第141話 同じ授業、違う見え方
翌朝。
男子寮の廊下には、休暇前の賑やかさが戻っていた。
扉が開く音。
制服の擦れる音。
遠くから誰かを呼ぶ声。
アルスもいつもの時間に起き、制服へ着替える。机の上に置いていた教科書と筆記具を鞄へ入れ、最後に窓を開けた。
外は晴れている。
王立学院の中庭。
校舎。
行き交う生徒。
昨日までの休暇が終わった。
「アル!」
廊下からレインの声。
扉を開けると、レインとシリウスが待っていた。
シリウスが言う。
「遅い」
「普通だよ」
「俺が早かった」
レインが笑う。
「それは珍しいね」
「今日だけな」
三人で男子寮を出る。
共有談話室の前では、アイリスとリリアが待っていた。
五人。
揃う。
そのまま校舎へ向かう。
休暇中。
ずっと一緒。
だった。
でも。
学院。
制服。
教科書。
また。
違う五人。
教室。
Sクラス。
それぞれ席へ着く。
最初の授業。
魔物学。
教師が黒板へ大きく書く。
――生息域と行動傾向。
アルスは少し止まった。
休暇前。
同じ言葉。
何度も。
聞いた。
魔物。
種類。
特徴。
攻撃方法。
活動時間。
危険度。
でも。
今。
「行動傾向」。
その言葉。
以前より。
重い。
教師が説明する。
「同じ魔物でも、環境や季節、群れの状態によって行動は変わる。図鑑に書かれた特徴だけで判断してはいけない」
シリウスが小さくアルスを見る。
アルスも少しだけ笑った。
大型四足魔物。
昨日と今日。
怪我。
子供。
防衛行動。
まさに。
それ。
レインも気付いているらしい。
視線。
少し。
合う。
教師が続ける。
「危険度とは、魔物そのものの強さだけを指すものではない。場所。数。地形。疲労。視界。それらを含めて判断する」
今度は。
五人。
ほぼ同時に。
反応。
する。
中級ダンジョン。
狭い通路。
同じ魔物。
広場。
昨日より。
楽。
強い弱い。
だけではない。
シリウスが小声で言う。
「全部やったやつ」
アイリスが前を向いたまま。
「静かに」
「でも本当に」
「静かに」
アルスはノートへ書く。
でも。
授業の言葉。
そのまま。
ではなく。
横に。
自分たちの例。
狭い通路。
後衛機能低下。
退路確保。
戦場選択。
今まで。
授業。
先。
実践。
後。
だった。
今日は。
逆。
実践。
先。
授業。
後。
教師の説明が。
経験へ。
繋がる。
理解。
深い。
休憩時間。
シリウスがすぐ言った。
「授業、急に分かりやすくなってない?」
レインが答える。
「授業が変わったんじゃなくて、僕たちが変わったんだと思う」
「それそれ」
アイリスも頷く。
「実際に見た後だと、同じ説明でも意味が違いますね」
リリアが言う。
「以前は覚える内容でしたけれど、今は思い出す内容もありますわ」
アルス。
その表現。
好き。
覚える。
思い出す。
違う。
次の授業。
戦闘基礎。
訓練場。
木剣。
簡易装備。
教師が言う。
「今日は三人一組。正面から倒すことではなく、味方が動きやすい場所を作ることを意識しろ」
また。
五人。
少し。
笑う。
分けられる。
アルス。
別の二人。
レイン。
別。
シリウス。
別。
アイリス。
リリア。
それぞれ。
でも。
動き。
以前より。
変わっている。
アルスの組。
前。
相手。
来る。
味方。
すぐ。
攻撃。
しようとする。
アルスが言う。
「少し右へ」
「なんで?」
「後ろが広いから」
相手を。
右。
誘導。
味方。
動く。
背後。
空く。
攻撃。
成功。
教師が見る。
「いい。今のは敵ではなく場所を動かした」
アルス。
少し。
嬉しい。
ダンジョン。
そのまま。
使えた。
レインの組。
指示。
短い。
でも。
味方。
動きやすい。
シリウス。
相手を倒そうとせず。
位置。
崩す。
アイリス。
射線。
作る。
リリア。
補助。
必要な瞬間だけ。
休暇前。
五人。
同じ役割。
持っていた。
でも。
今。
もっと。
自然。
授業が終わる。
教師が五人を見る。
「休暇中、何かやったか?」
シリウスがすぐ答える。
「ダンジョン行きました」
「初心者か?」
レインが言う。
「中級です」
教師。
少し止まる。
「許可は?」
「あります」
「なら納得だ」
それだけ。
でも。
周囲。
少し。
ざわつく。
中級。
まだ。
同年代では。
珍しい。
アルス。
少し。
居心地。
悪い。
目立つ。
それ。
今でも。
得意ではない。
昼。
五人。
中庭。
食事。
シリウスがパンを食べながら言う。
「今日の授業、ほぼ復習だったな」
アルスが答える。
「でも、知らなかった言葉もあった」
「何?」
「環境危険度の考え方」
レインが頷く。
「僕もそこ」
アイリス。
「実際に経験したことを整理する言葉があるのは便利ですね」
リリアも。
「次に誰かへ説明しやすくなりますわ」
そこ。
大きい。
経験。
ある。
でも。
言葉。
ない。
共有。
難しい。
授業。
言葉。
くれる。
実践。
意味。
くれる。
両方。
必要。
午後。
歴史。
魔道具史。
教師が古い採掘都市の話をする。
アルス。
一気に。
集中。
過去。
鉱山。
魔石。
地下施設。
搬出路。
魔道具。
休暇前なら。
普通の歴史。
だった。
今。
違う。
中級ダンジョンの人工区域。
思い出す。
ただ。
似ている。
から。
同じ。
とは思わない。
授業後。
アルスは教師へ聞きに行く。
「古い採掘施設で、作業用の記号が使われた記録ってありますか?」
教師が少し驚く。
「ある。地域によって違うがな」
「図録ありますか?」
「図書館にあるはずだ」
それ。
欲しい。
でも。
今日は。
すぐ図書館。
行かない。
レインが後ろで待っている。
シリウスも。
「行かないの?」
シリウスが聞く。
「今日は寮に戻る」
「おお」
驚かれる。
「何」
「成長」
「最近それ言うね」
五人。
校舎を出る。
共有談話室。
少し。
話す。
明日の授業。
今日の内容。
ダンジョン。
少し。
でも。
研究会。
にはしない。
夕方。
アイリス。
リリア。
女子寮。
戻る。
三人。
男子寮。
戻る。
廊下。
シリウスが言う。
「今夜、談話室来る?」
アルスが聞く。
「何するの?」
「何もしない」
「それなら行く」
レインが笑う。
夕食後。
男子寮。
部屋。
アルスは教科書を机へ置く。
今日のノート。
開く。
魔物学。
戦闘。
歴史。
同じ授業。
なのに。
休暇前と。
見え方。
違う。
それだけ。
確認。
して。
閉じる。
図書館。
明日。
行けばいい。
今夜。
談話室。
行く。
アルスは部屋を出る。
廊下。
いつもの寮。
でも。
ここも。
前とは。
少し。
違って見える。
自分が。
変われば。
同じ場所。
同じ言葉。
同じ授業。
意味。
変わる。
それも。
一つの観測。
なのかもしれなかった。




