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無意識の寂しさ

 ビーはリビングのソファでうたた寝をしていた。


「また? そんなとこで寝てたら風邪ひくよ」


 そう言われた気がして、ふと目が覚めた。

 見回しても誰もいない。


 そうだ。

 今日は別の用があり、普段入り浸っているシャイナはまだ来ていなかった。入り浸っているというより、ほぼ家感覚だが。

 祖父母も今日は友人たちに誘われて、出かけていた。


 時計が秒針を刻む小さな音さえ響くほど、静かでがらんとしている。

 両手で自分を小さく抱きしめた。

 なんだか部屋が普段より広く感じて、急に寒くなった。


 変だな。


 カランコロンと店側入り口のベルが奥で鳴った。来客かと思ったが、声が掛かることはなく、足音がそのままこちらに向かってくる。

 反射で立ち上がり、リビングの扉へと向かう。

 軽い足音、聞き覚えのある歩幅のリズム。

 その意味を理解して、妙に急ぎ足になった。


 こちらの手が届く前に、先に扉が開いてシャイナが顔を出した。


「うわ、びっくりした。ビー、なんでここに? どっか行くところ?」


 目の前に自分がいたので、シャイナは驚いたらしい。


 いつもの顔。

 見慣れた笑う表情。

 耳に染み込むような声。

 

 体から冷たさが抜ける。


「いや、お前を迎えに来ただけだ」


 シャイナが何度か目を瞬きさせて、少しだけ赤くなって笑った。

 そのほころんだ顔が、また体に熱を呼んだ。


 シャイナの手が伸びてきて、頭を撫でる。銀髪を少し掬い、指先が何度か梳く。


「何してたの?」

「ソファで本読んでたけど、寝てたらしい」

「また? そんなとこで寝てたら風邪ひくよ」


 今度はこちらが瞬きをする番だった。

 心の中にその言葉がすんなり落ちる。

 思わず口角が緩んだ。

 こちらの小さな驚きを、案の定すぐにシャイナが拾う。


「どした? オレなんか変なこと言った?」

「いや、幻聴でもそう言ってたから」

「幻聴?」

「こっちの話だ」


 シャイナの手を取って引く。

 自分より少し大きな手。骨ばった指の形、剣を握って硬くなった手のひらも、ずっと知っている。


「ほんと、どうしたの?」

「何がだ?」

「普段ビーから手なんか引かないじゃん」


 ソファに腰を下ろすと、シャイナもいつも通り隣に座ってくれた。

 それだけで不思議と気持ちが柔らかくなった。

 シャイナに体重を預けると、その体が一瞬ぴくりと強張るが、すぐに解ける。

 シャイナの体温が伝わってきて、体から力がするりと抜けた。


「お前がいなかったから、なんか部屋も広いし、寒かった」

「…………それ、わざと言ってる?」

「いや、ほんとだ。今はなんだかあったかいし、ちょうどいい」

「……そっか」

「なんだ?」

「オレがいると、あったかいんだなと思って」

「実際そうだろ」

「……うん」


 シャイナの腕が、遠慮がちに背中へ回る。

 少し体温が増したが、それが心地よく感じた。


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