↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
107/227

第107話 道がなくなった場所

三日目の朝。


昨日より、片付けは早かった。


テントを畳む。火を消す。水を確認する。荷物を背負う。周囲に何も残していないことを最後に見る。


最初の日には一つずつ声を掛けていた作業が、もうかなり自然になっている。


シリウスが背負い袋を持ち上げながら言った。

「昨日より軽い気がする」


アイリスが見る。

「食料を食べた分では?」


「俺が強くなった可能性は?」


「二日で?」


「ないとは言えない」


リリアが笑う。

「では帰る頃には、とても強くなっていますね」


「それいいな」


レインが先へ歩き始める案内役を見る。

「話しながらでもいいけど、置いていかれるよ」


五人も歩き出した。


午前のうちは、まだ道と呼べるものがあった。


細い。


草も生えている。


それでも、人が何度か通った形跡がある。


ところが昼前。


案内役が林を抜けたところで止まった。


その先。


道がない。


草地。


岩。


低い木。


遠くに山。


左右を見ても、人が歩いた線は見当たらない。


シリウスが言った。

「終わった」


アイリスが聞く。

「何がです?」


「道」


案内役はそのまま草地へ入る。


シリウスが慌てて続く。

「本当にここ?」


「ここだ」


「何もないけど」


「だから案内がいる」


簡単な答え。


でも、その意味は大きかった。


アルスは地図を見る。


ここから先。


線がほとんどない。


大まかな山。


川。


森。


それだけ。


自分達が今どこを歩いているのか。


地図上では。


点に近い。


アルスが方角を見る。


太陽。


遠くの山。


昨日渡った沢の流れ。


「今は南東くらい?」


レインも確認する。

「僕もそう思う」


案内役は何も言わない。


正解とも。


違うとも。


言わない。


シリウスが後ろを見る。


来た方向。


草。


すでに踏んだ跡がある。


でも。


風。


少し強い。


時間が経てば戻るかもしれない。


「足跡だけじゃ帰れないな」


アルスが頷く。

「絶対駄目だと思う」


草原では。


地形。


少ない。


木も。


似たものが多い。


だから。


遠くを見る。


正面。


山。


左。


少し低い丘。


右。


森の端。


レインが言う。

「大きいものを基準にしよう」


五人は一度止まり、振り返る。


帰る方向。


遠く。


昨日越えた岩壁はもう見えない。


代わりに。


少し離れた位置に、山の頂上が二つ並んで見える。


リリアが言った。

「あの二つ、形が違いますわ」


左。


丸い。


右。


尖っている。


アイリスが続ける。

「その間に、一本だけ高い木があります」


シリウスが笑う。

「あれなら分かりやすい」


アルスは記録する。


――帰路。

――双峰。左は丸、右は尖。

――中央付近に高木。


でも。


少し歩いた後。


振り返る。


高木。


位置が変わって見える。


双峰。


重なる。


「やっぱり見る場所で変わる」


アルスが言う。


レインが頷く。

「だから一つの地点だけ覚えるんじゃなくて、歩きながら繋ぐんだね」


点。


ではない。


線。


帰るための道は。


道そのものがなくても。


観測した場所を繋げれば作れる。


昼。


大きな岩の陰で休憩。


今日は風が強い。


そのまま座ると荷物に砂と草が付く。


五人は岩を風除けに使った。


案内役も同じ場所へ座る。


シリウスが携帯食を食べながら聞いた。

「ここって、毎回同じ道通るんですか?」


案内役が答える。

「だいたいは」


「だいたい?」


「天気、魔物、水場で変える」


アルスが顔を上げる。

「帰りも同じとは限らない?」


「同じ道を使えるなら使う」


「使えなかったら?」


「変える」


シリウスが少し嫌そうな顔をする。

「覚えてる意味なくない?」


案内役がシリウスを見る。


「覚えてなければ、変える判断もできない」


シリウスが止まる。


アルスも。


その言葉を考える。


道を覚える。


そのまま戻るためだけではない。


今。


どこにいるか。


本来。


どこへ向かえば戻れるか。


それが分かるから。


迂回できる。


レインが言う。

「基準が必要なんですね」


案内役が頷いた。


午後。


地形が少し変わる。


草地から。


岩が増える。


歩きにくい。


平らに見える場所でも、足元には穴。


石。


段差。


シリウスが前を見る。


「ここ、俺が先見た方がいい?」


案内役が振り返る。

「俺より前には出るな」


「了解」


でも。


シリウスの視線は。


前。


足元。


左右。


初心者ダンジョンの罠を見る時と同じになっていた。


人工の罠ではない。


自然。


それでも。


踏めば怪我をする。


少し進んだところで、シリウスが手を上げた。


「待って」


五人が止まる。


案内役も止まった。


前。


石の間。


細い隙間。


一見。


