第19話 見る場所が違う
翌日の放課後。
五人はまた訓練場にいた。
「本当に来たな」
レインが言う。
シリウスが胸を張る。
「言っただろ。昨日のは面白かった」
「珍しい」
アイリスが返す。
「二回目!」
リリアが笑う。
アルスは訓練場を見回した。
今日は授業ではない。
教師から課題を出されているわけでもない。
五人だけの自主練。
それだけで少し感じが違う。
「何する?」
シリウスが聞く。
レインが考える。
「昨日と同じだと意味ないよね」
「難しくする?」
「少しだけ」
アイリスが言う。
「標的を増やします?」
「それもあり」
アルスは訓練場の設備を見る。
動く標的。
障害物。
区画線。
簡単な模擬魔物。
「じゃあ、標的の場所を最初に見ないで始める?」
四人がアルスを見る。
「どういうこと?」
リリアが聞く。
「昨日は最初からどこにあるか見えてた。でも実際なら、どこに何がいるか分からないでしょ」
レインが頷いた。
「探すところから始める」
「うん」
シリウスが笑う。
「いいじゃん」
アイリスが少し考える。
「でも誰が配置するんですか?」
全員が止まった。
「……確かに」
アルスが言う。
シリウスが笑い出す。
「始める前に詰んだ」
その時、後ろから声がした。
「何を騒いどる」
ティアだった。
五人が振り向く。
「先生」
アルスが答える。
「標的の場所を知らない状態で訓練したいんです」
ティアが五人を見る。
「自主練か」
「はい」
「ほう」
少しだけ口元が上がる。
「ならワシが配置してやる」
シリウスが喜ぶ。
「お願いします!」
「ただし」
全員が止まる。
「簡単だと思うなよ」
「ですよね」
最近、全員が分かってきていた。
十分後。
五人は一度訓練場の外へ出された。
ティアが中を操作する。
何かが動く音。
壁が移動する音。
標的が設置される音。
「結構変えてない?」
シリウスが扉を見る。
「音だけでは分からないね」
レインが答える。
アルスは何となく音の方向を覚えようとしていた。
リリアが気付く。
「アルス、今の音も覚えようとしてません?」
「少し」
「それ、ずるくない?」
シリウスが言う。
「情報は情報でしょ」
「いや、そうだけど」
扉が開く。
ティアが出てきた。
「入れ」
五人が中へ入る。
昨日とは配置がかなり変わっていた。
壁の位置も違う。
通路も狭い。
見通しが悪い。
標的は一つも見えない。
ティアが言う。
「標的は四つ。全部見つけて処理せい」
レインが聞く。
「制限時間は?」
「十分」
「区域外は?」
「昨日と同じ。出たら失格じゃ」
「分かりました」
開始。
五人が動き出す。
昨日のように一直線には進まない。
レインが中央。
シリウスが少し前。
アイリスとリリアが後ろ。
アルスは全体を見る。
最初の曲がり角。
シリウスが止まる。
「前、二方向」
右と左。
レインが見る。
「分かれる?」
アルスがすぐに言う。
「まだやめた方がいい」
「理由は?」
「中の構造が分からない。合流できなくなるかも」
「分かった。右から行こう」
進む。
少しして、アイリスが声を上げた。
「左上」
全員が見る。
壁の上部に小さな標的。
「見つけた」
レインが言う。
「アイリス、お願い」
火球。
命中。
「一つ」
さらに進む。
今度はシリウスが先で止まる。
「足元」
低い箱の陰。
近距離。
「俺やる」
触れる。
「二つ」
順調だった。
だが、三つ目が見つからない。
少し進んでは戻る。
別の通路。
何もない。
シリウスが焦り始める。
「時間減ってる」
レインが落ち着いて言う。
「焦って走らない」
「分かってる」
アルスは周囲を見る。
見えていない場所。
通った場所。
まだ見ていない場所。
「待って」
全員が止まる。
「どうした?」
レインが聞く。
「さっきの分岐」
「右に来たところ?」
「うん」
「左まだ見てない」
シリウスが言う。
「戻る?」
アルスは少し考える。
「一回戻ろう」
戻る。
左の通路へ。
少し進む。
何もない。
さらに奥。
リリアが止まった。
「音がします」
全員が静かになる。
小さな金属音。
一定間隔。
シリウスが耳を澄ます。
「本当だ」
アルスも聞く。
壁の向こう。
レインが周囲を見る。
「回り込める?」
アイリスが左を見る。
「こっちに通路があります」
進む。
壁の裏。
動く標的。
上下ではなく、横へ往復している。
「三つ目」
アイリスが杖を構える。
レインが止めた。
「待って」
