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第100話 入口までが冒険

中級ダンジョンへ行くと決めた五人は、その日のうちに王都冒険者ギルドで詳しい説明を受けることになった。


いつもの受付ではなく、ミーニャが資料を何枚か持って奥の卓へ案内する。五人が席につくと、彼女は地図を一枚広げた。


「まず一番大事なことにゃ。中級ダンジョンは、初心者ダンジョンみたいに王都の近くに入口が見えてるわけじゃないにゃ」


シリウスが地図を覗き込む。

「前に聞いた、入口を探すだけで何年も掛かるってやつ?」


「そうにゃ。正確には、入口へ繋がるポータルの場所を知らないと見つけるのがものすごく難しいにゃ」


地図には王都から伸びる街道、その先の村や森林までは描かれている。しかし途中から先は、驚くほど情報が少なかった。


レインが聞く。

「案内人がいれば一週間以内でしたよね」


「片道にゃ。天候と魔物次第では伸びることもあるにゃ。それと、案内人がするのは入口まで連れていくところまで。帰り道は自分達で覚えるにゃ」


シリウスが顔を上げる。

「帰りは案内してくれないの?」


「最初から帰りまで誰かに頼ってたら、次から行けないにゃ」


「まあ、それはそうか」


アルスは地図を見る。初心者ダンジョンとはまるで違う。あちらは入口へ行けばすぐ探索が始まった。中級ダンジョンは、その入口へ辿り着くまでに何日も掛かる。


つまり。


「食料、ダンジョンの中だけじゃなく往復分が必要だね」


ミーニャが頷く。

「そういうことにゃ」


アルスは収納魔道具を見る。


五枠。


今までは薬、水、予備魔石、食料、空き枠。初心者ダンジョンならそれで足りた。途中で帰れば王都まで近いし、ポータルもある。


中級ダンジョンは違う。


入口まで数日。

そこから探索。

さらに帰路。


一つの道具だけに頼るのは危険だった。


「収納魔道具に全部入れない方がいいね」


アイリスが聞く。

「壊れた場合ですか?」


「それもある。落とすかもしれないし、使えなくなる可能性もある。最低限の水と食料は、今まで通り普通の荷物にも分けよう」


リリアが頷く。

「薬も分散した方が良いですわね。わたくしだけが全部持つのも危険です」


レインは資料の余白へ書き込んでいく。

「じゃあ各自が最低限持つ。それとは別に、共用品を収納魔道具へ」


シリウスが言う。

「テントは?」


ミーニャが答える。

「野営前提にゃ」


その一言で、五人は少しだけ静かになった。


グランフォレストでの野営経験はある。だが、あの時は実習だった。帰る日も決まっていて、場所もある程度管理されていた。


今回は違う。


自分達で行く。


自分達で戻る。


レインが尋ねる。

「道中の魔物は?」


「いるにゃ。初心者ダンジョンへ行く道とは比べない方がいいにゃ。ただし、案内人は危険な場所を避ける道を知ってるにゃ」


アルスが聞く。

「全部避けられる?」


「そんな道があるなら、冒険者はいらないにゃ」


「ですよね」


ミーニャが笑う。


資料を一枚めくる。


「次。水場はあるにゃ。でも絶対に使えるとは思わないこと。雨で濁ることもあるし、魔物が居座ってることもあるにゃ」


「だから水も多め」


「そうにゃ。ただし持ちすぎれば重い。そこを考えるにゃ」


ここで収納魔道具の価値が、また変わる。


重さ。


現時点の測定では、内部へ入れた物の重量は外部へほとんど影響しない。


水。


食料。


薬。


普通なら日数が増えるほど荷物になるものを、小さな道具にまとめられる。


でも。


容量は五枠。


アルスは少し考え込む。


シリウスが横から見る。

「また増やしたくなってるだろ」


「少し」


「中級行く前に改造とか言うなよ」


「言わないよ」


アイリスが笑う。

「少し迷いましたね?」


「迷った」


全員が笑った。


今あるものを使う。


必要だからと、その場で何でも作り直していたら出発できない。


