第121話 五人で作る地図
翌朝。
アルスたちは、昨日書き直した地図を囲んでいた。
入口から広がる複数の通路。
地下水。
深い穴のある広場。
大型四足魔物のいた広場。
小型二足魔物たちが生活している広間。
線は増えた。
でも、それ以上に分かったことがある。
このダンジョンは、一方向へ進むだけでは足りない。
「今日は全部を一緒に見る必要ないんじゃない?」
シリウスが地図を見ながら言った。
レインが顔を上げる。
「分かれるってこと?」
「完全には分かれない。見える範囲だけ」
シリウスは昨日つながった場所を指す。
「例えばここ。穴の広場の先、昨日は左へ行って水路につながっただろ。右はまだ見てない。でも五人全員で一つずつ見ると時間かかる」
アルスは少し考えた。
別行動。
それ自体は危険。
でも。
短い距離。
互いの声が届く。
退路が分かっている。
条件を決めれば、あり得る。
レインが言う。
「二手までなら試してもいいかもしれない」
アイリスがすぐ確認する。
「離れすぎないこと。戦闘はしないこと。何かあればすぐ戻ること」
リリアも頷いた。
「時間も決めた方がいいですわ」
アルスは地図へ丸を付ける。
穴の広場。
ここを基点にする。
「僕とシリウスが右を見る。レイン、アイリス、リリアは広場に残って周囲をもう一度確認。十分で戻る」
シリウスが笑う。
「いいね」
レインは少し迷ったが、最後に頷いた。
「十分だけ。それ以上は行かない」
決まった。
五人は中級ダンジョンへ入る。
昨日まで何度も通った道を進み、穴の広場へ到着する。
深い穴。
変化なし。
周囲。
魔物の反応。
近くにはない。
アルスとシリウスが右の通路へ入る。
最初は広い。
二人並べる。
シリウスが前。
アルスが後ろ。
「なんか変な感じだな」
シリウスが言う。
「何が?」
「五人じゃない」
アルスも同じだった。
後ろに三人いる。
そう分かっていても。
今。
目の前。
二人だけ。
音。
少ない。
会話。
少ない。
少し。
緊張。
強い。
「だから十分だけ」
アルスが言う。
「了解」
進む。
通路。
右へ曲がる。
少し上る。
床。
乾いている。
壁。
一部。
削れている。
天然。
か。
人工。
か。
分からない。
シリウスが止まる。
「足跡」
アルスも見る。
小さい。
四足。
複数。
新しい。
「近い?」
アルスは魔素を見る。
「今はいない」
記録。
足跡。
四足。
複数。
進む。
さらに。
通路。
狭くなる。
そして。
前。
光。
いや。
自然光ではない。
淡い。
青白い。
シリウスが眉を上げる。
「何だあれ」
二人。
近付く。
曲がり角。
その先。
壁。
一部。
光っている。
鉱石。
結晶。
小さな粒。
岩の中に。
無数。
アルスが止まる。
「魔素ある」
「魔石?」
「分からない」
壁。
自然に埋まっているように見える。
削った跡。
少し。
ある。
古い。
誰か。
採った。
可能性。
シリウスが小さく言う。
「これ、冒険者?」
「たぶん。でも魔物の可能性もある」
道具を使う魔物。
昨日見た。
だから。
人間だけ。
とは限らない。
アルスは少し近付いて観察する。
でも。
触らない。
「今日は見るだけ」
シリウスが笑う。
「分かってる」
時間。
確認。
あと四分。
進まない。
ここまで。
戻る。
その途中。
シリウスが立ち止まる。
「音」
アルスも聞く。
小さい。
前。
いや。
後ろ?
石。
転がる。
音。
二人。
構える。
でも。
魔素。
反応。
一つ。
小さい。
曲がり角。
何か。
覗く。
昨日まで見た四足魔物。
さらに小さい。
一体。
こちらを見る。
アルスとシリウス。
動かない。
魔物も。
止まる。
数秒。
そのまま。
逃げる。
シリウスが息を吐く。
「戦わなくて済んだ」
「うん」
今は。
追わない。
時間。
優先。
二人は穴の広場へ戻る。
予定。
十分。
ほぼ。
ぴったり。
レインがすぐ聞く。
「何かあった?」
アルスが答える。
「壁に発光する鉱石みたいなものがあった。魔素あり。正体不明」
シリウスが続ける。
「あと小さい四足一体。こっち見て逃げた」
「戦闘なし?」
「なし」
今度は。
残った三人の報告。
アイリスが言う。
「穴の反対側に、空気が流れている場所がありました」
アルスが見る。
「通路?」
「壁の隙間です。人は通れません」
リリアも。
「でも冷たい風が出ていますわ」
レインが穴の縁を指す。
「あと、穴の下から音がした」
シリウスがすぐ反応する。
「何の?」
「水みたいな音」
アルスが穴を見る。
深い。
昨日は。
ただ。
落ちたら危険。
それだけ。
今日。
下。
水。
可能性。
ある。
つまり。
下層?
地下水路?
別空間?
分からない。
でも。
地図。
また。
立体になる。
アルスはその場で記録する。
穴の下。
水音の可能性。
空気流入。
壁の狭い隙間。
シリウスが言う。
「俺らが十分快見てる間に結構見つけてるな」
レインが笑う。
「動いてないから、細かく見られた」
それだった。
進む。
ばかり。
ではない。
止まる。
から見えるもの。
ある。
アルスは地図へ。
右。
発光鉱石の通路。
穴。
水音。
風。
情報を加える。
そして。
次。
どうする。
レインが聞く。
「もう一度二手に分かれる?」
アルスは少し考える。
「今日はここまででいいと思う」
シリウスが意外そうに見る。
「早くない?」
「情報多い」
鉱石。
風。
穴の下。
小型魔物。
足跡。
一度。
整理。
必要。
アイリスが頷く。
「それに、別行動が安全だったのは今回だけかもしれません」
リリアも。
「毎回同じ条件とは限りませんわ」
レインが決める。
「戻ろう」
五人。
帰る。
入口まで。
問題なし。
野営地。
地図。
広げる。
今日。
進んだ距離。
短い。
でも。
情報。
かなり増えた。
アルスは改めて気付く。
五人。
それぞれ。
見ているもの。
違う。
シリウス。
足元。
痕跡。
レイン。
全体。
位置関係。
アイリス。
環境。
魔法。
リリア。
変化。
体調。
アルス。
魔素。
比較。
一人。
全部。
無理。
でも。
五人。
なら。
重なる。
シリウスが地図を見る。
「俺ら、結構地図屋っぽくなってきたな」
アイリスが笑う。
「冒険者です」
「両方でいいだろ」
レインも少し笑った。
アルスは今日の記録をまとめる。
短時間の限定別行動を実施。
基点は穴の広場。
声が届く範囲。
戦闘禁止。
時間制限十分。
問題なし。
右通路。
発光鉱物らしきもの。
魔素反応あり。
採掘跡の可能性。
未確認。
穴。
下方より水音の可能性。
壁の隙間より冷気。
下部に別空間の可能性。
最後。
一行。
――五人で同じ場所を見る必要はない。
――ただし、五人で同じ情報を持つ必要はある。
地図。
一枚。
見る人。
五人。
だから。
一人では作れない地図になっていく。
それが。
少し。
面白かった。




