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第15話 同じ課題、違う答え

次の実技では、五人一組で課題が出された。


訓練場の中央に置かれているのは、いくつかの小さな標的。


動かないもの。

一定の速度で横へ動くもの。

不規則に上下するもの。


ティアは腕を組んで言った。


「今日は一人ずつではなく、五人でやれ」


シリウスがすぐに聞く。


「何を?」


「全部の標的へ、指定された順番で魔法を当てる」


「簡単そうですね」


「そう思うならやってみろ」


ティアが笑った。


条件は単純だった。


一番目は静止標的。

二番目は左右へ動く標的。

三番目は上下へ動く標的。

最後は不規則に動く標的。


ただし、一人がすべて撃つ必要はない。


使える魔法も自由。


制限時間だけが決められている。


「どうする?」


レインが四人を見る。


シリウスがすぐに言った。


「俺が最初」


「理由は?」


「止まってるから当てやすい」


アイリスが呆れる。


「それは誰でも当てやすいでしょう」


「だから確実じゃん」


「確実なところを一番得意な人に使う必要はないと思います」


「じゃあアイリスがやる?」


「私は動く標的の方がいいです」


レインが頷く。


「遠距離ならアイリスが動く標的。シリウスは近い標的にする?」


アルスは標的を見る。


「最後の不規則なの、誰がやる?」


少し間が空いた。


リリアが言う。


「私は攻撃魔法が得意ではありません」


「無理に攻撃しなくていいんじゃない?」


アルスが答える。


「補助してもいいって言ってたよね」


五人でティアを見る。


ティアは面倒そうに手を振った。


「課題を達成できるなら好きにせい」


アルスはもう一度標的を見る。


最後の標的は動きに法則がないように見える。


ただし完全な無作為ではないはずだ。


装置で動かしているなら、何かしらの制御がある。


「アル?」


レインに呼ばれる。


「うん?」


「また考え込んでる」


「最後の動き見てた」


「分かる?」


「まだ」


「なら後回しにしよう」


レインの判断は早かった。


アルスは頷く。


「そうだね」


結局、一番目はシリウス。


二番目はアイリス。


三番目はレイン。


リリアは全体の補助。


最後をアルスが担当することになった。


「なんで俺が一番目なんだよ」


シリウスが言う。


「自分で言ったでしょ」


アイリスが返す。


「そうだった」


開始の合図。


シリウスが先に動いた。


小さな光弾。


速い。


静止標的へ真っ直ぐ飛び、中心近くへ当たる。


「よし」


すぐにアイリス。


火の魔法を小さく圧縮する。


左右へ動く標的を少し先読みして放った。


命中。


「上手い」


アルスが言う。


「まだ二つです」


アイリスは視線を次へ向けたまま答える。


三番目。


レインは魔法ではなく、訓練用の木剣を持った。


「それでいいの?」


シリウスが聞く。


「攻撃方法は自由だろ」


レインが一気に距離を詰める。


上下へ動く標的。


上がる。


下がる。


その動きを一度見てから、踏み込んだ。


木剣が標的へ当たる。


「おお」


シリウスが声を上げる。


アルスはレインの足を見る。


速いというより、無駄が少ない。


移動距離も最小限だった。


残り一つ。


不規則標的。


アルスの番。


標的が右へ動く。


急に止まる。


下。


左。


上。


「アル」


リリアの声。


「必要なら補助します」


「お願い」


アルスは答えた。


「何を?」


そこまで考えていなかった。


一瞬迷う。


「視界を広くしたい」


リリアが首を傾げる。


「どうやって?」


「ごめん、今のなし」


シリウスが笑う。


「注文が雑!」


時間は減っている。


アルスは標的を見る。


予測するのをやめた。


動きを読むのではなく、動いた後に当てる。


問題は自分の魔法が遅いこと。


なら距離を短くする。


アルスは前へ走った。


「近づくの?」


アイリスが言う。


「うん」


標的との距離が半分になる。


さらに近づく。


標的が上へ跳ねた。


アルスは小さな光弾を作る。


落ちてくる。


今。


放つ。


外れた。


「惜しい!」


シリウス。


時間はまだある。


アルスはもう一度。


今度は撃たない。


標的を見る。


上下左右。


止まる瞬間がある。


ほんの一瞬だけ。


「止まる」


アルスが呟いた。


「何が?」


レインが聞く。


「方向を変える時」


完全に止まっているわけではない。


でも、速度が落ちる。


