第136話 持ち帰ったものを見る人
三日後。
アルスたちは再び冒険者ギルドを訪れていた。
報告をした部屋。
前回と同じ机。
でも、今日は様子が違う。
机の上には、五人が持ち帰った地図の写し。
採取した鉱物。
金属片。
壁面記号の一覧。
そして。
別の資料。
かなり増えていた。
シリウスが言う。
「俺たちが帰ったあとも調べてたんだな」
ミーニャが答える。
「そりゃそうにゃ。あれだけ持ってこられて放っておけないにゃ」
レインが地図を見る。
アルスたちが描いたものに、別の色で書き込みが増えている。
過去の冒険者記録。
古い調査地点。
危険情報。
一致した部分。
一致しなかった部分。
全部。
分けられていた。
アルスが少し嬉しくなる。
自分たちの地図。
もう。
自分たちだけのものではない。
「ボルドさんは?」
シリウスが聞く。
ミーニャが奥を見る。
「来るにゃ。あと、今日はもう一人いるにゃ」
その時。
扉。
開く。
小柄。
でも。
存在感。
ある。
見慣れた姿。
ティア・ストーンハート。
「アル」
アルスが思わず笑う。
「先生」
ティアは返事より先に、机の上の鉱物を見る。
そして。
すぐ。
近付く。
「これじゃな」
シリウスが小声で言う。
「やっぱり鉱石から行った」
アイリスが少し笑う。
ティアは発光鉱物の欠片を手に取らず、まず外から見る。
「採った時は光っておったんじゃな?」
「はい。壁から離すと徐々に弱くなって、最後は消えました」
「魔素は?」
「一緒に減りました」
「戻したか?」
アルスが頷く。
「元の位置付近に戻して、向きを変えながら試しました。ある角度だけ一瞬反応しました」
ティアの目。
変わる。
「詳しく」
アルスは紙を出す。
位置。
角度。
壁の中の魔素流。
発光の有無。
全部。
簡単に説明する。
ティアは最後まで聞いてから言った。
「なるほどのう」
シリウスが聞く。
「分かる?」
ティアはシリウスを見る。
「分かるなら今頃もう騒いどるわ」
「まだ分からないんだ」
「分からんから面白いんじゃろうが」
アルス。
少し笑う。
いつものティアだった。
そこへ。
ボルドも入ってきた。
「始めるぞ」
ティアが言う。
「待て。まだこれを見とる」
「後で見ろ」
「今が後じゃ」
「会議が先だ」
二人。
少し。
睨む。
レインがアルスを見る。
アルスは小さく言う。
「知り合いだから」
「見れば分かるよ」
全員が席へ着く。
ボルドが最初に地図を広げた。
「まず、小型二足の群れ」
空気。
少し。
変わる。
アルスたちは静かになる。
ボルドが別の紙を出す。
「過去記録に似た報告がある」
アルスが顔を上げる。
「同じ種類ですか?」
「断定できん」
記録。
古い。
かなり。
場所。
中級ダンジョン周辺。
小型。
二足歩行。
石器らしきもの。
集団行動。
ただし。
詳細。
少ない。
「討伐された記録もある」
レインが聞く。
「敵対したんですか?」
ボルドは首を振る。
「記録だけでは分からん」
戦闘。
結果。
残っている。
でも。
どう始まったか。
書いていない。
そのこと。
アルスには重かった。
見たもの。
残す。
でも。
何を残すか。
それで。
後の人。
見えるもの。
変わる。
ミーニャが言う。
「だから今回の記録は別扱いにしてるにゃ。敵対前の行動がかなり残ってるにゃ」
アイリスが言った。
「過去には、そこまで観察されていなかったんですね」
「少なくとも残ってる記録ではそうにゃ」
ボルドが続ける。
「今後、あの群れへ勝手に接触するな」
五人。
頷く。
「必要ならギルド側で調査する」
アルスが聞く。
「僕たちは同行できますか?」
ボルドはすぐには答えない。
「必要なら呼ぶ」
それだけ。
次。
人工区域。
採掘設備。
壁面記号。
ティアの出番。
一気に増える。
「まずこれじゃ」
記号一覧。
ティアが指す。
「文字ではない可能性が高い」
アルスが言う。
「僕たちもそう考えています」
「配置が機能と一致しすぎとる」
三角+一本線。
採掘地点。
丸+二本線。
運搬設備。
縦線を囲む形。
通気。
四角+点。
保管・集積。
横三本+小丸。
閉鎖。
大四角+横線。
大型運搬路。
ティアが言う。
「古い作業標識じゃろうな」
シリウスが笑う。
「やっぱりほぼ読めてるじゃん」
アルスが言う。
「まだ予測だけ」
ティアがすぐ言う。
「その慎重さは正しい」
シリウスがアルスを見る。
「先生も同じこと言う」
「研究者だからね」
次。
黒い鉱石。
ティアが見る。
「これは学院へ持ち帰る」
即答。
アルスが聞く。
