第148話 言葉にして合わせる
翌朝。
アルスが男子寮を出ると、今日はシリウスが先に待っていた。
「早いね」
「昨日寝るの早かったからな」
少ししてレインも出てくる。
三人で共有談話室の前まで行くと、アイリスとリリアもほぼ同時に来た。
「今日は全員早いですね」
アイリスが言う。
シリウスが胸を張る。
「俺が一番」
「一日だけで威張らないでください」
いつもの会話。
でも昨日、別の班で動いた後だからなのか、五人で揃うだけで少し楽に感じる。
その日の午後。
戦闘実習。
教師が言った。
「今日は元の班へ戻す」
シリウスが小さく拳を握る。
「よし」
ただし。
条件。
一つ。
「昨日の訓練で、自分が仲間へ任せていたことを意識しろ。今日は普段なら言わないことも、あえて言葉にして動け」
五人。
少し。
顔を見合わせる。
レインが言う。
「やってみよう」
訓練場。
昨日と同じ障害物。
木立。
岩。
狭い道。
開けた場所。
ただし、標的の配置は変わっている。
開始。
シリウスが前へ出る。
いつもならそのまま進む。
今日は振り返る。
「前、二十歩くらいまで見る。右側中心」
レインが答える。
「分かった。戻る時は?」
「異常あったらすぐ。何もなければあの岩まで」
指差す。
距離。
目印。
明確。
アルスは少し驚く。
言葉にすると。
見える。
シリウスが何を基準に動いていたのか。
今まで。
何となく。
分かっていた。
でも。
完全には。
知らなかった。
シリウスが先行。
アルスは少し後ろで周囲を見る。
地面。
見なくていい。
ではない。
でも。
シリウスが右側を重点的に見る。
なら。
アルス。
左と上。
見る。
「僕は左と上を見る」
アルスも言う。
アイリスが答える。
「では後方右を見ます」
リリア。
「わたくしは後方左と皆さんの状態を見ますわ」
レインが最後に言う。
「僕は前と全体を見る。何かあれば止める」
五人。
役割。
一瞬。
決まる。
今まで。
自然にやっていた。
でも。
言葉。
加わる。
動き。
さらに。
重ならない。
最初の標的。
木の陰。
二体。
シリウスが先に止まる。
「二体。こっち見てない。周り他になし」
レインが言う。
「広い場所まで引く」
アイリス。
「射線、右側取れます」
リリア。
「補助、まだ必要ありません」
アルス。
「左から回る」
短い。
でも。
全員。
何する。
分かる。
シリウスが小石を投げる。
標的。
反応。
一体。
来る。
二体目。
少し遅れる。
レインが言う。
「一体目だけ取る」
前。
アルスとレイン。
左右。
標的。
止まる。
アイリス。
魔法。
撃つ。
終了。
二体目。
近付く前。
位置。
確認。
レインが言う。
「次、アイリス先」
アイリス。
「撃ちます」
火球。
小さい。
速い。
標的。
止まる。
シリウスが横から崩す。
アルス。
仕留める。
終了。
早い。
でも。
焦ってない。
教師。
見る。
何も言わない。
次。
狭い通路。
シリウスが覗く。
「前、三体。通路狭い。奥は広い」
アルスが聞く。
「奥まで引ける?」
「たぶん。でも一回確認する」
シリウス。
少し進む。
戻る。
「奥、左に逃げ道あり。右は壁」
レインが言う。
「なら奥まで行く。右を背にする」
全員。
頷く。
進む。
三体。
気付く。
接近。
五人。
走らない。
奥へ移動。
広い。
右。
壁。
後ろ。
安全。
戦闘。
始まる。
一体目。
レイン。
受ける。
二体目。
アルス。
牽制。
三体目。
シリウス。
引き離す。
アイリスが言う。
「アルス、少し右」
アルス。
一歩。
動く。
射線。
開く。
火魔法。
二体目。
命中。
リリア。
「レイン、補助入れます」
レイン。
「お願い」
身体強化。
一瞬。
上がる。
一体目。
押し返す。
シリウス。
「三体目戻る!」
アルスが振り向く。
位置。
把握。
