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135/227

第135話 報告するということ

報告用の部屋へ入ると、五人はまず荷物を下ろした。


長い探索から戻った直後だったが、疲労より先にやることがある。


記録。


整理。


そして報告。


ミーニャは机の上へ紙を広げた。

「最初から順番に聞くにゃ。途中で飛ばすと後で分からなくなるにゃ」


シリウスが笑う。

「長いよ?」


「見れば分かるにゃ」


ミーニャの視線は、アルスが持っている地図の束へ向いている。


そこへ扉が開いた。


入ってきたのは、冒険者ギルドの長であるボルドだった。


「戻ったか」


低い声。


五人が立ち上がる。


レインが頭を下げた。

「無事戻りました」


ボルドは五人を一度見渡す。


怪我。


人数。


装備。


そして机の上の記録。


「報告が多そうだな」


シリウスが答える。

「かなり」


ミーニャが横から言う。

「かなりどころじゃないにゃ」


ボルドは椅子を引いた。

「なら聞こう」


報告が始まった。


最初。


王都から入口まで。


六日。


天候。


増水。


迂回。


森。


魔物。


疲労。


案内役から教わったこと。


帰路の記憶。


道が消える場所。


一つずつ。


レインが中心になって説明し、必要なところを他の四人が補足する。


ミーニャは途中で何度も質問した。


「増水した浅瀬はどの辺にゃ?」

「橋は今も使える状態だったにゃ?」

「狼型の群れは何体だったにゃ?」

「入口周辺の野営場所に水はあるにゃ?」


五人が見たもの。


全部。


次にそこへ行く誰かのための情報になる。


ボルドはほとんど口を挟まない。


ただ聞く。


そして、ときどき短く確認する。


「推測か」


アルスが言う。

「はい。そこは推測です」


「実際に見たのは?」


「川の水位上昇と、上流へ迂回したことです」


「ならそこを分けろ」


アルスは頷いた。


観測。


推測。


分ける。


自分たちの記録では自然にやっていた。


でも。


報告。


他人へ渡す情報。


そこではさらに重要になる。


次。


中級ダンジョン内部。


入口付近。


自然洞窟に近い構造。


階層らしい区切りなし。


魔物の死体が残る。


体内に魔石。


解体が必要。


分岐。


水路。


狭い通路。


地形。


戦場。


ミーニャの筆が止まらない。


「初心者ダンジョンとはかなり違うにゃ」


レインが答える。

「かなり違いました」


ボルドが聞く。

「一番違うと思ったのは何だ」


少し。


五人が考える。


シリウスが先に言った。

「戦う場所を自分で選ばないと危ないこと」


アイリスは続ける。

「敵の強さだけではなく、地形で危険度が変わることです」


リリアは。

「疲労や移動も含めて考えないといけないことですわ」


レイン。

「進めるから進む、では駄目なこと」


最後。


アルス。


「同じ場所でも毎日状態が変わることです」


ボルドは少しだけ口元を動かした。


「悪くない」


それだけ。


でも。


五人には十分だった。


次。


大型四足魔物。


怪我。


小型個体。


防衛行動。


戦闘中止。


ミーニャが聞く。

「討伐しなかったのにゃ?」


レインが答える。

「必要がなかったので」


「なるほどにゃ」


次。


水中の大型反応。


未同定。


接触なし。


さらに。


小型二足魔物。


複数。


道具。


食料保管。


小型個体。


見張りらしい行動。


こちらを認識。


双方攻撃なし。


そこで。


ミーニャの手が止まった。


ボルドも初めて少し姿勢を変えた。


「詳しく話せ」


アルスが記録を出す。


最初に見た時。


二回目。


時間をずらした時。


そして。


こちらが認識された時。


見たまま。


一つずつ。


説明する。


石。


骨。


道具。


運搬。


食料。


協力行動。


大きさの違う個体。


警戒行動。


声のやり取りらしきもの。


ただし。


意味。


不明。


種族。


不明。


敵対性。


不明。


ボルドが聞く。

「会話したか」


「していません」


「近付いたか」


「いいえ」


「向こうから近付いたか」


「いいえ」


「武器を向けたか」


「こちらは構えていません。向こうは長柄の道具を持っていましたが、攻撃はされませんでした」


ボルドは少し考える。


「今後、勝手に接触するな」


レインがすぐ頷いた。

「はい」


シリウスが聞く。

「危ないから?」


ボルドが見る。


「それもある」


少し間。


「意思疎通できる可能性があるなら、最初の接触を失敗すると後が面倒だ」


五人。


少し静かになる。


敵。


だけ。


ではない。


ギルド側も。


その可能性。


考える。


ミーニャが記録へ印を付けた。

「ここは別件で上げるにゃ」


アルスが聞く。

「調査隊が行くんですか?」


「すぐとは限らないにゃ。まず過去の記録と照合するにゃ」


それも。