「何ですか?」
「手前の白線」
アイリスが見る。
標的を狙おうとして前へ出ると、線を越える位置だった。
「ここからだと少し遠いです」
アルスが聞く。
「届く?」
「届きます。ただ、精度は落ちます」
シリウスが言う。
「俺が近づく?」
「線の中なら行ける」
レインが決める。
「シリウスが右へ。標的の動きを止められる?」
「止める?」
「触らなくてもいい。近くで動かして、動きを変えられるか見て」
「分かった」
シリウスが移動する。
標的が反応した。
少しだけ軌道が変わる。
「変わった!」
アイリスが見る。
「今なら」
火球。
命中。
「三つ」
残り一つ。
時間は半分を切っている。
五人が進む。
今度は通路が広い。
障害物も少ない。
シリウスが前へ出る。
「何もない!」
アルスは左右を見る。
アイリスは上。
リリアは後ろ。
レインは全体。
突然。
リリアが言った。
「後ろ」
全員が振り向く。
さっき通った壁の下。
ほんの少しだけ、標的の端が見えている。
「いつからあった?」
シリウスが驚く。
アルスが見る。
壁がわずかに動いている。
「隠れてたんだ」
「動く壁?」
レインが言う。
標的が見えたり消えたりする。
アイリスが構える。
「撃てます」
アルスが首を振る。
「タイミング短い」
「でも待ってたら時間が」
レインが言う。
「アル、見える時間分かる?」
「測ってない」
「感覚でいい」
壁を見る。
開く。
閉じる。
開く。
閉じる。
だいたい一定。
「三秒くらい」
「じゃあ次で」
アイリスが構える。
レインが数える。
「一」
壁が動く。
「二」
標的が見える。
「今!」
火球。
命中。
終了音。
シリウスがその場に座り込んだ。
「疲れた!」
アイリスが息を吐く。
「昨日より大変でした」
リリアも頷く。
「探すだけでこんなに違うんですね」
ティアが近づいてくる。
「どうじゃ」
シリウスが言う。
「楽しくない!」
「さっき面白そうと言っとったじゃろ」
「始める前の俺です」
ティアが笑う。
「で、何が分かった」
レインが最初に答える。
「昨日より情報が足りなかった」
「それから?」
アイリスが言う。
「全員が同じ方向を見ていると見落とします」
「そうじゃな」
リリアも続ける。
「音も使えました」
シリウスが手を上げる。
「俺は前を見るの得意」
アイリスが言う。
「それは分かっています」
「ちゃんと役割だろ!」
アルスは少し考える。
「僕たち、自然に見る場所が分かれてた」
ティアがアルスを見る。
「ほう」
「シリウスは前と近距離。アイリスは遠くと高い場所。リリアは後ろや音。レインは全体」
「お主は?」
アルスは止まった。
シリウスがすぐに言う。
「全部見てた」
レインが笑う。
「だからたまに遅れるんだよ」
「確かに」
アルスも笑う。
ティアが言う。
「全部見る役は、一人では無理じゃ」
アルスは頷く。
「うん」
「だから分ける」
ティアは五人を見る。
「見る場所が違うのは悪いことではない」
以前聞いた言葉に似ている。
違うことは、使い方次第で強さになる。
「お主らは同じ目を五つ持っとるわけではない」
ティアが続ける。
「五人おるなら、五か所見ろ」
シリウスが笑う。
「分かりやすい」
アイリスが言う。
「先生、たまにすごく簡単に言いますね」
「難しく言う必要がないことを難しく言う奴は信用するな」
アルスがそのまま記録する。
ティアが見た。
「そこまで記録するな」
「いい言葉だったので」
「好きにせい」
帰り道。
五人で今日のことを話す。
シリウスが言う。
「次から俺、前見る」
レインが頷く。
「お願い」
アイリスが言う。
「私は遠距離と上」
リリアが少し考える。
「私は後ろと、音も見ます」
「音は見るって言わないでしょ」
シリウスが笑う。
「分かってます」
レインがアルスを見る。
「アルは?」
アルスは少し考える。
「空いてるところ」
シリウスが笑った。
「便利屋じゃん」
「全体見て、抜けてるところを見る」
レインが頷く。
「それならアルらしい」
アルスは少し嬉しくなる。
役割を決めたわけではない。
誰かに言われたわけでもない。
何度か一緒に動いた結果。
自然に違いが見えてきた。
誰が前を見るか。
誰が遠くを見るか。
誰が後ろを見るか。
誰が全体を見るか。
五人は同じものを見ているようで。
実際には、少しずつ違う場所を見ていた。
そしてその違いが。
一緒にいる時だけ、少し大きな視界になっていた。




