第132話 運ばれた先
翌朝、アルスたちは前日に見つけた加熱・加工区域(仮)へ向かった。
細い足場を渡り、採掘区域を抜け、石台の並ぶ集積区画を通る。何度も歩いた道だが、だからといって確認を省くことはない。閉鎖を示す可能性が高い記号のある通路には近付かず、崩落を確認した区画も使わない。
加熱設備のある広間へ着くと、五人はまず前日の状態と変化がないか確かめた。
煤の付いた石組み。発光鉱物を組み込んだ設備。金属の残渣。小さな成形物らしき塊。どれも昨日と変わっていない。
シリウスが奥の広い通路を見る。
「今日はこっちだな」
床には二本の擦れ跡が続いている。加工した何かを、この先へ運んでいた可能性が高い。
レインが言った。
「途中で何かあったら戻る。今日はこの線を追おう」
五人は進んだ。
通路は広く、これまでの採掘区画より歩きやすい。壁もある程度整えられていて、重い荷物を運ぶことを考えて作られたように見える。
シリウスが床を見ながら歩く。
「やっぱり二本、ずっと続いてる」
「幅もほぼ同じだね」
アルスは記録する。
平行した擦過痕。
幅、ほぼ一定。
加熱区域から継続。
前世の記憶なら、車輪や台車を考える。ただし、この世界には魔道具もある。必ずしも車輪とは限らない。
少し進むと、壁に丸と二本線の記号が現れた。
もう驚く者はいない。
「運搬関連」
シリウスが言う。
アルスも頷く。
「かなり高いと思う」
さらに先。
通路が少し広がったところで、床の擦れ跡が四本になった。
レインが止まる。
「増えた」
左右。
別の通路。
二本ずつの擦れ跡が合流している。
アイリスが言った。
「別の場所からも何か運んできていたんですね」
アルスは地図を確認する。
右の通路は未探索。
左も未探索。
そして今来た中央。
三方向から物が集まっている。
「ここ、合流地点かも」
シリウスが先を見る。
「全部この先へ?」
床を見る限り、そう見える。
四本の跡が、広い一本の通路へまとまっている。
五人はその先へ進んだ。
少しずつ。
空気が乾く。
水音も聞こえない。
発光鉱物は減り、代わりに壁へ人工的な灯りを固定していたらしい穴が一定間隔で並んでいる。
リリアが言う。
「ここは長い通路だったのかもしれませんわね」
レインも周囲を見る。
「運搬路として使っていたなら、灯りも必要だっただろうね」
そして数分後。
前方。
広い空間。
五人は入口で止まった。
これまで見たどの部屋より大きい。
天井も高く、床もかなり平らに整えられている。中央には何本もの溝が走り、それぞれが壁際の大きな台へ続いていた。
シリウスが思わず言う。
「でかいな」
レインも同じだった。
「ここまで広いとは思わなかった」
アルスは魔素を見る。
生き物の反応。
なし。
ただし、壁や床には人工的な魔素の痕跡がいくつも残っている。
完全に死んではいない。
何かの設備。
そこに残った魔素。
弱い。
でも、多い。
五人はゆっくり中へ入った。
壁際。
石台。
一つ。
二つ。
十以上。
どれも同じくらいの高さ。
その上には金属の破片。
黒い粉。
そして一部には、明らかに同じ形へ整えられた金属塊が残っている。
アイリスが一つを見る。
「昨日の小さいものより、形が揃っています」
アルスも確認する。
棒状。
板状。
四角。
いくつかの種類に分かれている。
完成品。
というより。
材料。
そう見える。
レインが言った。
「ここで種類ごとに分けてた?」
「可能性は高い」
採掘。
加熱。
成形。
運搬。
そして。
分類。
集約。
工程がさらに伸びる。
シリウスが広間の反対側を指した。
「向こうにも出口あるぞ」
一つ。
ではない。
三つ。
さらに。
壁。
大きな開口。
そこだけ。
明らかに幅が広い。
大型の荷物。
通せる。
アルスがそこへ近付く。
床の擦れ跡。
一番多い。
太い。
深い。
何度も。
重い物を運んだ。
可能性。
高い。
壁。
その横。
また記号。
丸と二本線。
その下に。
