第106話 道が細くなる
朝。
アルスが目を覚ますと、空はまだ薄暗かった。
最初に見えたのは、消えかけた火。
次に。
レイン。
少し離れた場所で周囲を見ている。
「おはよう」
「おはよう、アル」
見張りの最後。
夜中。
大きな異常はなかったらしい。
シリウスはまだ寝ている。
アイリスとリリアも。
案内役はすでに起きていた。
荷物をまとめている。
アルスも身体を起こす。
少し。
腰が重い。
地面。
硬い。
「寝床、やっぱり違うな」
レインが笑う。
「学園のベッドとはね」
でも。
動けないほどではない。
少し伸ばす。
肩。
脚。
問題なし。
全員が起きる頃。
空が明るくなり始めた。
朝食。
今日は昨日と違う。
普通の携帯食。
固いパン。
乾燥肉。
果物。
シリウスが一口食べて言う。
「昨日の夜との差がすごい」
アイリスが返す。
「昨日が特別だったんです」
「毎晩ガストンの飯がいい」
アルスが言う。
「一枠しかないから」
「増やそう」
「帰ってからね」
リリアが笑う。
食べる。
水。
荷物。
テント。
全員で片付ける。
野営地。
最後。
跡を確認。
火。
完全に消す。
ゴミ。
残さない。
そして。
出発。
二日目。
最初は。
昨日と同じ街道。
でも。
午前が進むにつれ。
変わる。
道幅。
少し狭くなる。
荷車。
減る。
畑。
ほとんどなくなる。
代わりに。
林。
草地。
岩。
人の手が入っていない場所。
シリウスが言う。
「昨日より、旅っぽい」
レインが前を見る。
「ここから先が本番かもね」
アルスは地図を見る。
大きな道。
まだ。
載っている。
でも。
細かい地形。
少ない。
小さな林。
岩場。
沢。
地図には。
全部はない。
案内役が一度止まる。
分岐。
右。
広い。
左。
細い。
見た目だけなら。
右。
歩きやすそう。
案内役は。
左へ入る。
五人。
少し驚く。
シリウスが聞く。
「そっち?」
「右は遠回りだ」
「地図だと?」
アルスが見る。
確かに。
右。
大きく曲がる。
左。
地図上では。
線すら細い。
でも。
通れる。
シリウスが笑う。
「こういうの、案内人いないと無理だな」
案内役が言う。
「今はな」
短い。
でも。
意味は分かる。
今。
覚える。
次。
自分達だけでも。
通れるように。
左の道。
細い。
二人並ぶと歩きにくい。
自然に。
一列。
案内役。
シリウス。
レイン。
アルス。
リリア。
アイリス。
しばらく歩く。
木。
増える。
視界。
狭い。
アルスが魔素を見る。
遠く。
小型反応。
いくつか。
近く。
なし。
シリウスは地面を見る。
足跡。
獣。
古い。
人。
一つ。
こちらも古い。
「人も通るんだな」
案内役が答える。
「冒険者が使う」
「一般人は?」
「ほぼ来ない」
そこから。
空気が少し変わった。
道。
ある。
でも。
誰でも使う道ではない。
冒険者。
商人。
案内人。
目的がある者だけ。
リリアが周囲を見る。
「静かですわね」
確かに。
昨日。
街道。
人。
荷車。
声。
今日は。
風。
葉。
鳥。
それだけ。
アルスは一度後ろを見る。
帰り。
こちらから見た景色。
木。
多い。
似ている。
「ここ、目印難しい」
レインも振り返る。
「何かある?」
アイリスが右を見る。
「白い岩があります」
大きくはない。
でも。
周囲。
茶色。
緑。
その中で。
少し目立つ。
シリウスが言う。
「その先の木、幹が二本に分かれてる」
リリア。
「左側に小さな沢」
アルスがまとめる。
「白い岩。二股の木。沢」
三つ。
セット。
レインが頷く。
「帰り方向からも見る」
全員。
少し進む。
振り返る。
同じ場所。
見え方。
違う。
白い岩。
半分。
木に隠れる。
二股の木。
逆に分かりやすい。
沢。
音。
聞こえる。
「帰りは木と音かな」
アルスが言う。
シリウスが笑う。
「本当に三つ意味あるな」
進む。
昼前。
小さな沢。
ここで休憩。
案内役が水を見る。
アルスたちも。
流れ。
匂い。
濁り。
問題なし。
ただ。
飲む前に。
処理。
簡単な浄化。
補充。
アイリスが言う。
「持ってきた水、減らしすぎない方がいいですね」
アルスも頷く。
「次の水場が使える保証ないから」
水。
補充。
でも。
満タンにしすぎない。
重さ。
考える。
収納魔道具の水。
緊急用。
まだ。
使わない。
昼食。
簡単。
短い。
シリウスが沢の向こうを見る。
「何かいる」
全員。
少し緊張する。
アルスも魔素を見る。
一。
中型。
近い。
