、原因違うんですね」


「そうじゃ」


「でも目的は同じ」


「そうじゃ」


アルスは三枚を並べて見る。


同じものを作ろうとしている。


同じ結果を目指している。


なのに失敗の仕方は違う。


「一個直したら終わりじゃない」


「むしろ始まりじゃ」


ティアが答える。


「最初は動かん」


一枚目を指す。


「次は動くが危険」


二枚目。


「その次は使えるが長持ちせん」


三枚目。


「一つ直すたびに次の問題が見える」


アルスは少し笑った。


「終わらないですね」


「終わらん」


ティアも笑う。


「だから面白い」


アルスは三枚目を見る。


「この三つ目は、使えるんですよね?」


「短時間ならな」


「だったら実用品にしてもいい?」


ティアの顔が少し変わった。


「お主ならどうする?」


アルスは考える。


短時間なら使える。


でも長時間使うと壊れる。


「使い方を限定する?」


「ほう」


「長時間使わない前提で売るとか」


「それから?」


「壊れる前に止まる仕組みを付ける」


ティアが少し笑った。


「悪くない」


「でも、それなら完成品?」


「使う目的次第じゃ」


またそこに戻る。


何をもって完成とするか。


何を満たせば使えるか。


全部が理想でなくても、必要な条件を満たしていれば道具として成立する。


「完璧じゃなくてもいい?」


アルスが聞く。


ティアはすぐには答えなかった。


「完璧という言葉を簡単に使うな」


「はい」


「何をもって完璧とするか分からんからの」


「じゃあ」


アルスは少し言い直す。


「必要な条件を満たせばいい?」


「そう考えた方がましじゃ」


アルスは記録する。


――完成とは、何も問題がない状態ではない。


少し止まる。


――目的に必要な条件を満たした状態。


ティアが後ろから見る。


「それも絶対ではないぞ」


「分かってます」


「本当か?」


「今のところ、です」


ティアが笑った。


「それならよい」


日が傾く。


アルスが研究室を出た時には、やはり少し遅くなっていた。


訓練場へ向かう。


まだ人影がある。


最初に見えたのはシリウスだった。


地面に座り込んでいる。


「疲れた」


「ずっと走ってた?」


「途中から訓練に変わった」


少し離れたところでは、レインとアイリスが木剣を持っていた。


アイリスが剣を振る。


レインが受ける。


「肩」


「分かっています」


「力入ってる」


「分かっています!」


「怒らないでよ」


「怒ってません!」


シリウスがアルスを見る。


「最近ずっとあれ」


「仲良いね」


「本人たちに言うなよ」


「学習した」


「偉い」


アルスが笑う。


その近くにはリリアもいた。


手には治療実習の記録板。


「終わりました?」


「うん」


「どうでした?」


「失敗作を三つ見た」


リリアが少し困った顔をする。


「それで嬉しそうなの、アルスくらいだと思います」


「ティア先生も嬉しそうだったよ」


「では二人ですね」


五人がまた同じ場所に集まる。


でも。


昼からずっと一緒だったわけではない。


それぞれが別の場所で。


別のことをやっていた。


「帰る?」


レインが木剣を片付けながら聞く。


シリウスが立ち上がる。


「帰ろう。腹減った」


アイリスがため息をつく。


「またそれですか」


「一日三回は腹減るだろ」


「もっと多い気がします」


リリアが笑う。


アルスも歩き出す。


五人は同じではない。


興味も。


得意なことも。


放課後の過ごし方も。


だからこそ。


別々に過ごした後で集まると、話すことが増えていた。


「今日何してた?」


それだけで。


五人分の一日が出てくる。


アルスはそれが少し面白かった。

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