今。


五人にはできないことだった。


次。


人工区域。


採掘区域。


加熱・加工区域。


大集積区域。


話が進むほど。


ミーニャの表情が変わる。


最初。


普通。


途中。


少し驚く。


そして。


壁面記号の話。


完全に止まった。


「待つにゃ」


アルスが止める。


ミーニャが記号一覧を見る。


三角と一本線。


丸と二本線。


縦線を囲む形。


四角と点。


横三本と小丸。


大四角と横線。


「これ全部、同じ施設内にあったにゃ?」


「はい」


「配置も記録してる?」


アルスは別紙を出す。


「全部ではないですけど、確認したものは」


ボルドが紙を受け取る。


しばらく。


見る。


「よく残したな」


アルスは少しだけ驚いた。


褒められた。


シリウスが横で小さく笑う。


でも。


今は黙っている。


ボルドは続ける。


「記号だけ持ち帰っても意味は薄い。どこにあったかが必要だ」


アルスも。


今回。


それを学んだ。


記号。


単体。


意味。


ない。


設備。


場所。


周囲。


繰り返し。


そこから。


意味。


近付く。


そして。


採取した鉱物。


発光鉱物。


黒い鉱石。


金属片。


机の上へ。


並べる。


ミーニャは直接触らず、袋越しに見る。


「これはギルドだけじゃ判断できないにゃ」


ボルドが言った。

「学院へ回す」


アルスの頭に。


すぐ。


一人。


浮かぶ。


ティア。


たぶん。


かなり。


食いつく。


シリウスも同じことを考えたらしい。


「ティア先生、来そうだな」


アイリスが笑う。

「間違いなく」


ボルドが聞く。

「ストーンハートが関わってるのか」


アルスが答える。

「収納魔道具の研究で一緒です」


ボルドはそれ以上聞かない。


「なら話は早い」


報告。


続く。


崩落した旧搬出路。


地表由来と思われる根。


土。


風。


自然光。


そして。


現在の入口とは別に。


昔。


地表へ繋がる搬出口が存在した可能性。


そこまで説明したところで。


ミーニャが紙を置いた。


「これ、初回探索の報告量じゃないにゃ」


シリウスが笑う。

「俺も途中からそう思ってた」


レインも苦笑した。

「最初は入口周辺だけ見るつもりだったんです」


ボルドが言う。

「深く潜ったわけではないんだろ」


アルスが答える。

「どこを深いと言うのかも、まだ分かりません」


ボルド。


少し。


笑う。


「そうだな」


階層。


ない。


最深部。


不明。


道。


網状。


上下。


複数。


どこまでがダンジョンで。


どこからが昔の施設なのか。


それさえ。


分からない。


報告が終わった頃。


机の上は。


紙。


地図。


採取物。


記録。


いっぱい。


だった。


ミーニャが腕を組む。

「整理に時間かかるにゃ」


アルスが言う。

「手伝います」


「今日は帰るにゃ」


「でも」


「帰るにゃ」


強い。


シリウスが笑う。


ミーニャは五人を見る。


「探索から戻った日に、さらに何時間も記録整理する冒険者は長持ちしないにゃ」


レインがアルスを見る。


「聞いた?」


「聞いた」


「帰ろう」


アルスも。


諦める。


ボルドが言った。


「三日後にもう一度来い」


五人が見る。


「記録を整理する。その時に、追加で確認したいことを聞く」


レインが頷く。

「分かりました」


そして。


ボルドはアルスの地図を見る。


「これは預かる」


アルスが少し止まる。


原本。


でも。


ギルド。


必要。


「分かりました」


「写しを作って返す」


それなら。


問題ない。


五人は席を立った。


部屋を出る前。


ミーニャが言う。


「最初の中級探索としては十分すぎるにゃ」


シリウスが笑った。

「褒められた?」


「調子に乗るなにゃ」


「やっぱり」


五人。


笑う。


ギルドの外。


王都。


人。


店。


馬車。


立体映像。


いつもの街。


地下。


数日前まで。


古い採掘施設。


未知の魔物。


崩落した搬出口。


そんなものを見ていた。


でも。


王都。


普通に。


動いている。


アルスは少し不思議だった。


知られていないもの。


見つける。


でも。


世界。


何も変わらない。


まず。


情報。


持ち帰る。


調べる。


共有。


そして。


必要なら。


次の誰かが。


続ける。


観測。


自分だけのもの。


ではない。


それを。


今日。


初めて。


はっきり感じた。


アルスは空を見る。


中級ダンジョンで見つけたもの。


まだ。


ほとんど。


答え。


ない。


でも。


これから。


自分たちだけでは見えなかった部分を。


別の誰かが。


見る。


それも。


少し。


楽しみだった。

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