茂み。
動く。
出てきた。
ボア系。
昨日。
足跡だけ見た魔物。
大きい。
猪に似た身体。
牙。
こちらを見る。
五人。
自然に。
動く。
レイン。
前。
アルス。
横。
シリウス。
反対。
アイリス。
後ろ。
リリア。
中央。
案内役は動かない。
見る。
ボア。
こちらへ。
来ない。
少し。
鼻を鳴らす。
それから。
沢へ。
水を飲む。
シリウスが小声で言う。
「戦わない?」
レインも小声。
「来ないなら」
アルス。
魔素。
普通。
敵意。
少ない。
ボアは。
水。
飲む。
少し。
こちらを見る。
そして。
去る。
全員。
そのまま。
シリウスが息を吐く。
「なんか拍子抜け」
案内役が言う。
「魔物を見たら全部倒すな」
シリウスが振り返る。
「危険じゃないんですか?」
「危険だ」
「なら?」
「だから近付くな」
少し。
間。
アルスが笑いそうになる。
でも。
分かる。
危険。
だから。
戦う。
ではない。
危険。
だから。
距離を取る。
それも。
選択。
レインが言う。
「ダンジョンだと向こうから来ること多かったからね」
アルスも頷く。
野外。
違う。
魔物にも。
目的。
水。
食事。
縄張り。
全部。
戦闘ではない。
「これは覚えないと」
午後。
道。
さらに。
細くなる。
途中。
完全に道に見えない場所もある。
案内役だけが。
迷わず進む。
シリウスが何度も後ろを見る。
アルス。
地図。
方角。
レイン。
周囲。
アイリスとリリアも。
特徴を探す。
ある場所。
倒木。
大きい。
苔。
片側だけ。
シリウスが言う。
「これは分かりやすい」
案内役が答える。
「使うな」
全員。
止まる。
「なんで?」
「倒木は腐る」
アルスが見る。
確かに。
今。
ある。
でも。
数年後。
なくなる。
いや。
数日では。
変わらないかもしれない。
それでも。
案内役は。
もっと長い目で。
道を見る。
レインが聞く。
「じゃあ何を使います?」
案内役。
少し周囲を見る。
「地形」
前。
小さな斜面。
右。
沢。
左。
岩の壁。
「木は変わる。草も変わる。地形は変わりにくい」
アルスは覚える。
地形。
優先。
その上に。
木。
岩。
音。
補助。
帰路。
一つ。
また。
作り方が増える。
夕方。
今日の野営地。
昨日より。
少し狭い。
岩壁。
片側。
反対。
林。
水場。
近く。
でも。
少し遠い。
シリウスが周囲を見る。
「昨日より守りやすそう」
レインが頷く。
「後ろが岩だからね」
アルスも魔素を見る。
反応。
遠い。
近く。
なし。
野営。
設営。
二日目。
動き。
昨日より。
速い。
誰が何をするか。
自然に。
分かる。
アルス。
火。
アイリス。
水。
リリア。
寝床。
レインとシリウス。
周辺確認。
案内役。
少し離れた場所。
自分の準備。
夕食。
今日は。
保存食。
シリウスが袋を見る。
「温かい飯、昨日だけ?」
アルスが笑う。
「まだあるけど」
「あるなら出そう」
「毎日使ったらすぐなくなる」
「じゃあいつ?」
「疲れた日」
シリウスが今日を振り返る。
「今日も疲れた」
アイリスが即答。
「基準が低いです」
リリアが笑う。
結局。
今日は保存食。
でも。
火。
ある。
湯。
作る。
硬いパン。
少し温める。
乾燥肉。
炙る。
それだけで。
かなり違う。
シリウスが言う。
「これでも十分うまいな」
レインが笑う。
「腹減ってるからね」
食べる。
夜。
今日は。
昨日より。
音が多い。
林。
遠く。
鳴き声。
何か。
動く。
見張り。
少し。
緊張。
アルスの番。
アイリスと二人。
火。
小さい。
夜空。
木。
星。
アイリスが小声で言う。
「王都、もう見えませんね」
アルスも振り返る。
当然。
壁。
塔。
何も。
見えない。
「うん」
「少し不思議です」
「何が?」
「昨日まで、帰ろうと思えばすぐ帰れる場所にいました」
アルスも思う。
今日は。
違う。
王都。
見えない。
道。
覚えないと。
戻れない。
それでも。
不安だけではない。
今日見た。
白い岩。
二股の木。
沢。
斜面。
岩壁。
一つずつ。
繋がっている。
「帰る道はあるよ」
アイリスが見る。
アルスは少し笑う。
「自分達で覚えたから」
アイリスも。
少し笑った。
「そうですね」
遠く。
何かの鳴き声。
二人。
すぐ周囲を見る。
でも。
近付いてはこない。
静かになる。
旅。
二日目。
道は。
昨日より細い。
でも。
五人が覚えた道は。
昨日より。
少し増えていた。