普通。


でも。


奥。


暗い。


シリウスが小石を落とす。


音。


遅れて。


下。


「穴ある」


案内役が見る。


それから。


初めて少しだけ笑った。


「よく見た」


シリウスの顔が少し変わる。


褒められた。


それだけ。


「ダンジョンの罠より分かりにくいな」


アルスも覗く。


深い。


落ちれば。


少なくとも怪我。


穴の周囲を回る。


案内役は。


別の道。


すぐ見つける。


でも。


シリウスが見つけなければ。


案内役が止めたのかもしれない。


分からない。


ただ。


今日は。


自分たちで見つけた。


少しずつ。


案内されるだけではなくなっている。


夕方が近付く頃。


遠くから水音が聞こえた。


川。


昨日までの沢より大きい。


案内役が川沿いへ向かう。


アルスは地図を見る。


「これ、載ってる」


かなり大きな川。


地図にも。


はっきり。


「重要な目印だね」


レインが言う。


シリウスが水を見る。

「渡る?」


案内役は首を振る。


「今日は渡らない」


川沿いを少し進む。


野営場所。


木が少し開けた場所。


水。


近い。


ただし。


川岸からは距離を取る。


レインが聞く。

「もっと水の近くじゃ駄目なんですか?」


案内役が川を見る。


「増水する」


空。


今は。


晴れ。


レインも見る。


「雨が降らなくても?」


「上流で降れば増える」


五人。


少し静かになる。


自分たちの場所。


晴れている。


だから。


安全。


ではない。


見えない場所の状況も。


影響する。


リリアが言う。

「川は便利ですけれど、危険でもあるんですね」


「水場は大体そうだ」


案内役の答え。


短い。


テント。


火。


周囲確認。


三日目の野営も。


かなり早く整った。


夕食。


保存食。


シリウスがアルスを見る。


「今日は疲れた日じゃない?」


「昨日も同じこと言ってた」


「今日は道なくなったぞ」


「それ、身体の疲れと関係ある?」


「精神的疲労」


アイリスが言う。

「毎日理由を作るつもりですね」


リリアが笑う。


アルスは少し考える。


そして。


収納魔道具へ手を伸ばした。


シリウスの顔が明るくなる。


「来た!」


「全部は出さないよ」


ガストンが用意した料理。


焼いた肉。


一部だけ。


取り出す。


まだ温かい。


それを。


保存食と分ける。


五人。


少しずつ。


シリウスが食べて。


黙る。


アイリスが見る。

「どうしました?」


「うまい」


「知っています」


「三日目に食うともっと旨い」


それは。


アルスにも分かった。


家。


離れた。


王都。


見えない。


道。


なくなった。


その場所で。


家の料理。


少しだけ。


食べる。


昨日より。


意味が違う。


レインが言う。

「全部一気に食べなくて正解だったね」


シリウスが少し迷う。


「……それは認める」


アイリスが驚く。

「珍しい」


「俺だって成長する」


全員が笑った。


食後。


五人は今日の経路を確認した。


アルスが地図。


レインが記録。


シリウスが地形。


アイリスとリリアも。


気付いた目印を出す。


細い道。


草原。


双峰。


岩場。


穴。


川。


今日だけで。


かなり多い。


レインが言う。

「帰るなら、まず川沿い」


アルスが頷く。

「その後、岩場。そこから双峰を基準に草原を戻る」


シリウスが聞く。

「細い道の入口、分かる?」


少し。


沈黙。


アイリスが言う。

「白い岩と二股の木」


リリアも。

「沢の音もあります」


シリウスが笑う。

「覚えてるな」


アルスも。


覚えている。


昨日のもの。


今日のもの。


繋がる。


案内役は少し離れた場所で。


何も言わず聞いていた。


五人だけで。


帰路を組み立てる。


正しいか。


まだ。


分からない。


でも。


少なくとも。


「案内役についてきました」


だけではない。


自分たちがどこを歩いたか。


説明できる。


夜。


アルスの見張りは。


レインと一緒だった。


川。


暗い。


音。


昼より大きく聞こえる。


アルスが言う。

「暗いと目印、かなり減るね」


「うん」


山。


見えない。


木。


ほとんど形だけ。


でも。


川。


音。


方向。


「昼に見たものと夜に使えるもの、分けた方がいいかも」


レインが言う。

「明日から意識しよう」


また。


一つ。


変わる。


冒険。


歩けば。


知らなかった条件が出る。


そのたび。


やり方を変える。


ダンジョンと。


何も変わらない。


ただ。


今度は。


壁も。


階層も。


ない。


アルスは暗い川を見る。


道は。


もうない。


それでも。


帰る方向は。


少しずつ。


見えるようになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。