そこを狙う。


右。


減速。


反転。


「今」


光弾。


当たった。


標的が消える。


終了音。


シリウスが両手を上げた。


「できた!」


アイリスも息を吐く。


リリアが笑う。


「間に合いましたね」


レインはアルスを見る。


「最初からあれ狙ってた?」


「いや」


「途中で気付いた?」


「うん」


「やっぱりそうか」


ティアが近づいてくる。


「結果だけなら合格じゃ」


シリウスが嬉しそうに言う。


「じゃあ終わり?」


「まだじゃ」


「ですよね」


最近、分かってきたらしい。


ティアは五人を見る。


「では聞く。何が悪かった」


誰もすぐに答えない。


アイリスが最初だった。


「役割を決めるのに時間を使いすぎました」


「一つ」


レインが続ける。


「最後をアル一人に任せすぎた」


「一つ」


シリウスが言う。


「リリアの役割を決めてなかった」


リリアが少し驚いた顔をする。


「確かに」


アルスも頷く。


補助役として入れたのに、何を補助してもらうか決めていなかった。


「あと」


アルスは考える。


「僕が最後の標的を最初から難しいものとして見すぎた」


ティアが見る。


「どういう意味じゃ」


「動きを予測しようとした。でも、当てるだけなら止まりやすい瞬間を探せばよかった」


「ほう」


「問題を大きく考えすぎた」


ティアが少し笑った。


「悪くない」


シリウスがアルスを見る。


「それ自分で言うんだ」


「実際そうだったから」


ティアは次に全員へ向けて言う。


「お主らは五人おる」


誰も話さなくなる。


「一人で全部できる必要はない」


レインが頷く。


「じゃが、人数がおるだけでも駄目じゃ」


ティアはリリアを見る。


「役割を与えん仲間は、いないのと同じじゃ」


リリアが少し真剣な顔になる。


「はい」


「攻撃できんから何もできん、ではない。補助、観察、伝達、判断。やれることはいくらでもある」


アルスはその言葉を記録した。


五人で動く。


ただ一緒にいるだけではない。


それぞれ違うから意味がある。


休憩に入る。


五人は訓練場の端へ座った。


シリウスが水を飲みながら言う。


「俺、もっと難しいのやりたかった」


アイリスが返す。


「最初の標的しか撃ってない人が言います?」


「役割だったんだから仕方ないだろ」


レインが笑う。


「次は変えればいい」


「じゃあ次俺最後」


「いいよ」


アルスがすぐに答える。


「軽いな!」


リリアが笑う。


アイリスはレインを見る。


「レインは剣なんですね」


「うん」


「魔法は?」


「使うけど、剣の方が好きかな」


「私は逆です」


「剣は?」


「苦手です」


「今度やる?」


アイリスが少し固まった。


「……教えてくれるんですか?」


「僕でよければ」


「では、少しだけ」


シリウスが二人を見る。


「なんか真面目な会話してる」


「邪魔しない」


リリアが言った。


「してないよ」


アルスはそんな四人を見ていた。


最初の数日は、家名と名前しか知らなかった。


今は少し違う。


レインは繰り返し鍛えることが得意で、判断が早い。


シリウスはまず動く。速いが、その分細かいところを飛ばすことがある。


アイリスは負けず嫌いで、精度を気にする。


リリアは前へ出ないが、周囲を見るのが上手い。


そして自分は。


「アル」


リリアに呼ばれる。


「何?」


「またみんなを見てました?」


「うん」


「やっぱり」


「分かる?」


「最近分かるようになりました」


アルスは少し笑った。


「僕はどう見える?」


逆に聞いてみる。


リリアは少し考えた。


「考えすぎる人です」


シリウスが吹き出した。


レインも笑う。


アイリスまで口元を押さえている。


アルスは少しだけ悔しくなる。


「そんなに?」


リリアも笑った。


「でも、途中でちゃんと変えられる人だと思います」


アルスは黙った。


予想していたより、ちゃんと見られている。


「そっか」


「嫌でした?」


「いや」


少し嬉しい。


同じ課題をやっても、五人は同じ動きをしない。


同じものを見ても、気付くところが違う。


その違いは欠点ではなかった。


組み合わせれば、一人では見えなかったものが見える。


アルスは今日の記録の最後に、一行だけ残した。


――違うことは、使い方次第で強さになる。


その時はまだ。


この五人が後に、それぞれ全く違う役割を持つ一つのパーティーになることを、誰も知らなかった。

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