「分かります?」
「見ただけで分かるわけなかろう」
「ですよね」
「じゃが、魔素密度が普通ではない」
発光鉱物とは違う。
こちらは。
光らない。
でも。
魔素。
濃い。
それが。
人工設備と近い場所で大量に採掘されていた。
用途。
ある。
可能性。
高い。
さらに。
加熱設備。
アルスが描いた見取り図。
発光鉱物。
金属枠。
魔素経路。
ティア。
完全に止まる。
見る。
長い。
シリウスが言う。
「また固まった」
ティアが顔を上げる。
「これ、本当にこの配置じゃったか」
「はい」
「見間違いは?」
「可能性はあります。でも五人で確認しています」
レインも頷く。
「位置関係は合っています」
ティアが紙を見る。
「今の魔道具とは違う」
アルスが聞く。
「古い方式?」
「そこまでは言えん」
でも。
明らかに。
現行方式。
そのまま。
ではない。
発光鉱物を。
部品。
というより。
流れの一部。
として使っているように見える。
ティアが呟く。
「魔石を動力源にする考え方とは少し違うかもしれんのう」
アルスも。
そこ。
気になっていた。
今の魔道具。
魔石。
供給。
装置。
動く。
でも。
あの設備。
壁。
地中。
魔素流。
そこへ。
繋がっていた可能性。
ある。
「地脈から直接?」
アルスが言う。
ティアがすぐ見る。
「今はそこまで言うな」
アルス。
少し笑う。
「はい」
自分が言われた。
シリウスが笑いそうになる。
でも。
我慢。
ボルドが言う。
「問題は旧搬出口だ」
地表へ。
繋がっていた可能性。
高い。
崩落。
自然光。
植物根。
風。
ボルドは地図上で位置を示す。
「地上から逆算できるかもしれん」
アルスが驚く。
「外側から探すんですか?」
「その方が安全ならな」
崩落を。
内側から。
掘る。
危険。
外。
位置。
推定。
そこから。
調査。
できる可能性。
ある。
今まで。
地下からしか考えていなかった。
別。
視点。
シリウスが言う。
「また別の道か」
レインが笑う。
「ずっとそれだね」
本当に。
そう。
危険な場所。
正面から。
突破。
しない。
別の道。
探す。
外側。
その発想。
自然。
だった。
ミーニャが次の資料を出す。
「あと、これにゃ」
アルスたちの探索記録。
その一部。
ギルド向け。
整理。
されている。
危険地図。
水場。
帰路。
魔物。
戦闘推奨地点。
戦闘非推奨地点。
閉鎖区画。
崩落。
全部。
別。
色。
分けられている。
アルスが見る。
「これ、他の冒険者も使うんですか?」
「必要な部分だけにゃ」
全部。
公開。
しない。
小型二足魔物の情報。
人工施設の詳細。
調査中。
だから。
限定。
でも。
水場。
地形。
危険。
そういうもの。
共有。
できる。
シリウスが言う。
「俺たちが見たやつ、次の人が使うんだ」
ミーニャが頷く。
「そのための報告にゃ」
探索。
やっと。
外。
繋がる。
アルスは少し。
嬉しかった。
ティアが急に言う。
「アル」
「はい」
「次に行くならワシも行く」
即答。
アルス。
少し笑う。
「先生、冒険者でしたっけ?」
「研究者じゃ」
「ダンジョンですよ」
「知っとる」
ボルドが横から言う。
「勝手には行かせん」
ティアが見る。
「誰が許可を求めると言った」
「今言え」
「嫌じゃ」
シリウス。
とうとう。
笑う。
アイリスも。
リリアも。
レインも。
少し。
笑っている。
アルスは思う。
たぶん。
本当に。
来る。
ただ。
次。
すぐ。
ではない。
学院。
研究。
今回の情報整理。
やること。
多い。
ボルドが最後に言った。
「お前たちの最初の中級探索は、これで一旦終了だ」
五人。
静かになる。
終了。
その言葉。
少し。
不思議。
奥。
まだ。
ある。
未探索。
いっぱい。
でも。
今回。
終わり。
レインが言う。
「はい」
シリウスも。
「了解」
アルスも頷く。
一度。
戻る。
学ぶ。
共有。
次。
また。
行く。
それでいい。
ギルドを出た後。
五人は王都の通りを歩いた。
シリウスが言う。
「次、学校?」
アイリスが答える。
「長期休暇はまだ残っていますけど」
レインも。
「少し休もう」
リリアがアルスを見る。
「アルスは研究室へ行きそうですわね」
全員。
アルスを見る。
「……少しだけ」
シリウスが笑う。
「絶対少しじゃない」
アルスも笑った。
でも。
今回は。
休む。
たぶん。
少しは。
中級ダンジョン。
最初の探索。
終わった。
そして。
持ち帰ったものは。
もう。
次の誰かの手に。
渡り始めていた。