今まで見たことのない記号。
大きな四角。
中央に横線。
シリウスがすぐ言う。
「新しいやつ」
アルスは写す。
大四角+横線。
大型開口部付近。
一例。
意味。
不明。
ただし。
場所。
かなり特徴的。
広間。
集積。
大きな出口。
レインが開口部の先を見る。
「外へ繋がってたりしないかな」
その可能性。
ある。
ただ。
今いる場所は地下。
どれくらい。
深いか。
正確には分からない。
アルスが魔素を探る。
先。
かなり遠い。
反応。
薄い。
そして。
少し。
風。
ある。
アイリスも気付いた。
「空気が動いています」
リリアも。
「今までより少し乾いた風ですわ」
シリウスが笑う。
「出口っぽい?」
レインがすぐ言う。
「まだ分からない」
今までなら、アルスが言っていた言葉。
今は。
レインも。
シリウスも。
アイリスも。
リリアも。
自然に使う。
決めない。
見る。
それが五人の共通のやり方になっている。
広間をさらに確認する。
壁際。
壊れた木枠。
太い金属棒。
鎖。
大きな輪。
荷物を固定するため。
そう見える。
シリウスが鎖を見る。
「これ、今でも使える?」
レインが首を振る。
「錆びてる。触らない方がいい」
アルスも同意する。
見つけたもの。
使える。
とは限らない。
古い設備。
突然壊れる。
崩落で。
もう学んだ。
中央。
床の溝。
そこには細かな金属片が残っている。
アルスは一つだけ採取する。
前日に見たものとは違う。
少し明るい色。
魔素。
ほとんどない。
素材。
異なる可能性。
高い。
「帰ったら比較したい」
シリウスが言う。
「持ち帰る物増えてきたな」
「小さい物だけね」
収納魔道具は使わない。
普通の袋。
それで十分。
レインが時間を見る。
「今日はこの広間までにしよう」
シリウスが大きな開口部を見る。
「あそこ気になるけどな」
「僕も」
アルスが言う。
だから。
明日。
来られる。
今。
全部を見る必要はない。
五人は広間の見取り図を作る。
搬入路。
複数。
石台。
分類された材料らしき残留物。
大型開口部。
三本の小通路。
鎖。
金属輪。
床の溝。
新しい記号。
位置。
全部。
記録。
帰り道。
何も起きない。
でも。
戻る途中。
アルスはずっと考えていた。
採掘。
だけ。
ではない。
地下で。
掘る。
運ぶ。
加工。
分類。
集める。
そして。
どこかへ出す。
もし。
大きな開口部が。
外。
あるいは別の施設へ繋がっているなら。
この場所。
単独の鉱山。
ではなく。
もっと大きな流れの一部だった可能性。
ある。
野営地へ戻ると、アルスは地図を広げる。
今まで。
細かく分かれていた区画。
今日。
一本の流れで。
繋がった。
採掘地点。
運搬路。
集積。
加熱・加工。
再運搬。
大集積区域。
そして。
大型開口部。
シリウスが言った。
「これ、完全に流れ作業だな」
アルスもかなり近いと思う。
前世の言葉なら。
生産工程。
物流。
工場。
でも。
ここはポテンシア。
同じ言葉で。
同じ意味に。
決める必要。
ない。
レインが言う。
「誰かがかなり大きな規模で動かしてたんだね」
それは。
もう。
かなり確か。
一人。
数人。
ではない。
多くの人。
あるいは。
人ではない何か。
組織。
設備。
長い期間。
必要。
アルスは探索記録の最後に書いた。
――加熱・加工区域の先で、大規模な集積・分類区域を確認。
――複数の運搬路が合流し、大型開口部へ続く。
――採掘から加工、集積、搬出まで一連の運用体系が存在した可能性、高。
その下。
新しい記号。
――大四角+横線。
――大型開口部付近で一例。
――意味不明。要追加確認。
そして最後に。
――一つの設備ではなく、流れとして見ると、この場所の規模が見えてくる。
地図。
また。
役割。
変わった。
帰るため。
過去を読むため。
そして。
今では。
誰かが作った仕組みそのものを。
見るためのものに。
なり始めていた。




