第16話 いつもの五人
昼休み。
アルスが食堂へ入ると、すでにシリウスが席を確保していた。
「遅い!」
「まだ昼休み始まったばかりだけど」
「腹減ってたんだよ」
その隣にはレインが座っている。
少し遅れて、アイリスとリリアもやってきた。
誰かが約束したわけではない。
それでも、気付けば同じ席に集まるようになっていた。
「今日は何?」
シリウスがアルスの皿を見る。
「鶏肉と野菜」
「普通だな」
「何を期待してたの?」
「研究食みたいなの」
「そんなもの食べないよ」
アイリスが席へ座りながら言う。
「シリウスはアルスを何だと思っているんですか」
「何でも調べる人」
「否定しにくい」
レインが笑う。
アルスも否定しなかった。
食事を始める。
最初の頃は会話が途切れると少し気まずかった。
今は違う。
誰も話さない時間があっても、そのまま食べている。
シリウスが急に顔を上げる。
「今日、放課後どうする?」
レインが答える。
「剣の練習」
「また?」
「また」
「毎日やって飽きない?」
「飽きたらやらなくなるの?」
「俺ならなる」
アイリスが呆れた顔をする。
「だからレインの方が上手いんでしょう」
「また刺してくるな」
「事実です」
レインは少し笑っている。
「アイリスも来る?」
突然聞かれて、アイリスの手が止まった。
「剣の練習ですか?」
「この前、少し教えるって話しただろ」
「覚えていたんですね」
「約束したから」
アイリスは一瞬だけ視線を落とした。
「……では、少しだけお願いします」
シリウスがニヤニヤしている。
レインが気付く。
「何?」
「別に」
「その顔は何かあるだろ」
「何もないって」
リリアが笑っている。
アルスはそのやり取りを見ながら食べる。
レインとアイリスは話す回数が少し増えていた。
最初は互いに丁寧だった。
今も丁寧ではあるが、少しずつ間が短くなっている。
アイリスも以前ほどレインへ構えなくなった。
「アル」
リリアに呼ばれる。
「うん?」
「見すぎです」
「何を?」
「二人を」
アルスがレインとアイリスを見る。
二人ともこちらを向いた。
「見てた?」
レインが聞く。
「少し」
「何で?」
「変わってきたなと思って」
アイリスの目が細くなる。
「何がですか?」
アルスは少し考える。
「話す時の距離?」
シリウスが吹き出した。
「アル、それ本人たちに言う?」
「駄目だった?」
「普通は言わないと思う」
「そうなの?」
リリアが額へ手を当てる。
「アルスは、気付いても全部言わなくていいんですよ」
「難しいな」
「そこからですか」
レインは笑っているが、アイリスは少し顔を赤くしている。
アルスはそれを見て、今度は何も言わなかった。
少し学習した。
午後。
魔法の授業では、複数の魔法を連続して使う訓練が行われた。
最初は小さな光。
次に風。
最後に身体強化。
同じ魔法を強くするのではなく、切り替える練習だった。
アルスは一回目で少し失敗した。
光を消す前に風へ移ろうとして、二つの制御が重なる。
風が弱くなった。
「切り替え遅いね」
シリウスが言う。
「分かってる」
「考えすぎじゃない?」
「たぶん」
二回目。
今度は光を完全に止める。
一度、魔素を何も使わない状態へ戻す。
そこから風。
成功。
「今度は遅い」
アイリスが言う。
「うん」
「でも安定しています」
リリアが続ける。
アルスは自分でも分かっていた。
一つずつなら問題ない。
ただ、切り替えが遅い。
一度すべてを整理してから次へ移ろうとする癖がある。
一方、シリウスは速かった。
光。
風。
身体強化。
ほとんど間がない。
ただし最後の身体強化が少し乱れる。
「やっぱり速いね」
アルスが言う。
「だろ?」
「でも最後雑」
「そこまで言わなくてよくない?」
「事実でしょう」
アイリスが言う。
「二人とも同じこと言うようになってきたな」
次はアイリス。
切り替えも速い。
一つ一つの魔法も強い。
ただ、出力を落とすのが苦手だった。
弱く使う課題なのに、少し強くなる。
「また強い」
ティアが遠くから言う。
アイリスが悔しそうに魔法を止める。
「分かっています」
「なら直せ」
「はい」
レインは安定していた。
速さも強さも中間。
大きな失敗がない。
アルスはそれを見て少し笑う。
「やっぱりレインらしい」
レインが振り向く。
「何が?」
「安定してる」
「褒めてる?」
「うん」
「ならありがとう」
最後にリリア。
光。
風。
身体強化。
速度はゆっくり。
だが、どれも乱れない。
「やっぱり丁寧だね」
アルスが言う。
リリアは少し笑った。
「速くするのは苦手ですけど」
「でも失敗少ないでしょ」
「そうですね」
ティアが全員を見ながら言う。
「速ければ良いわけでも、強ければ良いわけでもないぞ」
生徒たちが前を見る。
「必要な時に、必要なだけ使える方が大事じゃ」
その言葉を聞いて、アイリスが少し肩の力を抜いた。
授業後。
レインとアイリスは訓練場へ向かった。
シリウスも結局付いていく。
「見るだけ」
と言っていた。
アルスとリリアも一緒だった。
結局、五人全員。
レインがアイリスへ木剣を渡す。
「まず構えてみて」
「こうですか?」
「もう少し力抜いて」
「抜いています」
「かなり入ってる」
アイリスの眉が寄る。
「難しいですね」
「最初はそんなものだよ」
レインがアイリスの剣先を見る。
「肩から全部固くなってる」
「魔法なら力を込める方が安定するんです」
「剣は逆になることもある」
アルスはその会話を聞きながら、少し面白くなる。
同じ戦う技術でも考え方が違う。
「また考えてる?」
横からリリア。
「分かる?」
「もう分かります」
アルスは笑った。
「魔法と剣って逆のこともあるんだなって」
「例えば?」
「アイリスは魔法だと強く出す方が得意。でも剣は力を抜けって言われてる」
リリアも二人を見る。
「本当ですね」
「使うものが違えば、得意な考え方も邪魔になることがあるのかも」
「アルスもですか?」
「僕?」
「考えるのが得意だけど、考えすぎると切り替えが遅くなるって」
アルスは少し黙った。
「……確かに」
リリアが笑う。
「今日の授業で思いました」
「ちゃんと見てるね」
「アルスに言われたくありません」
「それもそうだ」
二人で笑った。
前では、アイリスの木剣がレインの木剣に軽く弾かれていた。
「もう一回」
アイリスが言う。
「休まなくていい?」
「まだ大丈夫です」
「分かった」
少し離れたところでシリウスが退屈そうに木剣を振っている。
「俺も誰か相手してよ」
「一人でやってろ」
レインが答えた。
「冷たい!」
アルスが笑う。
いつの間にか。
授業が終わっても、五人でいることが普通になっていた。
何をするかは同じではない。
レインは剣。
アイリスは魔法。
リリアは回復と補助。
シリウスは動くことが好き。
アルスは気になったものを見ている。
それでも、別々のことをしながら同じ場所にいる。
アルスはその状態が嫌いではなかった。
むしろ、かなり好きだった。
帰る頃。
シリウスが何気なく言った。
「明日もここ来る?」
レインが答える。
「僕は来るよ」
アイリスも少し迷ってから頷く。
「私も」
リリアがアルスを見る。
「アルスは?」
「来る」
「じゃあ私も」
シリウスが満足そうに言う。
「決まりな」
誰ももう、「五人で」とは言わなかった。
言わなくても、五人だと分かっていた。




