第113話 戦う場所を選ぶ
翌朝。
アルスたちは昨日より少し早く入口へ向かった。
身体の状態は悪くない。前日の探索は短かったぶん、疲労もほとんど残っていない。
帰還用の結晶を横目に、五人は暗い通路へ入る。
昨日通った道。
最初の広間。
最初の分岐。
左。
狭い通路。
魔物と戦った広場。
そして。
三叉路。
昨日はここで引き返した。
シリウスが三本の通路を見る。
「さて」
右。
狭い。
中央。
下り。
左。
微かに風。
レインが聞く。
「どう思う?」
アルスは魔素を見る。
右。
反応なし。
中央。
遠くに一つ。
左。
薄い反応が複数。
「左は何かいる。中央は一つ。右は今のところ何も感じない」
シリウスが言う。
「安全そうなの右?」
アルスは首を振る。
「反応がないだけ」
昨日までなら。
魔物がいない。
だから安全。
そう考えたかもしれない。
でも。
狭い。
逃げにくい。
見通しも悪い。
レインが通路の幅を見る。
「右は戦闘になった時にきつそうだね」
アイリスも頷く。
「魔法を使う場所もありません」
リリアが中央を見る。
「中央は下っていますわね」
シリウスが左を見る。
「風があるってことは、どこか広い場所に繋がってる?」
「可能性はある」
アルスもそう思う。
五人は左を選んだ。
理由。
魔物がいる可能性はある。
でも。
空気が動いている。
広い場所へ繋がる可能性。
そして。
引き返せる。
進む。
通路。
最初は狭い。
ただ。
少しずつ。
広がる。
シリウスが言う。
「当たりかも」
レインがすぐ返す。
「まだ分からないよ」
さらに進む。
前。
開ける。
かなり広い空間。
天井も高い。
地面。
凹凸はある。
でも。
五人で動ける。
アルスが周囲を見る。
「ここなら戦える」
シリウスも笑う。
「昨日より全然いい」
その瞬間。
アルスが止まる。
「来る」
全員。
構える。
正面。
二つ。
左。
一つ。
合計三。
岩陰から姿を見せた。
昨日の小型四足魔物と同じ種類に見える。
でも。
今日は三体。
シリウスが言う。
「昨日より多い」
レインは広場を見る。
「でも場所はいい」
その言葉。
昨日との違い。
敵。
増えた。
でも。
戦場。
選べる。
レインが前へ。
シリウスが右。
アルスが左。
アイリスとリリアが後方。
いつもの形。
魔物。
一体。
正面。
レイン。
受ける。
横。
シリウス。
二体目。
アルス。
三体目。
すぐに。
分かれる。
昨日。
狭い通路では。
シリウス一人。
今日は。
三人。
前で受けられる。
アルスの相手が飛び込む。
魔素。
脚。
次。
左。
「左に来る」
アルスが一歩外す。
剣。
横。
浅い。
でも。
動き。
止まらない。
アイリスの小さな火球。
背後から。
当たる。
魔物がよろける。
アルス。
次。
深く。
倒れる。
「一!」
シリウス側。
速い。
短剣。
一撃。
外す。
魔物。
横。
でも。
逃げる場所がある。
シリウス。
大きく回る。
追わせる。
レインが自分の相手を少し押し返す。
「シリ、そのまま!」
シリウスが円を描く。
魔物。
背中。
アイリス側へ向く。
「今!」
火球。
直撃。
二。
レインの相手。
一体。
五人。
余裕。
それでも。
囲みすぎない。
動きを見る。
リリア。
補助。
一瞬。
レインの脚。
前。
剣。
決まる。
三。
静かになる。
アルスは周囲を見る。
他。
なし。
「終わり」
シリウスが息を吐く。
「三体でも昨日より楽だったな」
アイリスも頷く。
「場所が違うだけで、ここまで変わるんですね」
レインが言う。
「昨日は敵に戦う場所を決められた。今日は僕達が決めた」
アルスはその言葉を覚える。
敵の強さ。
人数。
もちろん大事。
でも。
地形。
配置。
逃げ道。
それも。
戦闘の一部。
魔物の死体。
三体。
今度は。
少しだけ時間を使う。
魔石。
回収。
それから。
皮。
爪。