レインが次の項目を見る。

「装備の修理用品」


「簡単なものだけにゃ。刃を整えるもの、紐、針、予備の留め具。全部直そうとする必要はないにゃ。直せないなら帰る。それも判断にゃ」


続いて野営道具。


火。


食料。


予備衣類。


雨。


地図。


方角確認。


魔物だけではない。


移動そのもの。


暮らすこと。


それが数日続く。


シリウスが資料を見ながら呟く。

「ダンジョン行く前の方が荷物多くない?」


レインが言う。

「中級ダンジョンに着いた後も使うからね」


「収納魔道具なかったら、かなり重そうだな」


アルスもそう思う。


研究室で作った時。


五個のリンゴが入った。


それだけだった。


でも。


水を入れる。


食料を入れる。


薬を入れる。


野営へ持っていく。


ダンジョンへ持っていく。


少しずつ。


意味が増えている。


ミーニャが五人を見る。


「あと、中級ダンジョンそのものについては、初心者ダンジョンみたいなつもりで行かないことにゃ」


アルスが聞く。

「具体的には?」


「分からないことが多いにゃ」


「それだけ?」


「それが一番大きいにゃ」


初心者ダンジョンには情報があった。


階層。


罠。


魔物。


ボス。


ポータル。


冒険者ギルドが長い時間を掛けて集めた資料を使えた。


中級ダンジョン。


情報が少ない。


つまり。


自分達で確認する割合が増える。


シリウスが少し笑う。

「俺達向きじゃない?」


アイリスが見る。

「危険が増えるという意味ですよ」


「分かってる。でも見るしかないなら、俺達いつもやってるだろ」


アルスも笑った。


確かに。


分からないなら。


見る。


試す。


戻る。


記録する。


それは今までと同じだった。


ただし。


間違えた時の危険が。


大きくなる。


そこだけは忘れない。


説明が一通り終わると、ミーニャは最後に小さな紙を出した。


「案内人はギルド側で手配するにゃ」


レインが聞く。

「いつ出発できますか?」


「学園側との日程調整が終わればにゃ。往復だけでも日数が掛かるから、普通の休日だけじゃ足りないにゃ」


五人が顔を見合わせた。


そこで。


アルスも気付く。


長期休暇。


学園へ入ってから初めての、まとまった休みが近付いている。


レインが言った。

「最初の長期休暇ですね」


「それが一番現実的にゃ」


中級ダンジョン。


行くと決めても。


すぐには行けない。


初心者ダンジョンとは違う。


日程を空ける。


装備を整える。


道中の食料を用意する。


案内人を手配する。


帰り道を覚える準備をする。


入口へ辿り着く。


そこまでやって。


ようやく。


探索が始まる。


ギルドを出る頃には、空が少し赤くなっていた。


シリウスが歩きながら言う。

「俺、中級ダンジョンってポータルで飛んで行くと思ってた」


アイリスが笑う。

「入口のポータルを探しに行くのに、そこへ飛ぶポータルがあったらおかしいでしょう」


「言われればそうだけど」


リリアが言う。

「一週間近い旅になるなら、準備も楽しそうですわね」


レインが少し笑う。

「遊びじゃないよ」


「分かっています。でも五人で何日も一緒に行動するのは初めてですから」


その言葉で。


少し空気が変わる。


今まで。


学園。


研究室。


ダンジョン。


休日。


一緒にいる時間は長かった。


でも。


何日も。


朝から夜まで。


五人だけで移動する。


野営する。


また歩く。


それは。


初めて。


アルスは前を歩く四人を見る。


中級ダンジョンへ行く。


その前に。


旅がある。


そして。


最初の長期休暇。


まだ知らない場所へ行く時間が。


少しずつ。


近付いていた。

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