「こっちで取る」
交代。
自然。
でも。
全部。
声。
ある。
戦闘。
終わる。
教師が言った。
「今の班、そこで止まれ」
五人。
少し。
緊張。
教師。
近付く。
「昨日より遅い」
シリウスが少し止まる。
でも。
教師。
続ける。
「その代わり、判断の共有がかなり増えた」
レインが答える。
「意識しました」
「普段はもっと無言か?」
アルスが言う。
「はい。かなり」
「それで通じているなら悪くはない。ただし、無言の連携は班の外へ持ち出せない」
昨日。
言われたこと。
同じ。
教師が続ける。
「強い班ほど、自分たちだけで成立する形になりやすい。だが実戦では増員も交代もある。負傷者が出れば役割も変わる」
アルス。
覚える。
五人。
固定。
ではない。
いつも五人。
それ。
強み。
でも。
弱点。
にもなる。
「誰か一人欠けても、別の者が入れる形を作れ」
教師はそう言って離れた。
シリウスが小声で言う。
「難しいこと言うな」
レインが答える。
「でも必要だね」
残りの訓練。
五人。
続ける。
今度。
少しずつ。
言葉。
減らす。
でも。
完全には消さない。
「右見る」
「後ろ大丈夫」
「射線空けて」
「補助入れる」
「戻る」
短い。
十分。
訓練終了。
教師から評価を受ける。
今日は。
速さ。
普通。
討伐。
安定。
怪我役。
なし。
でも。
五人自身には。
前より。
手応え。
ある。
昼過ぎ。
共有談話室。
五人。
集まる。
シリウスが言う。
「声出すとちょっと遅くなるな」
レイン。
「最初はね」
アイリス。
「でも、何を考えているのか分かりやすかったです」
リリアも頷く。
「普段は分かっているつもりでも、言葉にすると違いますわ」
アルスも。
感じていた。
シリウスが前へ出る距離。
アイリスが欲しい射線。
リリアが補助を入れる基準。
レインが全体を止めるタイミング。
知っている。
つもり。
だった。
でも。
今日。
少し。
違って見えた。
「僕たち、もっと説明できた方がいいと思う」
アルスが言う。
シリウスが聞く。
「誰に?」
「他の人に」
未来。
五人だけ。
動く。
とは限らない。
学院。
冒険者。
騎士。
調査。
誰か。
一緒。
増える。
その時。
「いつもこうだから」
それ。
通用。
しない。
レインが頷く。
「僕たちのやり方を、僕たち以外でも使える形にする?」
アルスは少し考える。
「そこまで大きく考えなくてもいいと思う。でも、何をやってるか説明できるようにはしたい」
アイリスが言う。
「それなら授業の記録も使えますね」
リリア。
「ダンジョンの記録もありますわ」
シリウスが笑う。
「また紙増える?」
「増えるね」
「やっぱり」
五人。
笑う。
でも。
アルス。
少し。
気になる。
今まで。
五人。
自然に。
作った戦い方。
役割。
連携。
もしかしたら。
自分たちだけの癖。
ではなく。
他の人にも。
使える形。
あるかもしれない。
まだ。
研究。
するほど。
ではない。
ただ。
覚えておく。
夕方。
アイリスとリリアが女子寮へ戻る。
男子寮へ向かう途中。
レインが言った。
「アル、考えてるでしょ」
「分かる?」
「長いから」
シリウスも言う。
「また何か始める顔してる」
「まだ始めないよ」
「まだ、ね」
アルス。
笑う。
自室。
戻る。
机。
今日の紙。
一枚。
置く。
書く。
――五人の連携。
――無言で成立する部分が増えている。
――説明できない連携は、他の人と共有できない。
少し。
考える。
その下。
――役割を言葉にする。
それだけ。
今日は終わり。
明日。
授業。
ある。
寮の廊下。
静か。
少し離れた部屋からシリウスの笑い声。
アルスは紙を閉じる。
五人で動くこと。
もう。
特別。
ではない。
だからこそ。
一度。
見直す。
必要。
なのかもしれなかった。