牙。
使えそうな部分。
全部。
ではない。
必要な分だけ。
シリウスが言う。
「これ、素材として売れるかな」
レインが答える。
「ギルドで見てもらおう」
アルスは収納魔道具を見る。
昨日の魔石。
一枠。
今日。
三体分。
同じ種類の魔石をまとめる。
素材。
別。
残り。
空き。
かなり少ない。
「やっぱり五枠はきつい」
シリウスが笑う。
「また始まった」
アルスも笑う。
「今回は本当に実用上の問題」
アイリスが言う。
「それは認めます」
進む。
広場の奥。
また通路。
今度は二つ。
一つ。
広い。
一つ。
狭い。
レインがすぐ言う。
「広い方」
シリウスが笑う。
「学習したな」
「安全とは限らないけど、戻りやすい」
アルスも同意する。
今日の目的。
深く進む。
ではない。
探索。
地図。
戦場。
帰路。
それを確かめる。
広い方。
進む。
しばらく。
何も出ない。
ただ。
地形。
変わる。
岩。
湿っている。
天井。
低くなる。
地面。
少し下る。
シリウスが止まる。
「水」
前。
音。
小さな流れ。
洞窟の中。
地下水。
アルスが見る。
「水場かもしれない」
近付く。
慎重に。
水。
澄んでいる。
でも。
飲まない。
まず。
見る。
匂い。
魔素。
周囲。
魔物。
なし。
レインが言う。
「中に水があるなら、長く潜る時には重要だね」
リリアも頷く。
「ただし使えるかは確認が必要ですわ」
アルスは記録する。
広場。
三体。
二股。
広い方。
地下水。
地図。
少しずつ。
伸びる。
その時。
シリウスが後ろを見る。
「帰る?」
レインが時間を見る。
まだ。
余裕。
でも。
戻るなら。
今。
疲労。
ほぼなし。
魔力。
十分。
荷物。
少し増えた。
アルスが言う。
「ここで帰るのがいいと思う」
アイリスが聞く。
「理由は?」
「水場まで見つけた。次に来た時の基準になる。それに収納も埋まり始めた」
レインも頷く。
「賛成」
シリウスも。
「今日は戦ったしな」
全員。
戻る。
帰り。
今度は。
道。
かなり分かる。
水場。
二股。
広場。
三叉路。
昨日の通路。
入口。
ただ。
一つ。
違った。
広場。
死体。
残っている。
それが。
帰り道の景色を変えている。
アイリスが言う。
「こういうものを目印にしない方がいいですね」
アルスもすぐ分かる。
明日。
誰かが持っていくかもしれない。
魔物。
食べるかもしれない。
腐るかもしれない。
残らない。
旅で学んだこと。
同じ。
動くもの。
変わるもの。
目印にしない。
入口。
見える。
外の光。
戻る。
案内役は昨日と同じ場所にいた。
五人。
出る。
一。
二。
三。
四。
五。
案内役が聞く。
「今日は?」
レインが答える。
「三体と戦いました。昨日と同じ種類だと思います」
「怪我は?」
「なし」
「どこで戦った」
少し意外な質問。
レインが答える。
「広い場所です」
案内役が頷く。
「ならいい」
シリウスが聞く。
「敵の種類じゃなくて場所聞くんだ」
案内役が答える。
「狭い場所で無理して戦う奴は長く続かん」
五人。
少し笑う。
今日。
自分たちで。
同じことを。
学んだ。
野営地へ戻り。
素材。
確認。
魔石。
爪。
牙。
皮。
アルスは一つずつ並べる。
初心者ダンジョンでは。
なかったもの。
魔物。
敵。
だけではない。
素材。
食料。
研究対象。
価値。
全部。
残る。
レインが言う。
「倒す意味も変わるね」
アルスも頷く。
でも。
だから。
全部倒す。
ではない。
旅で。
もう分かっている。
必要。
危険。
目的。
全部見て。
選ぶ。
今日。
三体。
戦った。
それで。
十分。
アルスは新しく伸びた地図を見る。
まだ。
小さい。
でも。
昨日より。
確実に。
広がった。
中級ダンジョン。
攻略する場所。
というより。
まず。
知る場所。
そんな感じがした。




