第127話 働いていた場所
翌朝。
アルスたちは採掘区域(仮)へ向かった。
何度も通った細い足場を渡り、人工的に整えられた通路を抜ける。昨日見つけた下部の採掘空間へ着くと、五人はまず黒い鉱脈と縦穴をもう一度確認した。
変化。
なし。
落石。
なし。
新しい痕跡。
なし。
レインが言った。
「今日は奥だね」
アルスも頷く。
採掘空間のさらに奥。
昨日は見なかった細い通路。
今のところ、近くに大きな魔素反応はない。
シリウスが先頭へ出る。
「行こう」
通路は最初、かなり狭かった。
一人ずつ。
壁。
ところどころ削られている。
足元。
平らではない。
上部の人工区域よりも粗い。
アルスは思う。
ここは、人が生活するための場所ではなく。
作業するために必要な分だけ整えた。
そんな形に見える。
少し進むと。
壁。
一定間隔で。
小さな穴。
また。
ある。
レインが言う。
「これ、上にもあったよね」
「うん」
アルスは比べる。
上部の広間。
固定具。
ここ。
同じ間隔。
ただし。
高さ。
少し低い。
シリウスが言った。
「灯りじゃない?」
アイリスが壁を見る。
「作業場所なら可能性はありますね」
アルスもそう思う。
でも。
まだ。
何を固定していたか。
分からない。
記録だけ。
進む。
そして。
匂い。
少し。
違う。
鉄。
土。
古い油。
そんな感じ。
シリウスが鼻を動かす。
「なんか臭うな」
レインも。
「油?」
アルスには前世の感覚で、古い機械油に近いものを少し思い出した。
でも。
この世界。
同じとは限らない。
それでも。
作業用の何かに使われていた可能性は高い。
通路の先。
小さな広間。
そこには。
物が残っていた。
木。
かなり朽ちている。
細長い板。
何本か。
その横。
金属。
輪。
棒。
滑車のように見える円形の部品。
シリウスが言う。
「これ、荷物運ぶやつじゃない?」
アルスも近付かずに見る。
円。
中央に穴。
縁。
削れている。
縄。
通していた。
可能性。
高い。
レインが昨日の縦穴を思い出す。
「じゃあ上と下を繋いでた設備の部品かもしれない」
アルスは頷く。
少なくとも。
ただ掘った。
ではない。
鉱石。
掘る。
集める。
運ぶ。
上げる。
作業。
工程。
あった。
少しずつ。
見えてくる。
アイリスが奥を見る。
「まだあります」
壁際。
低い台。
その上。
石。
小さい。
同じ形。
複数。
並んでいる。
リリアが言う。
「数えていたのでしょうか」
アルスも気になる。
石。
一つずつ。
同じくらい。
大きさ。
色。
少し違う。
整理。
されていたように見える。
でも。
何を意味するか。
分からない。
シリウスが言う。
「作業数?」
「鉱石の量?」
レインも。
「班分け?」
アルスは首を振る。
「全部あり得る」
つまり。
まだ。
分からない。
でも。
誰か。
この場所を。
管理していた。
その可能性。
高い。
さらに調べる。
壁。
引っかき傷。
ではない。
線。
短い。
一定間隔。
何本も。
その近く。
数字。
ではない。
文字。
でもない。
記号。
のように見えるもの。
初めて。
アルスは止まった。
「これ」
全員が集まる。
壁。
浅く。
刻まれている。
三角。
線。
丸。
組み合わせ。
シリウスが言う。
「文字?」
アイリスも。
「見たことありません」
レインが聞く。
「昔の文字?」
アルスはすぐに答えない。
古代文字。
作業記号。
個人の印。
数。
全部。
可能性。
ある。
ただ。
今まで。
人工区域で。
文字らしいもの。
なかった。
だから。
これは。
かなり大きい。
アルスは紙へ。
形。
そのまま。
写す。
解釈。
しない。
「帰ったら調べたい」
シリウスが言う。
「やっと何か読めそうなもの出たな」
「読めるかは分からないけどね」
でも。
資料。
として。
価値。
高い。
レインが周囲を見る。
「ここ、管理場所だったのかもしれない」
アルスもそう思う。
部品。
整理された石。
記号。
広間。
作業場。
そんな感じ。
ただ。
まだ。
仮説。
その時。
リリアが床を見る。
「これ、靴跡……でしょうか」
全員。
見る。
古い。
ほとんど消えている。
でも。
泥。
固まった跡。
形。
細長い。
二足。
のように見える。
シリウスがしゃがむ。
「人?」
アルスは少し緊張する。
サイズ。
人間に近い。
でも。
獣人。
魔族。
エルフ。
ドワーフ。
他種族。
いくらでも。
可能性。
ある。
「少なくとも二足歩行っぽい」
それ以上。
言わない。
でも。
今まで。
ただ。
誰か。
だった存在。
少し。
輪郭。
出る。
二足で歩く。
道具を使う。
設備を作る。
鉱石を採る。
管理する。
記録らしきものを残す。
文明的。
活動。
かなり。
はっきり。
してきた。
シリウスが言った。
「ここで働いてたんだな」
今度は。
誰も。
すぐ否定しなかった。
アルスも。
その言い方。
かなり。
近いと思った。
レインが時間を見る。
「今日はここを調べるだけで十分だね」
全員。
同意。
奥。
さらに通路。
ある。
でも。
行かない。
今日。
情報。
多い。
五人は広間を見取り図にする。
滑車らしき部品。
木材。
低い台。
整理された石。
壁の記号。
二足らしき足跡。
全部。
位置。
残す。
帰り。
採掘空間。
縦穴。
上部。
人工区域。
細い足場。
入口。
問題なし。
野営地へ戻ると。
アルスは今日写した記号を地図とは別紙へまとめた。
一つ。
二つ。
三つ。
繰り返している形。
ある。
アイリスが見る。
「同じ記号がありますね」
「うん」
レインも。
「意味がある可能性は高い」
シリウスが笑う。
「ついに解読?」
アルスは首を振る。
「まだ無理」
でも。
少なくとも。
ランダム。
ではなさそう。
繰り返し。
位置。
組み合わせ。
何か。
規則。
ある。
帰って。
資料。
古い文字。
採掘記録。
ギルド。
研究者。
全部。
調べたい。
アルスは探索記録の最後に書いた。
――採掘区域下部で、滑車状部品、整理された物品、壁面記号、二足歩行者らしき古い足跡を確認。
――作業だけでなく、管理・記録を伴う継続的な活動が行われていた可能性。
そして。
もう一行。
――跡だけだった場所に、少しずつ「働いていた誰か」が見え始めた。
誰だったのか。
まだ。
分からない。
でも。
確かに。
ここで。
何かをしていた。
そんな存在の気配が。
初めて。
形になり始めていた。




